逆噴射小説大賞2019:エントリー作品

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アルフォンス・ミュシャ:死季

これがミュシャか――暗殺者はそう思った。ひび割れたような肌の深い皺に、柳の枝を思わせる長い髭。藤椅子に浅く腰掛け、現世を忘れたかのごとく微睡んでいた。初代ボヘミア皇帝にして最強の魔術師、アルフォンス・ミュシャは当年とって79歳になる。

 燭台が照らす暗い広間の隅で、殺し屋は肩透かしを食ったような気分で短刀を手に取った。そしてその瞬間、自分が死地の只中にあることを知った。

「解れよ」呆けたように

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