逆噴射小説大賞2019:エントリー作品

632

ビブリオクラストの愉悦

空中に放り出された一冊の小口が開き、蝶のように夜空を羽ばたいた。滑空した図書は花に留まり蜜を吸うように、自然な仕草で華奢な左手に収まった。
 「いつも通り、本は私を愛してる」
 彼女は駆け始めるのと同時に左手の書冊を捲り上げ、足よりも速く手と目線を動かした。口がほころび、時々何かを小声で呟く。たまに鼻を鳴らす。
 拳が、警棒が、銃が、人垣が、トラップが彼女の行く手を遮ろうとするが、彼女は追跡には一

もっとみる