逆噴射小説大賞2019:エントリー作品

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記事

『左手、落としとく?』

「はじめまして、ずっと前からあなたのことが好きでした」

 松本空港の竜皇回廊口を抜けてきた彼女は、開口一番そう言った。

「私の名前はステラルラ・ドラゴニュート・トニトルス。先輩たち地球人がドラゴ・テラと呼ぶ世界から来たっす。一ヶ月、どうぞよろしくっす」

 くだけた日本語でそう言うと、彼女はぺこりとお辞儀した。直角に腰を折った見事なお辞儀だった。きれいなつむじが目の前にあった。色素の薄い髪が細

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さらに参るぞ
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【キル・ゼム・柳生正宗】

……ねばついた熱気がさ迷う夜のことだった。

空には淀んだ大気越しのおぼろ月と、目を凝らさねば見えない六等星。明かりとしての能力は期待できそうにない。
この東大寺大仏殿前という、深く長い歴史を湛えた仏閣を照らす光も、その滲んだ満月と、まばたけば盲点にかき消えそうな星しか無かった。気休め程度に八角燈籠が灯ってはいるが、光度は月とどんぐりの背比べ。光源としては頼りない。

手を伸ばせば夜闇に腕が呑まれ

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