逆噴射小説大賞2019:エントリー作品

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グッバイ、オールドマン

「親父ィ、死んでくれ」

 銃口が私のこめかみに向けられていた。
 5年ぶりに再会する息子の姿。
 酷く痩せこけて骨と皮ばかりの相貌。その中で縦に裂けた金色の瞳だけが爛々と燃えるようにギラつき異彩を放っている。

 蹴破られた書斎のドア越しに倒れている、頭部を撃ち抜かれた部下の死体を見るにどうやら伊達や酔狂ではないらしい。

「なっ──」

 連続する銃声。
 3発の弾丸が、私の頭蓋に叩き込まれた

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ありがたき幸せ。あなたにも幸あれ
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炎の日

炎が猛る。黒い中華鍋の底を炎が舐める。炎の情熱はその向こう側の食材どもの身を熱く焦がし、中華鍋を握るものはそれを望んでいる。

「臭い。とても耐えられない。とても」

「バカ、耐えろよ。死にたくなきゃ」

 炎が猛る。中華鍋を握るものは、縦に四つに割れたまなざしのない顔を、中華鍋の上で踊る食材に近づけ、匂いの具合を確かめる。そしてそれが喉の奥からやや粘着質なうなり声を絞り出したかと思うと、それの頭

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