逆噴射小説大賞2019:エントリー作品
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本
ドラゴンリトルシガー1カートン3ミリ
出勤前にタバコに火をつけたら、景色がファンタジーになった。
「は?」
俺は混乱したが町の人のほうが驚いている。壺を落とす男もいれば知らない言葉で叫ぶ女性もいる。俺はとっさに路地裏へ逃げ込み、いつものクセでタバコに火をつけた。
今度はまた玄関だ。
「……そういう仕掛けか」
俺は頷いた。通勤途中でマンガを読んでいたのが活きた。ひとまずタバコとライターを金庫にしまい、俺は出勤した。
鏡飆〈かがみ〉の技代記〈テクノクル〉
天涙はいよいよ極まってきた。横殴りにざあざあと叩く滴は、撥水加工を施した飛貂のコートの上からでも痛みを伴う程で、イカィツ・ウメアはその瑠璃色の瞳孔をきゅっと細めた。
視覚でも〝歯〟覚でも、視える世界は漆黒の高密度な泣雲の塊で、ウメアに対してこっちに来るなと哭いて拒絶をするのだった。
この泣雲海を、横断する。
それも飛行機で。
空前にして、これから続く全ての飛行機乗りへと繋がる大業績になる