逆噴射小説大賞2019:エントリー作品

632

月の光が人を焼く

私を縛る縄が痛いけど、舌の感覚もなくなったから言えなかった。
 殴られすぎて頭がパンパンに膨れてぼーっとしてきた時、事務所のドアが開いた。
「待たせたな」
 とても背の高いムキムキな黒人が入ってきた。私の首なんか簡単にもぎ取れると思う。
「おっ、ゴリラケーキ。よく来たな」
 チビハゲが血だらけの革手袋を床に放って言った。
 黒人は私に近づいた。顔をじっと見てから、私の涙を拭った。殺しに慣れた人の目

もっとみる
ありがとよ
17

海鳴〈いの〉りの祝祭

乾き切って埃っぽい朝未の空気が、頬と髪を撫ぜる。私はふと海鳴りの音を聴いた気がして、顔を上げた。
 勿論そんな筈はない。目の前に広がるのは、茫漠と続く、起伏の激しい赤茶けた大地。そこに転がるのは無数の船と飛行機や宇宙船の残骸。かつて関西国際宇宙港と呼ばれた施設だったものだ。
 人類は、海を盗まれた。
 全海洋強奪事変。七つの大洋に湛えられていた13.7億立方Kmの海水と、そこで暮らしていた生物達を

もっとみる
キラークイーンは既にスキボタンに触れている!
85