逆噴射小説大賞2019:エントリー作品

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幻影の山形芋煮空港

開始から2時間。山形空港愛称検討委員会の最終決定会議は軽傷2名、重傷1名を抱えたままデッドロックに陥っていた。
だだっ広い会議室の反対側では、庄内空港愛称検討委員たちが虫の息で横たわっている。
時間がない。おれは覚悟を決めた。

「ご、5票、過半数のため愛称は『山形芋煮空港』に決まりま」
1時間前、哀れな議長は開票結果を言い終えることができなかった。
爆散した開票箱が彼の顔面をさくらんぼジャムに変

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赤帽の配管工、百億回目の...

数億回跳び、数億回死んだ。

インパール行軍から37年。

誰もが知る男の、誰も知らない物語。



「引退しろよ…」
緑帽のノッポさんは、仕事場に向かう赤帽の配管工を引き留めた。

「バカ言うな。跳ぶことが俺の勲章だ」髭を撫でる配管工。

「昔の兄さんは、ゴリラが投げる樽を飛び越え、火の玉を跳び避けていた脇役だった…」

「あのチャンス、与えられた3度の命で俺の人生は変わった。
始めは地獄かと

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Thank You! あなたのタップが私の生きる糧です!

冥竜探偵かく記せり

被害者は雷竜、性別は雄、年齢は今日で五百才になるはずだった。
死因はそう、まるで東方で作られるというチクワの如く、全身が輪切りにされた事によるものだ。

「彼の生誕を祝いに来たらこれとは何と因果な……」

私は自身の黒曜石の如く艶めく分厚い鱗を軋ませながら、二人で食べるはずだった甘酸っぱい竜珠果のケーキを彼の遺体の前に備えると静かに黙祷する。

「ケーキは私一人には幾分多いが致し方ない、後程一人で

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吉:カタナ

まなこの魔女

 セヴァストポリの野戦病院の片隅で、砲弾の破片を腹に受けたアレクセイは死につつあった。彼が砲弾の音を遠くに聞き、汚らしい天井を眺めながら思い出していたのは、子供の頃に「まなこの魔女」の閨を訪れた秋の日のことだった。

 13歳のアレクセイは、森の中にあるという魔女の閨を求め彷徨っていた。その左目は包帯で覆われている。森は深く、木々に繁る葉は黄や赤に色づき燃えるようだ。見上げれば木漏れ日が白く光り滲

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