逆噴射小説大賞2019:エントリー作品

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記事

ヘルムズ

遥々赴いたコルカタでエニ=リーが目にしたのはまたも兜と地獄だった。

対兜強襲部隊「イナバ」のクイ・スーツ部員200名の大半は、既に死体となって積み上がっている。最新型の対兜用クイ・スーツ達の背中には無数の矢。白銀だったペイントは赤褐色へ変わり、ヘルメットの『打垮_盔 脱兎』の文字は砕けた。
見上げると矢の群は未だ宙を旋回していた。

(苦しい、あまりにも苦しい!)

「莉ョオッ!」

死体達

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幻影の山形芋煮空港

開始から2時間。山形空港愛称検討委員会の最終決定会議は軽傷2名、重傷1名を抱えたままデッドロックに陥っていた。
だだっ広い会議室の反対側では、庄内空港愛称検討委員たちが虫の息で横たわっている。
時間がない。おれは覚悟を決めた。

「ご、5票、過半数のため愛称は『山形芋煮空港』に決まりま」
1時間前、哀れな議長は開票結果を言い終えることができなかった。
爆散した開票箱が彼の顔面をさくらんぼジャムに変

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赤帽の配管工、百億回目の...

数億回跳び、数億回死んだ。

インパール行軍から37年。

誰もが知る男の、誰も知らない物語。



「引退しろよ…」
緑帽のノッポさんは、仕事場に向かう赤帽の配管工を引き留めた。

「バカ言うな。跳ぶことが俺の勲章だ」髭を撫でる配管工。

「昔の兄さんは、ゴリラが投げる樽を飛び越え、火の玉を跳び避けていた脇役だった…」

「あのチャンス、与えられた3度の命で俺の人生は変わった。
始めは地獄かと

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Thank You! Have a nice day! 良い一日を!
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テルヒコの真っ赤なウソ

テルヒコはチェイサーの黒ビールを一気に飲み干した後、
 人生で初めて思い切り女に殴られ吹っ飛んで血を吐いた。

「この嘘吐き」

 (痛い!)とテルヒコは呟いた。

 知ってのとおり、テルヒコの人権は法令実験都市_火鳴姫市には殆どなかった。市民ポイントが-2656ptだったからだ。フィクションが許されず広告も流せないこの街で、嘘吐きに人権などあるわけがない。

 このホコリ臭い飲み屋の連中は一度

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ご注文はセルフサービス

最近の回転寿司には、とんでもないものが回っているらしい。

目の前の注文ディスプレイには、7つの大まかなジャンルが表示されていた。

1 季節のおすすめ
2 握り寿司
3 軍艦・巻物
4 サイドメニュー
5 ドリンク
6 ツール
7 トラブルシューティング

ああ、何故だ。何故横文字ばかりなんだ。寿司だぞ、寿司食うのになぜ横文字が必要なんだ?

「ゴチュウモンハオキマリデスカ」
いきなりデ

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グァリノ・ザ・オーバードーズ

「グァリノ、また『ジョシコーセー』のこと調べてるの?」

『キボウ』というリソースが消えて早三十年あまりが経ち、アンドロイド共が検証と称して人間の営みを真似するのにも慣れてきたころ。

 黒いレザージャケットを着た鉄屑。
 グァリノは今夜も、概念としての酒場のテラス席に座りながら、中央政府から提供される広大なデータ沼にアクセスしていた。
 もう日が暮れている。
 夜空にはいつものごとく時報代わりの

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冥竜探偵かく記せり

被害者は雷竜、性別は雄、年齢は今日で五百才になるはずだった。
死因はそう、まるで東方で作られるというチクワの如く、全身が輪切りにされた事によるものだ。

「彼の生誕を祝いに来たらこれとは何と因果な……」

私は自身の黒曜石の如く艶めく分厚い鱗を軋ませながら、二人で食べるはずだった甘酸っぱい竜珠果のケーキを彼の遺体の前に備えると静かに黙祷する。

「ケーキは私一人には幾分多いが致し方ない、後程一人で

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大凶:大太刀「奈落」
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ブラック・カンパニー・ブレイカー//KA-ZU-YA

「社畜、死すべしッッ!!!」

 激しいモーター音とともにサラリーマンが二人、勢い良く吹っ飛んだ。

 炸裂したのは蹴りだった。叩きつけられたオフィス窓は割れ、ガラスのシャワーは血飛沫に混じった。

「ヒッ」

 身を震わせ初老の男が目を見開いた。
 視線の先に薄汚れた安スーツの青年が映った。

 KAZUYAだ。

 垂れ下った黒髪から歪んだ口元が覗く。

 蹴り上げられた馬脚のような大臀筋、

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まなこの魔女

セヴァストポリの野戦病院の片隅で、砲弾の破片を腹に受けたアレクセイは死につつあった。彼が砲弾の音を遠くに聞き、汚らしい天井を眺めながら思い出していたのは、子供の頃に「まなこの魔女」の閨を訪れた秋の日のことだった。

 13歳のアレクセイは、森の中にあるという魔女の閨を求め彷徨っていた。その左目は包帯で覆われている。森は深く、木々に繁る葉は黄や赤に色づき燃えるようだ。見上げれば木漏れ日が白く光り滲ん

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センダイ・グレイブ・ブレイカーズ

空はぶちまけたバーボンの色で。

 それは眠りに落ちそうな俺の瞼の上に重くのっかかってきた。緩やかなエンジンの振動がいっそう濃いものにする。
 午前中に西日暮里を出た俺らだったが、まだ目的地には着きそうにない。

 三度目のドライブスルー、バイバイ那須高原。
 ジェイガスはアメリカンドッグを頬張りご機嫌な様子だった。
 俺は10分前に吐き出した『エタノールみたいな味のするウイスキー』の代わりに

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