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逆噴射小説大賞2018:エントリー作品収集

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「逆噴射小説大賞」とは、ダイハードテイルズ出版局が主催し、社会派コラムニストの逆噴射聡一郎先生が審査員に加わる、コンテンポラリーで由緒あるパルプ小説大賞です。今回の本文文字制限は…
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#ファンタジー

創世巨人のゼナン

創世巨人のゼナン

「おはよう、被検体49号。言葉はわかるよね」

突如現れた異界の科学者。彼のもたらしたクローン技術は世界を変えた。最強戦士のクローン、伝説的剣士のクローン、選ばれし勇者のクローン…その力は邪を圧倒し、人の世は平和になった。

…はずだった。

「僕の名はマガタ。人間に滅ぼされた魔王のクローンだ。

そして彼は偉大なる夜の一族、その始祖のクローン。あっちのは大陸を腐海に沈めた魔導士のクローンで、僕ら

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花の婚礼

花の婚礼

それが何年前の出来事だったか、今となっては定かではない。

僕と友人は長い休暇を利用し、遥か異国の街へと観光に来ていた。

華麗な建造物の合間を縫うように、強い日差しを照り返す石畳の坂道が、上へ下へと曲がりくねりながら、どこまでも続いている。

2頭の驢馬が、大きな果物籠のような荷台を背に乗せ、急な坂道をゆっくりと進む。
それぞれの荷台で揺られているのは、僕と友人、そして観光客一人ずつについている

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星切り迷い星

星切り迷い星

昔々、太陽と月と星とが同じ空にいた頃の話です。

ある時、父の太陽と子供の星々が仲違いをしてしまいました。
母の月は、仲直りの為に太陽と星々とを説得しました。
しかしそれでも星々は北極星に連れられて出ていきました。
そしてこの世は昼と夜と二つに分かれたのです。

月は皆を愛しています。
そう、月は今でも皆を仲直りさせるため、
昼と夜とを行き交っているのです。

そして明けの明星と宵の明星だけは、

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邦題:ニンゲンスレイヤー・聖都炎上(原題:“ユースレス”・ザ・ゴブリン)

邦題:ニンゲンスレイヤー・聖都炎上(原題:“ユースレス”・ザ・ゴブリン)


巣穴が。炎上している。◆◆◆
私が生まれた時、兄弟達は笑い、燥ぎ、顔を顰めていた。

私は兄弟達から見て異形だった。

私の腕は兄弟達の様に器用に道具を使う事も、剣を持つ事も出来なかった。しかも兄弟より腕が二本多く、その二本はこの巣穴では何の役にも立たなかった。

だから私は“役立たず”と名付けられ、鎖で繋がれるのも、食事が兄弟の残飯で有ることも当然だと思った。

ただ私にも兄弟より長けているモ

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ハロウィンナイト・コー!ホー!

 ハロウィンは祭では無い。商戦だ。セールス・コンピューターと呼ばれる俺の仕事はこの戦いを制することである。

「…という訳で暫く忙しい」

「ふざけんな!」

木杭が撃ち込まれるが、難なく躱す。

「分かってるのか!?私たちはモンスターなんだぞ!?」

「だから?」

「絶対ハロウィンの人気者になれるだろ!」

オオカミ女の妻 シーラはイベント好きだ。今回も随分はしゃいでるようだ。

「シーラ、こ

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「ナイトバード」

同級生に名前を呼ばれた。現実で、ではない。

未だ昼前、私は世界史の授業の最中にあり、教室に響く声は教師の物だけだ。その同級生も別のクラスで同じ状況にあるはずだった。

しかしそれは幻でもない。声が聞こえた瞬間から私の視野は、左右の目で別の絵を見るように、現実の教室風景と同時に全く違う景色を捉えていた。

胎金界。魔術の世界、私の知る唯一の平行世界。同級生の平衡存在は石壁の倉庫で蹲り、無闇矢鱈にあ

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エイリク大陸物語①「獅子王と甲冑の騎士」

エイリク大陸物語①「獅子王と甲冑の騎士」

0.王都にて

 夕刻、黒馬に乗った騎士がただ一人出陣した。黒光りする甲冑は禍々しく、その下の素顔を見たものは無い。もっとも<<英雄殺し>>が王城から出ることは少ない。英雄マルスがあのように討たれてからは特に。

 また一人希望の担い手となっただろう少年が死ぬ。<<英雄殺し>> の行軍を目にした者は皆、顔も知らぬその子の為に祈った。

 しかし、行軍が目的地に近づいてくると人々の反応も変わった。今

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餓老妖精奇譚

餓老妖精奇譚

妖精は今回の試練に興味津々だった。これまで来た者といえば、尊大な貴族や英雄気取りの騎士ばかり。
今回来たのは老人、しかも年齢にそぐわぬ引き締まった体。試練を失敗すればそれまでだが、きっとやりおおせるという予感があった。

これは暇を持て余した湖の妖精の気まぐれであった。
適当にでっち上げた試練を成し遂げれば、自分の愛以外であれば、金銀財宝でも死者蘇生でも願いを叶えるといって送り出す。忠告を与えたの

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テァン、無双を舞う

テァン、無双を舞う

「生命の本質は振動だ。わかるな」
「はい、先生」

テァンは静かな息を吐き、自らの内奥へと心を移した。

ドク、ドク、ドク…

心臓の鼓動。体の脈動。己を構成する微細な分子の律動。風が吹きわたり、テァンの髪を揺らす。感じる。駆ける動物達。鳥のさえずり。命のやり取り。生命の鼓動。大地。すべてが振動している…。

テァンは目を見開く。

目の前には斧を振りかざした男。テァンは流れる動きで男に触れる。

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『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」

『元傭兵デリックの冒険』より「力鬼士(リキシ)の洞窟」

「ファック野郎!」

スコップを振り下ろし、襲い来る力鬼士の指をぶった切る!
「ギァーーッ!」指は土に還る。力鬼士は後退し、チッチッと音を発した。仲間を喚んでいる! ボゴン! ボゴン! 床や壁から力鬼士が這い出す。囲まれた!「くそったれ……! まさか、実在するなんてな!」

デリックはスコップを振り回して威嚇し、事の発端を思い出す。



「父を、助けて下さい!」デリックの店に飛び込んで来た少女

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クリスティ~魔女と秘密の英雄~

クリスティ~魔女と秘密の英雄~

何者なのだ、この男。
闇の歩き手、千年を生きる古き者、女の中の女にしてこの国の魔女を統べるエマ様の館なのだぞ。何故これだけの魔力の罠と攻撃の中を平然と歩ける。

もはや、側仕えであり近衛である我々の全力を出すしか無い。この魅了術(チャーム)で奴が完全な下僕になっても構うものか。目でソフィアに合図し、同時に術を放った。しかし男は小さく会釈しただけだった。

「術が効かないなんて――」

男が微笑んだ

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【習作】白磁のアイアンメイデン 第1話 「踏んでさしあげますわ」その1

彼、魔術師ヘリヤがそれを目撃した際、彼が己の正気の確かさを疑ったのも無理はないだろう。なにせここは泣く子も歴戦の傭兵も黙るラシュ平原、通称“忌み野”であり、彼はそこを、かれこれ二週間ほどさまよっていたのだ。

まして彼が見たものが“執事とメイドに見守られながら、屈強なリザードマンの群れに跳び後ろ回し蹴りをぶちかます女”となれば。

しなやかな体のラインを強調する真紅の衣装に身を包んだ女は、舞うよう

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剣の魔女と魔具の迷宮

剣の魔女と魔具の迷宮

交錯の瞬間、勝敗は決した。

オーガの棍棒はエルザの銀髪を掠めたが、【魂喰い】の刃が入れ違いに心臓に突き立てられたのだ。

ドクン…刃が赤黒く、朧に輝く。エルザは更に刃をねじり込み、無造作に薙いだ。断面から血と臓物が溢れ、オーガが崩れ落ちた。

エルザは刃を振って血を払い、ランタンに焚べる。炎はオーガの脂を得て勢いを取り戻した。

…数年前。王都の東に突然地下迷宮が現れた。宝物と危険に満ちた迷宮は

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滅びの時に

滅びの時に

神聖都市ウルト。
その地下に張り巡らされた回廊の闇の中、一人の男が歩んでいた。彼の名はラグナ。ウルトの若き神官長である。

蛇や鷲、そして聖なる猛獣に変容していく人間…ラグナの持つ灯が壁を照らし、神秘的なレリーフが浮かんでは消える。闇と静寂の中、回廊に流れる水音だけが響いている。

回廊最奥の広場状の空間、その中央には巨大な石柱がある。石柱には半人半獣の神人、8頭の鷲、そして20匹の大蛇が渦を巻き

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