逆噴射小説大賞2018:エントリー作品収集

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夜叉天楼~血まみれのけだもの達~

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 おれの周囲は、すべて写真に変わった。

 商売女の悲鳴。
 監視カメラの視線。
 落ちる酒瓶。
 跳ね飛ばされるドア。
 通りを行く人々。
 呼吸が荒い。張り詰めた神経のせいで肩はこわばり、口は潤いを忘れた。足はただ一つの命令に従い、前進を続ける。

 動け! 〇・一秒前よりも先へ!

 首から上はまるで別人のものになってしまったかのように

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【冒頭】虚構狩り

残っていたのど飴を噛み砕き、スイッチを押し込む。
 排出弁が開き、存在圧が徐々に低下していく感覚はビニール風船の空気を抜いていく感じ。身体感覚がしなびていくにつれて眼下、暮れなずむ片側三車線の交差点の横断歩道付近に、ぼんやりと光る『虚構』の輪郭が見えてきた。

「俺より前に出るなよ。巻き込むかも」

 ギンジさんはもう稀薄状態で、得物の柄に手をかけていた。私は遅い。薄くなるのも虚構狩りもこれが初め

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【冒頭】不死なるものに極刑を

「カンダルダの山腹に屯す五人の内に一人」の予言を受け、不死人狩りに出た騎士団員は十四名。いずれも単騎で巨人をいなす粒ぞろい。しかし、獰猛な山脈の腹まで命あって辿り着いたのは僅か六名であった。否、それも今、五名になった。滑落したゴントをどうするか、彼らは目くばせし合った。誰もがやつれ果てていた。ロハスルが「拾おう」と言った。「もうじき霧が出る」とユーナンが暗に反対したが、生真面目なトゥヌは既に黙々と

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【冒頭】かまいたちネゴシエ

平日、午後六時五十六分、乗換ハブ駅は退勤ラッシュ。彼女はスーツ。黒くて腰まである長い髪。エキナカで買った詰め放題のクッキー。エナメルのバッグ。決然とした足取りのパンプス。
 彼女は不意に振り向いた。

「あ、給料日だ」

 長い髪がなびき、キューティクルの切っ先が、真後ろを歩いていたサラリーマンの顔面をぱっくりと引き裂いた。血しぶきが飛んだ。頭蓋骨がすっぱり切断され、断面の綺麗な脳塊がしたたり落ち

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【冒頭】モンピートン、彼のための宇宙

まだ何もなかったが、閉じた水門のきわには意味深げに上流から流れ込んできた廃材が溜まっていた。鋼鉄加工廃棄物とプラスチックごみ、期限が切れた工業用の人工シナプスが少し。不法投棄の廃油が大量。爆弾低気圧が投げ捨てた雷が数億ボルト。まだ何もなかった。
 集中豪雨の後、油膜の浮いた溜め池で羽化した、もろっとしたトンボが一匹、帯電した産業廃棄物の上にとまった瞬間、溶けて染み込んで消えた。瞬間、彼は堆積物の中

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