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逆噴射小説大賞2018:エントリー作品収集

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「逆噴射小説大賞」とは、ダイハードテイルズ出版局が主催し、社会派コラムニストの逆噴射聡一郎先生が審査員に加わる、コンテンポラリーで由緒あるパルプ小説大賞です。今回の本文文字制限は…
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#人がこれから死ぬ

朋友よ、冷たい朝に眠れ

朋友よ、冷たい朝に眠れ

「アルファさん、サーセン、遅くなりました!準備に手こずって!」
駅前。手を振りながら駆け寄ってくる、柄の悪い坊主頭は牧ちゃん。俺の友達だ。

◆◆

「つーか、アルファさん、ネットだとイキってた癖に、いざ会うとフツーに普通のオッサンっすね!」
牧ちゃんが豚足を頬張りながらゲラゲラと笑う。
「うるせえな!そっちこそガラ悪過ぎでしょ!」
俺も負けじと麻婆豆腐を流し込み、店員におかわりを頼む。
二人の間

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エッテクルッバの森

エッテクルッバの森

「王様は死んだ! 王様万歳!」

血塗れの棍棒を持つ若い男に、蓬髪の老人はそう呼びかけた。
今からこの男が王だ。王を殺したのだから。男は震える声で問う。
「お前も、俺を殺すのか?」
「んにゃ。わしゃ殺されとうないでな。見届けるだけだ」

某県の深い山中。日本中から犯罪者、無宿者、多重債務者、自殺志願者、狂人、徘徊老人、不法難民、その他諸々が集った廃村。そこには人知れず、小さなコミュニティが形成され

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恋多き髑髏伯爵

恋多き髑髏伯爵

黄金城は今日も空を征く。

「イゴール!イゴールよ!」

大広間に髑髏伯爵の声が響く。黒装束。マント。異形の髑髏銀仮面。

「どこに向かっているのだ!北へと向かえ!」
「我が主よ。アドリアナ夫人に求婚に向かわれるとのことでしたので、メキシコへと」
「それは過去の話だ!私は新たなる熱情を求めている!」

彼は善人ではなかった。

「彼女は己の道を歩むであろう! そうだ、ソビエトだ!彼の国の女王を一目

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ドラスタルの魔騎

ドラスタルの魔騎

バオオオオオオン!轟音。石畳の街道を、鉄馬が駆ける。黒く巨大な殺人バイクだ。
腕を組み、傲然と騎乗するは虹色モヒカンの巨漢。周囲に超自然の風を纏い、両眼をギラギラと輝かす。

「ヒャッハ!ヒャッハ!」

奇妙な掛け声をあげる主人を乗せ、鉄騎は猛然と進む。呪文だ。異界由来の蛮族ボウソウィに伝わる禁忌の魔術。巨漢がおもむろに両腕を広げるや、その背後に数十の鉄騎兵が出現する。隠匿の術だ。

「き、来たァ

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以下のドキュメントの内容は全て虚偽です

以下のドキュメントの内容は全て虚偽です

注意:以下のドキュメントに記載されていることは全て虚偽であり、一切の真実が含まれていないことが崇敬局 信仰管理課により認定されています。

本ドキュメントをOT-Ⅴ位階以下の許可なく閲覧することは禁じられています。本ドキュメントの内容に対して、共感・理解等の不適切な情動が認められた場合、管轄の審問担当官に直ちにお申し出ください。

初めに言っておこう、友よ。どのような形であれ、君がこれを読んでいる

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Blood - Execution =始まりの鮮血=

Blood - Execution =始まりの鮮血=

『純血というのは生まれた地から離れない、優秀な者達の中で育つんだ。
  混血はその逆、地から離れた能力のない奴がさらに下等なのと交わって獣
  になった奴。なんていえばいいか……そう、雑種。犬と同じ価値のない
  奴等なんだよ。』
この工場で何度も見た奴の笑顔は、昔とは違っていた。

2025年、突如世界規模で謎の病原体によるパンデミックが起こり、世界の首都は壊滅した。
感染すると首の円周状に皮下

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デッド・オア・ライブ!! ~アイドル狂騒協奏曲~

やられた。いくら無法のアイドル戦国時代とはいえ対戦相手の新曲を歌うなんて、誰が想像するだろう。必殺の隠し玉でオーディエンスは盛大に湧いている。ペンライトの輝きが力強く波打つ。

シエン。現代アイドルの絶対女帝。その二曲目はファーストステージで初披露した私たちの新曲『フォーリン♡オータムラブ』。たった五分のパフォーマンス、一時間のインターバルで覚えたってこと?会場の困惑も、サビの頃には興奮になってい

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ババアVSエスピー ~欲望の本能か遂行の理性か~

ババアVSエスピー ~欲望の本能か遂行の理性か~

ピッ

「アンタら、アタシらと戦って無事でいられると思ってるのかイァ!」
ガラス戸を一枚隔てた前、体格のいいババア「明美」がスピーカーを持ち叫ぶ。

ピッ

「我々に護れぬ物などない。護れない時は、死ぬ時だ。」
通路の奥、FBIの厳しい試験を乗り越え選ばれた要人警護のスペシャリスト、コードネーム『ヘクトル』は室内放送で応えた。

ピッ

お立ち台の上、ヒョロ男が何かを呟き、300人のババアが前のめ

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人類滅亡は宿題のついでに

人類滅亡は宿題のついでに

人類を滅ぼすなんて、そう難しいことじゃない。やらないのは、ただやる気がないだけ。

私は違った。

銃乱射も連続殺人も、それで終わり。ヒトの衝動なんて数人殺せば冷めるものだし、種を脅かす大量死なんて彼らの思考の外側。

私は違った。

「例えば、疫病。例えば、ナノボット。隠し玉多数。北半球の1/4を殺せれば、あとはドミノ倒しで覇権種としての人類は5年以内に滅ぶわ」

「で、それを俺に聞かせて、どー

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わたしの キッツイ 固定客

わたしの キッツイ 固定客


「りなチャン❣コンバンワ❣ゆうくんです😉今日は、何をしてるのカナ❣❔」

「お~い(^o^;)」

「彼氏と、いるのカナ❔😅ゆうくん、寂しいですよ❣😥」

うへえ。

30分で未読3連打。凄い根性。林さんは正直キッツイ。
これで飲み方が豪快ならまだ可愛げもあるのに、金遣いは悪い。正直、固定客では一番いらない。NG最有力。

4日後。
昨日は林さんが来なかった。いいけど。

「ゆうくんです�

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ダーウィン賞の壊し方

ダーウィン賞の壊し方

「おざーす」「おはようございまーす」「おひゃーす」
優生保護局情報周知第三課の朝に緊張感はない。

「最近ウチの部署、ヒット作出してないっすよねー」
後輩の遠藤がPCを立ち上げながら話しかけてくるのを、おれは曖昧にあしらう。

『傷口には土と人糞を塗るのがベスト!微生物のパワーで時短治療!』

アレは良かった。

俺たちは厚労省の立派な一部署だが、世間的には知られていない。官報には存在だって告知さ

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シェイドウォーカーズ(用法用量には個人差があります)

シェイドウォーカーズ(用法用量には個人差があります)

「連中が占拠したのは第三管区浄水槽。ここではトルマリンの波動で強化したEM菌と『ありがとう』の詠唱で区内全体の飲料水を浄化している。万一の場合、都民の健康被害は甚大だ」

デジ拳銃の残弾は三発。敵はあと一人だが、奴の手には起爆装置。ブリーフィング内容が頭をよぎる。一発で仕留めないとマズい。深呼吸する。

耳孔イヤホンに通信が入った。「ビビるな、ケン。弾道補助魔法で支援するから、一発でキメろ!」相棒

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『夢山田財閥一族全滅殺人事件』←【これ以上読むな】

『夢山田財閥一族全滅殺人事件』←【これ以上読むな】

登場人物
夢山田耕作:夢山田財閥の長
夢山田ほなみ:耕作の妻
夢山田まりこ:耕作の一人娘
野辺地太郎:夢山田交通の社員。まりこの恋人。←【こいつが犯人】
夢山田洋介:まりこと太郎の息子
夢山田……

古本でメモに遭遇することは珍しくないがミステリーの犯人を名指しされる体験は初めてだ。流石に興が削がれたが逆に意地になって立ち読みを続行した。

『夢山田財閥一族全滅殺人事件』←【これ以上読むな】タイト

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振り返るな!振り返るな!ガルシア!

振り返るな!振り返るな!ガルシア!

「待たんかいコラァ!」「ガルシア、おどれコラァ!」
俺はホームレスを突き飛ばし、追っ手から逃れようと、西成・ディストリクトの裏路地を必死に走る。完全にヤバい。マジでヤバい

俺にも悪いところはあった。スコルピオ・大門組・合同ファミーリアに拾ってもらったのに、組を勝手に足抜けしたのは申し訳ないと思う。
確かに組長の女房とファックしたのは事実だし、組の金を持ち逃げしたのも間違いなく俺だ。逃げるどさくさ

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