マガジンのカバー画像

逆噴射小説大賞2018:エントリー作品収集

1,662
「逆噴射小説大賞」とは、ダイハードテイルズ出版局が主催し、社会派コラムニストの逆噴射聡一郎先生が審査員に加わる、コンテンポラリーで由緒あるパルプ小説大賞です。今回の本文文字制限は…
運営しているクリエイター

#オリジナル

ヴィクトリー

ヴィクトリー

「今度はなんの話持ってきたんだよ。最先端サバゲとかって話か?」
病院の喫煙所で先輩と話す。
新人研修から、舟下りなんて遊びまで、世話になってる先輩だ。

「田舎の秘境で札束拾うとか、化物に追いかけられるとか、男鹿に観光とかじゃあねぇよ?」

「害獣駆除の依頼とか?ネットショップの代行?」
いい年のとり方をした、楽しそうな先輩の顔を見る

「お前さ、落語習ってんだろ。太鼓だっけ」

前に話したが興味

もっとみる
馬匠、駆ける!

馬匠、駆ける!

「猫じゃねぇんだよ、窓から入ってくんなよ」

先輩は窓から入ってくる。
季節も時間も問わず、必ず窓から入ってくる。
アパートを引っ越し、2階の部屋になったにもかかわらず
窓から入ってくる。

「忍者かあんたは。ロープ掛けてベランダに登ってくんな」

元陸自、遊びの為に病欠し、突然旅に出る先輩。
窓に鍵をかけていたら、網戸を淋しげに開け閉めしていた先輩。
AK74の電動ガンを肩からぶら下げ深夜にベラ

もっとみる
スペラティヴ・リバー・ディセント

スペラティヴ・リバー・ディセント

船に乗せられたV8エンジンの唸りが幾重にも聞こえる。
5番船の船頭、三代目奥羽助六は法被に褌姿で仁王立ち。

ヨーエ サノ マッガショ エンヤ コラマーガセ

憤怒の形相をした船頭が一斉に舟唄を歌う。
晴れていたはずの峡谷に暗雲が立ち込める。

ヨイトコラサノセー

V8エンジンの叫びは最高潮。
船に乗る客のボルテージは限界。

川下りの時間は3分。
最後まで船に残っていられるのは、1艘50人中2

もっとみる
鬼狩首峠

鬼狩首峠

「俺が中学の時か、夜に車で実家に帰る道でだ。街灯も無い農道の脇に、女の子が立ってた。もう22時過ぎに、暗闇に一人だ。
ずっと後に姐さんの話で、深夜に家を抜け出して、彼氏に車で迎えに来てもらってたって聞いて、納得した。当時は携帯電話もなくて、時間で待ってたんだろうな」

震えながら、助手席にいる彼女に、少しでも冗談に聞こえるように話す。
車は急ブレーキを掛けて停めている。

ヘッドライトに照らし出さ

もっとみる
ready AIm fire 構え、狙え、撃て

ready AIm fire 構え、狙え、撃て

”ドローンとAIを使った、アクティヴィティ地域密着施設”

企画書を読んで、ため息が出る。上層部の要望に中身はない。

「どうすんのこれ」
事務所で一人つぶやく。一人の、はずだった。

「なんとかなっかもよ」
玄関から同僚の声。

「いや、流行り言葉並べただけで中身ないっすわ」
「空っぽで渡されたなら、思いつきぶち込んじゃえ。だって丸投げでしょ」
「アイデアあるんすか?」
「俺の部署の問題と地域の

もっとみる
透明な彼女

透明な彼女

「ピンクさん紹介してやる」

深夜2時の呼び出し。相手は世話になった店長。起きてるってよくわかったな。
待ち合わせ場所は、入院病棟の喫煙所。
店長のお子さんが入院している病棟。

看護実習生、通称ピンクさんとの出会いとに心躍らせ、夏の小雨の中、自転車を走らせる。

20分後、約束の喫煙所にいたのは店長と、女の子が一人。

扉を開けるなり声が飛んでくる
「な、マジで来ただろ?」
「ホントですねー、ご

もっとみる
プラモとラバーカップ 実験的実践的最新式新入社員研修

プラモとラバーカップ 実験的実践的最新式新入社員研修

輸入雑貨が彩れた部屋の中、俺は椅子に固定されていた。

「質問、お前の想定する顧客とは、誰だ?」
紫のラバーカップが突きつけられる。

数日前の自分を呪いながら、思考を巡らせる。

「今度の休み暇か。仕事手伝ってくれよう」
「なにすんの」

友人からの不意な依頼は、新入社員研修の実験をしたい、だった。
猫みたいな目を細めてニヤリと笑う。

「大学での専攻と経験を全部入れた!お礼にプラモ買ってやる」

もっとみる
YMS14B花嫁

YMS14B花嫁

酒が飲めない、飲み会も苦手だ。
しかし今一人で、居酒屋のカウンターで焼き鳥と地酒を楽しんでいる。

金曜の終わらない残業を切り上げ、帰り道を歩く。
途中、新装開店の居酒屋が目に入った。

上りには沖縄料理、ハワイ、蕎麦。
明らかに迷子の店だ。
似たものは惹かれ合う。迷子らしくその店に入って、もう1時間経つ。

物言わぬ店主と静かな環境は、心地よかった。
文庫本を読みながら三本目のタバコに火をつけた

もっとみる
近接音波兵術「落語」

近接音波兵術「落語」

襖を蹴破る音、銃声。
続くのは怒声。
「ここ使わせろつってんだろがぁ!!落語なんてくだらねぇんだよ」

ヘビメタ雑誌の編集長がラジオで話した「やっぱ落語ですね」の一言が20年以上気になり続け、結果、地元のカルチャースクールで落語を習うことになった。
その初日、自己紹介と講座の説明が終わり、先生役の初老の男性がこれから一席演じるところで、乱入者が現れた。

初めて聞いた本物の銃声と、あまりの大声に身

もっとみる
モノクローム・モノトーン・モノローグ

モノクローム・モノトーン・モノローグ

春の激務から逃げるように新幹線に飛び乗った。
横浜に来たのは感傷でしか無い。
10年近くぶりに横浜駅の改札を出ると、目の前に女の子が二人、いる。

白いカーディガンと黒いワンピース。
黒いカーディガンと白いワンピース。

似たような雰囲気で、全く似ていない二人の女子が
手を繋いでこちらを見ている。

手を繋いでいない手にはチェーンソー。
白い液体が滴る、黒い液体が滴るチェーンソー。

目が合う。

もっとみる
看板娘デストロイ

看板娘デストロイ

肉と肉、そして大型液晶ディスプレイがひしゃげる大音響が響く。
リングの上に立つのは一人。左を赤く、右を青く染めた長い髪を振り乱す女性が叫び声を上げる。

「この試合、横山商店看板娘、横山みのり選手の勝利!」
左右白黒のスリーピーススーツを着たリングアナウンサーが勝利宣言を行う。

「全世界60億人の皆様、この試合をもって、第6回看板娘デストロイ、決勝トーナメント出場選手が決定いたしました!

看板

もっとみる
センチネル・スカウト・パイオニア

センチネル・スカウト・パイオニア

公共事業の効率化、地方都市の再整備、理由は何であれ、人口密集政策は実行された。
政策実行後70年、今度は地方に戻ろうと言い出した。

長く遺棄された土地だ。簡単には戻れない。
現地を直接調べる必要から俺のような職業が生まれるのは当然だ

独立六輪機動車、通称スレイプニル。
この馬に乗り、現地の調査と個別の”お願い事”を叶える特殊遠隔介護職、それが俺の職業だ。

道はなく、野生化した家畜やカカシ、凶

もっとみる

dilemma-man ジレンマン

「死にたい!死にたい!だれか私を殺して!」

首都・S市。人々は”彼女”の暴走が始まってすぐ、警報とともに展開されたバリケード内へ避難し、頭突きで町を破壊し続ける”彼女”をただ傍観していた。

「今回の『ジレンマン』の症状名が政府より発表されました!『スーサイドサバイバー』!『スーサイドサバイバー』!」

バリケード内の有機EL画面でアナウンサーが叫ぶ。

「ほらな!やっぱり」「どういう意味?」

もっとみる
鬼殺し奇譚

鬼殺し奇譚

”お前をなまはげの国に、連れて行く”

いつものように友人と話しながら、遊びながら帰宅した。12月の寒さが心地よい。
帰宅すると、居間で、母親が泣いていた。
母が泣くのを見るのは、初めてだ。

「これ、読みなさい」
母から渡されたのは、ざらついた紙の、手紙だった。

”お前を必ず、男鹿に連れて行く”

最後の一行だけが、目に焼き付く。
手紙の文面には、家族でしかわからない自分の悪癖が書き連ねてある

もっとみる