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#オリジナル
スペラティヴ・リバー・ディセント
船に乗せられたV8エンジンの唸りが幾重にも聞こえる。
5番船の船頭、三代目奥羽助六は法被に褌姿で仁王立ち。
ヨーエ サノ マッガショ エンヤ コラマーガセ
憤怒の形相をした船頭が一斉に舟唄を歌う。
晴れていたはずの峡谷に暗雲が立ち込める。
ヨイトコラサノセー
V8エンジンの叫びは最高潮。
船に乗る客のボルテージは限界。
川下りの時間は3分。
最後まで船に残っていられるのは、1艘50人中2
ready AIm fire 構え、狙え、撃て
”ドローンとAIを使った、アクティヴィティ地域密着施設”
企画書を読んで、ため息が出る。上層部の要望に中身はない。
「どうすんのこれ」
事務所で一人つぶやく。一人の、はずだった。
「なんとかなっかもよ」
玄関から同僚の声。
「いや、流行り言葉並べただけで中身ないっすわ」
「空っぽで渡されたなら、思いつきぶち込んじゃえ。だって丸投げでしょ」
「アイデアあるんすか?」
「俺の部署の問題と地域の
プラモとラバーカップ 実験的実践的最新式新入社員研修
輸入雑貨が彩れた部屋の中、俺は椅子に固定されていた。
「質問、お前の想定する顧客とは、誰だ?」
紫のラバーカップが突きつけられる。
数日前の自分を呪いながら、思考を巡らせる。
「今度の休み暇か。仕事手伝ってくれよう」
「なにすんの」
友人からの不意な依頼は、新入社員研修の実験をしたい、だった。
猫みたいな目を細めてニヤリと笑う。
「大学での専攻と経験を全部入れた!お礼にプラモ買ってやる」
近接音波兵術「落語」
襖を蹴破る音、銃声。
続くのは怒声。
「ここ使わせろつってんだろがぁ!!落語なんてくだらねぇんだよ」
ヘビメタ雑誌の編集長がラジオで話した「やっぱ落語ですね」の一言が20年以上気になり続け、結果、地元のカルチャースクールで落語を習うことになった。
その初日、自己紹介と講座の説明が終わり、先生役の初老の男性がこれから一席演じるところで、乱入者が現れた。
初めて聞いた本物の銃声と、あまりの大声に身
モノクローム・モノトーン・モノローグ
春の激務から逃げるように新幹線に飛び乗った。
横浜に来たのは感傷でしか無い。
10年近くぶりに横浜駅の改札を出ると、目の前に女の子が二人、いる。
白いカーディガンと黒いワンピース。
黒いカーディガンと白いワンピース。
似たような雰囲気で、全く似ていない二人の女子が
手を繋いでこちらを見ている。
手を繋いでいない手にはチェーンソー。
白い液体が滴る、黒い液体が滴るチェーンソー。
目が合う。
センチネル・スカウト・パイオニア
公共事業の効率化、地方都市の再整備、理由は何であれ、人口密集政策は実行された。
政策実行後70年、今度は地方に戻ろうと言い出した。
長く遺棄された土地だ。簡単には戻れない。
現地を直接調べる必要から俺のような職業が生まれるのは当然だ
独立六輪機動車、通称スレイプニル。
この馬に乗り、現地の調査と個別の”お願い事”を叶える特殊遠隔介護職、それが俺の職業だ。
道はなく、野生化した家畜やカカシ、凶
dilemma-man ジレンマン
「死にたい!死にたい!だれか私を殺して!」
首都・S市。人々は”彼女”の暴走が始まってすぐ、警報とともに展開されたバリケード内へ避難し、頭突きで町を破壊し続ける”彼女”をただ傍観していた。
「今回の『ジレンマン』の症状名が政府より発表されました!『スーサイドサバイバー』!『スーサイドサバイバー』!」
バリケード内の有機EL画面でアナウンサーが叫ぶ。
「ほらな!やっぱり」「どういう意味?」