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逆噴射小説大賞2018:エントリー作品収集

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「逆噴射小説大賞」とは、ダイハードテイルズ出版局が主催し、社会派コラムニストの逆噴射聡一郎先生が審査員に加わる、コンテンポラリーで由緒あるパルプ小説大賞です。今回の本文文字制限は… もっと読む
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#オリジナル

ヴィクトリー

ヴィクトリー

「今度はなんの話持ってきたんだよ。最先端サバゲとかって話か?」
病院の喫煙所で先輩と話す。
新人研修から、舟下りなんて遊びまで、世話になってる先輩だ。

「田舎の秘境で札束拾うとか、化物に追いかけられるとか、男鹿に観光とかじゃあねぇよ?」

「害獣駆除の依頼とか?ネットショップの代行?」
いい年のとり方をした、楽しそうな先輩の顔を見る

「お前さ、落語習ってんだろ。太鼓だっけ」

前に話したが興味

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馬匠、駆ける!

馬匠、駆ける!

「猫じゃねぇんだよ、窓から入ってくんなよ」

先輩は窓から入ってくる。
季節も時間も問わず、必ず窓から入ってくる。
アパートを引っ越し、2階の部屋になったにもかかわらず
窓から入ってくる。

「忍者かあんたは。ロープ掛けてベランダに登ってくんな」

元陸自、遊びの為に病欠し、突然旅に出る先輩。
窓に鍵をかけていたら、網戸を淋しげに開け閉めしていた先輩。
AK74の電動ガンを肩からぶら下げ深夜にベラ

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スペラティヴ・リバー・ディセント

スペラティヴ・リバー・ディセント

船に乗せられたV8エンジンの唸りが幾重にも聞こえる。
5番船の船頭、三代目奥羽助六は法被に褌姿で仁王立ち。

ヨーエ サノ マッガショ エンヤ コラマーガセ

憤怒の形相をした船頭が一斉に舟唄を歌う。
晴れていたはずの峡谷に暗雲が立ち込める。

ヨイトコラサノセー

V8エンジンの叫びは最高潮。
船に乗る客のボルテージは限界。

川下りの時間は3分。
最後まで船に残っていられるのは、1艘50人中2

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鬼狩首峠

鬼狩首峠

「俺が中学の時か、夜に車で実家に帰る道でだ。街灯も無い農道の脇に、女の子が立ってた。もう22時過ぎに、暗闇に一人だ。
ずっと後に姐さんの話で、深夜に家を抜け出して、彼氏に車で迎えに来てもらってたって聞いて、納得した。当時は携帯電話もなくて、時間で待ってたんだろうな」

震えながら、助手席にいる彼女に、少しでも冗談に聞こえるように話す。
車は急ブレーキを掛けて停めている。

ヘッドライトに照らし出さ

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ready AIm fire 構え、狙え、撃て

ready AIm fire 構え、狙え、撃て

”ドローンとAIを使った、アクティヴィティ地域密着施設”

企画書を読んで、ため息が出る。上層部の要望に中身はない。

「どうすんのこれ」
事務所で一人つぶやく。一人の、はずだった。

「なんとかなっかもよ」
玄関から同僚の声。

「いや、流行り言葉並べただけで中身ないっすわ」
「空っぽで渡されたなら、思いつきぶち込んじゃえ。だって丸投げでしょ」
「アイデアあるんすか?」
「俺の部署の問題と地域の

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透明な彼女

透明な彼女

「ピンクさん紹介してやる」

深夜2時の呼び出し。相手は世話になった店長。起きてるってよくわかったな。
待ち合わせ場所は、入院病棟の喫煙所。
店長のお子さんが入院している病棟。

看護実習生、通称ピンクさんとの出会いとに心躍らせ、夏の小雨の中、自転車を走らせる。

20分後、約束の喫煙所にいたのは店長と、女の子が一人。

扉を開けるなり声が飛んでくる
「な、マジで来ただろ?」
「ホントですねー、ご

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プラモとラバーカップ 実験的実践的最新式新入社員研修

プラモとラバーカップ 実験的実践的最新式新入社員研修

輸入雑貨が彩れた部屋の中、俺は椅子に固定されていた。

「質問、お前の想定する顧客とは、誰だ?」
紫のラバーカップが突きつけられる。

数日前の自分を呪いながら、思考を巡らせる。

「今度の休み暇か。仕事手伝ってくれよう」
「なにすんの」

友人からの不意な依頼は、新入社員研修の実験をしたい、だった。
猫みたいな目を細めてニヤリと笑う。

「大学での専攻と経験を全部入れた!お礼にプラモ買ってやる」

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YMS14B花嫁

YMS14B花嫁

酒が飲めない、飲み会も苦手だ。
しかし今一人で、居酒屋のカウンターで焼き鳥と地酒を楽しんでいる。

金曜の終わらない残業を切り上げ、帰り道を歩く。
途中、新装開店の居酒屋が目に入った。

上りには沖縄料理、ハワイ、蕎麦。
明らかに迷子の店だ。
似たものは惹かれ合う。迷子らしくその店に入って、もう1時間経つ。

物言わぬ店主と静かな環境は、心地よかった。
文庫本を読みながら三本目のタバコに火をつけた

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近接音波兵術「落語」

近接音波兵術「落語」

襖を蹴破る音、銃声。
続くのは怒声。
「ここ使わせろつってんだろがぁ!!落語なんてくだらねぇんだよ」

ヘビメタ雑誌の編集長がラジオで話した「やっぱ落語ですね」の一言が20年以上気になり続け、結果、地元のカルチャースクールで落語を習うことになった。
その初日、自己紹介と講座の説明が終わり、先生役の初老の男性がこれから一席演じるところで、乱入者が現れた。

初めて聞いた本物の銃声と、あまりの大声に身

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モノクローム・モノトーン・モノローグ

モノクローム・モノトーン・モノローグ

春の激務から逃げるように新幹線に飛び乗った。
横浜に来たのは感傷でしか無い。
10年近くぶりに横浜駅の改札を出ると、目の前に女の子が二人、いる。

白いカーディガンと黒いワンピース。
黒いカーディガンと白いワンピース。

似たような雰囲気で、全く似ていない二人の女子が
手を繋いでこちらを見ている。

手を繋いでいない手にはチェーンソー。
白い液体が滴る、黒い液体が滴るチェーンソー。

目が合う。

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看板娘デストロイ

看板娘デストロイ

肉と肉、そして大型液晶ディスプレイがひしゃげる大音響が響く。
リングの上に立つのは一人。左を赤く、右を青く染めた長い髪を振り乱す女性が叫び声を上げる。

「この試合、横山商店看板娘、横山みのり選手の勝利!」
左右白黒のスリーピーススーツを着たリングアナウンサーが勝利宣言を行う。

「全世界60億人の皆様、この試合をもって、第6回看板娘デストロイ、決勝トーナメント出場選手が決定いたしました!

看板

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センチネル・スカウト・パイオニア

センチネル・スカウト・パイオニア

公共事業の効率化、地方都市の再整備、理由は何であれ、人口密集政策は実行された。
政策実行後70年、今度は地方に戻ろうと言い出した。

長く遺棄された土地だ。簡単には戻れない。
現地を直接調べる必要から俺のような職業が生まれるのは当然だ

独立六輪機動車、通称スレイプニル。
この馬に乗り、現地の調査と個別の”お願い事”を叶える特殊遠隔介護職、それが俺の職業だ。

道はなく、野生化した家畜やカカシ、凶

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dilemma-man ジレンマン

「死にたい!死にたい!だれか私を殺して!」

首都・S市。人々は”彼女”の暴走が始まってすぐ、警報とともに展開されたバリケード内へ避難し、頭突きで町を破壊し続ける”彼女”をただ傍観していた。

「今回の『ジレンマン』の症状名が政府より発表されました!『スーサイドサバイバー』!『スーサイドサバイバー』!」

バリケード内の有機EL画面でアナウンサーが叫ぶ。

「ほらな!やっぱり」「どういう意味?」

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鬼殺し奇譚

鬼殺し奇譚

”お前をなまはげの国に、連れて行く”

いつものように友人と話しながら、遊びながら帰宅した。12月の寒さが心地よい。
帰宅すると、居間で、母親が泣いていた。
母が泣くのを見るのは、初めてだ。

「これ、読みなさい」
母から渡されたのは、ざらついた紙の、手紙だった。

”お前を必ず、男鹿に連れて行く”

最後の一行だけが、目に焼き付く。
手紙の文面には、家族でしかわからない自分の悪癖が書き連ねてある

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