逆噴射小説大賞2018:エントリー作品収集

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発狂した地球、あるいはひと夏の旅の物語

恒星間移民システム「クトゥルー」が大事故を起こした翌年の夏、わたしはなっちゃんと一緒におばあちゃんちまで歩いていくことにした。

『おはよ、マナ』
わたしが待ち合わせ場所の丘の上公園に着くと、透き通った青と赤紫が渦を巻く夏空の下、半分が触手状に変質した滑り台の横になっちゃんはいて、手を振ってこちらに近寄ってきた。
背後の木々の葉状器官の赤と橙のうねりが、なっちゃんの黒髪によく映えている。
「お

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ライムをさしあげます
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De Vermis Cultusist

紺碧の海面に斜陽が煌めいている。海原を吹き抜ける風が心地良い。サンフランシスコから上海までをつなぐ太平洋航路、SSプレジデント・クーリッジは予定通りホノルルへ向かい航海中だ。

 スペシャル・クラスの船室に陣取った二人は、神経を尖らせて拳銃の手入れをしている。その眼差しは狂気の一歩手前といったところである。
 「間違いない、この船のどこかに『ワーム』はいる」
 「『妖蛆』か、実在するとは思わなかっ

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水底を掻き回すことなかれ

濃緑色に輝く鱗をした《浅きもの》たちが、交易用の貨物を満載した荷烏賊を引き、集落へとやってきた。
 まだやわい足びれをバタつかせながら子供たちがあっという間に群がっていく。《浅きもの》は子供たちの肉付きを確かめながら、子供たちの両親に交渉を行い、速やかな手つきで買い上げる子供を決める。彼らが進行する神、《偉大なるもの》は水中人の子供の生贄を好んで受け取るそうで、この《深遠の淵》の原始的な経済活動は

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テイルズ・オブ・クレッセント・シティ:テッサリアの歌

三本腕のドラマーが完璧なシンコペーションを展開している。この波に乗って、トランペット、トロンボーン、クラリネットの三管が自由に音を遊ばせている。三管を担当するのは二人。長身の一体双頭の結合双生の女と、彼女達の足元で跳ね回る小人。
 不意に重厚な音が層を作り、クラブ全体を包み込む。アップライトベースが演奏に参加してきたのだ。このベースは巨人症の持ち主に相応しく、通常のベースより更に大きく厚い。その音

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『パルプ・クトゥルフ』リプレイ 「パンドラの箱」

KP「 私がtwitterだと@zealotofBW、クトゥルフ神話TRPG関係では林潭玉の名義を使用している者です。今回キーパーを務めさせて頂きます。未熟・軽率な面多々あると思いますが、よろしくご鞭撻のほどお願いします」
一同「わー(パチパチ)」
 KP「まず手短に、パルプ・クトゥルフについて説明します。パルプ・クトゥルフはいわゆるパルプ小説の世界をCall of Cthulhuでプレイするため

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魔曲

今はこの聖別された蝋燭が私を守ってくれている。替えはない。この頼りない灯りが消える前に事の顛末を記そう。
 私は楽師ハンス。楽聖と謳われたマヌエルの系統を引くラバーブ弾きである。

 我が師ガルテリオは、今際の際、私に遺言を残した。
 「ハンスよ。私の唯一の心残りは、我が楽派の祖マヌエルが音楽の天使から伝えられたという楽譜をこの目で見ずに死ぬことだ。彼は最後にイベリアのヒラルダという街を訪れたとい

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カルティスト・クルセーダー

それはさながら、氷漬けにされた蛙であった。
 ガコンプシューという音と共に、解凍が始まる。間もなく、蛙面の男が目を覚ます。
 「時が来たか。あれから何年経った?」
 「500年です、偉大なる預言者様」
 男のそばには、何人もの蛙面が跪き、ある者は感涙を隠そうともせず、またある者はしきりに喉を鳴らしている。
 すぐに預言者にふさわしい威厳ある装いと、その権威を示す奇妙な三重冠が用意される。手早い準備

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アリシア・スノウが死ぬまでの48時間

バドゥン、という音がした瞬間、車体に風穴が空いた。
「おい、まずいぞ。ガソリンタンクやられた」
「しゃあないな、お前ちょっと止めてきてくれ」
「分かった、神にとりなしを」
「ああ」
 巨体の男は腹に巻き付いたダイナマイトに一瞬で火をつけ、後続の車にダイブした。爆風と炎上。運転手は振り返りもしない。

 助手席にはまだ年端もいかない少女が座らされている。意識は無い。しかし、爆音が刺激となったか、身じ

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カルティスト・クレイドル

そして≪偉大なる古き神々≫と同じ境地に達した人類は、善と悪とを超越した自由の世界を悦び、法も道徳もかなぐり捨てて、殺戮の歓楽を満喫する。
つづいて、甦った古き神々が新しい殺戮の方法を教え、地上は大虐殺の焔に包まれ、自由の法悦を味わった信徒たちが狂喜乱舞する。
ーーH.P ラヴクラフト 「クトゥルフの呼び声」

 1999年7の月、世界各国の上空に現れた円盤状の宇宙船は、地球を自らの管理下に置き、世

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邪教的特異点(カルティスト・シンギュラリティ)

人ならざるものの奥津城に、二足歩行を始めて間もない類人猿が足を踏み入れた。かつて繁栄を極めた文明の主は既にこの世界から姿を消している。疫病か、戦いか、それとも……だが、それは猿にとってはどうでもいいことである。猿は頭蓋骨だったものを踏み割り、首を傾げた。

 何かに導かれたかのように、猿は部屋へと迷いなく入った。部屋は病的な黄色を基調に、乾ききった血液と臓物で彩られ、星図、偶像、魔法陣、自然を冒涜

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