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蛇口が吐き出す水音で、便所の外の喧騒が消えた。 右の掌に染み付いた脂を落とし、顔の汗を洗い、鏡を見る。無意識に上がった口角は勝利の証。 毎月第三火曜日、電車も眠る午前二時。都内某所地下一階、閉店後の酒場こそが戦場。 刃物も銃も必要無い決闘、アームレスリング──。腕だけが勝敗を、己の価値を決めるのだ。 先程の挑戦者は、大して手応えの無い男だった。 試合開始直後、組み合った長い指が右手に絡み付く。掌も大きく厚い。体格面では相手が有利。 だが、その程度で勝敗は決まらない。俺は
剃り上げられた丸い頭。橙色の衣。小脇には鈍色の鉢。 僧侶達が列を成して托鉢へ歩み出す、朝6時のバンコク──。 ある僧列に、スーツ姿の男が駆け寄った。 駆け出しから13年付き合った間柄だ。たとえ5年振りでも、剃髪姿であっても、チャイは相棒の姿をすぐに見付け出せた。 「ダオ!」 僧名に慣れた今では懐かしき愛称。嫌が応にも反応せざるを得なかった。仲間の僧に一言告げ、ダオは僧列から離れた。 「…何の用だ」 感情の乗らぬ声を、チャイの早口が上書きする。 「タレコミがあった。