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オレを殺すはずの男が、逃げ出した。 「待て!待ってくれ!」 だが、男が止まることはない。一目散に小屋から、夜の嵐の中へと消える。 「畜生!何なんだコレは!」 心臓に突き立てられたナイフが、床に落ち、カランと音を立てた。オレの胸になければいけない傷はもう、存在してない。 「可笑しいだろこんなの!これじゃあ!治療費はどうなるんだよ!自殺じゃ!保険金は出ないんだぞ!」 何度も胸にナイフを捻じ込む。だがすぐに傷は癒え、ただ無意味な痛みがオレの胸に残るだけ。 「頼
魔術を使う女を生かしておいてはならない -出エジプト記 22章 18節- † 俺はひとつ息を吸ってから、自らの左腕に短刀を突き立ててみた。ぞぶり、という肉を切る感触。 痛みはない。血も流れない。それどころか、確かに深々と切り裂いたはずの傷が、たちどころに塞がった。 どうやら俺は完全に、化物の仲間入りをしてしまったらしい。 『霧の森』はその名の通り、常に乳白色の淡い霧で満たされている、鬱蒼とした森だ。 木立の陰から、一人の少女が姿を現した。 「理解した?
頬を撫でる風、潮の香り、さざ波の音。 瞼いっぱいに日の光を浴びて、授乳の後の添い寝から目覚めた。 「みあっ」 とっさに胸元を確認する。 美亜は腕の中ですやすやと眠っていた。 彼女の存在はもちろん、安眠している事に安堵した。 娘の美亜は本当に寝つきが悪い。 寝かしつけに3時間かかるのはざら。抱っこで2時間歩き、絵本を読み、歌い、乳を吸わせ寝転がる。 ぐずる。寝ない。IMFも驚くほど敏感な背中センサーが瞬時に発動する。 彼女にとっては睡眠=死の世界。 私の