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【二次選考結果】逆噴射小説大賞2022

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小説の冒頭800文字で競う「逆噴射小説大賞2022」! その二次選考の突破作品集です。
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#小説

2022年10月に「逆噴射小説大賞2022」を開催します

◆逆噴射小説大賞とは◆この大賞イベントを主催する ダイハードテイルズ/Diehard Tales は、1999年に誕生した、電子的なパルプノベル・マガジンです。 オンライン上での小説作品発表とマネタイズ、そして読者との相互関係と社会に及ぼす影響について常に考え続け、新分野の開拓へも勇敢に挑戦してきました。そのアティチュードの根底には、社会派コラムニストである逆噴射聡一郎先生の挑戦的なスピリットと、CORONAビールのようなエネルギーがあります。 逆噴射小説大賞とは、ダイハ

落ち雛飛翔

 落ち雛の谷の底には、粗末な墓が二対ずつ、幾百と並んでいる。  少年のシゥは、足元を見ていた。無惨に砕けた赤子の骸がふたつ。夜の間に落ちてきたのだろう。  兄のラゥも隣でそれを見ている。  ここは双子が落とされる谷。墓の下に眠るのも、みな双子の嬰児だった。 「どうしても、登るのか」  谷底の老人が語りかけてくる。 「金鷹帝は、妃の命を奪って生まれた双子を呪い、この谷に投げ捨てた。民にもそれを強いた。儂はここで二十年、それを見てきた。奇跡はお前達だけだ」  老人の声は低く、震え

罪喰らうけだもの

 南雲星斗の死は美しいものだった。  夜の埠頭で係船柱に腰かけながら、如月凌馬はゆっくりと紫煙を吐きだした。星斗のアトリエで見た光景が、鮮やかに蘇ってくる。  アトリエにはオブジェがあった。オブジェはアクリル板で仕切られた高さ三メートルほどの正四角柱で、透明な合成樹脂によって満たされていた。そして固体化した樹脂の中には、人間大の塑像が浮かんでいた。  角が一本。  ぎょろりと一つ目。  巨大な顎と滑らかな体。  蹄のある四つ足。  魚のように跳びあがり、大きく身を捩った

堕転使バードマンズ

 黒く無機質なロストシティの路上、滑走する1台の武装トラックを、その上空から一人の男が見下ろしていた。白い翼を生やしている。 「こちら咬羅天。目標を補足」 「OK。突っ込んで、鳥人間」 「……了解」  咬羅天は通信を切り、降下を開始した。翼を折りたたみ、ほぼ垂直に堕ちていく。対象の移動を計算した落下であり、狙い通りトラック屋上への着地を果たす。  すると一部の板が上下反転し、内側に潜んでいた者が姿を現した。頭にサイの大角をバイオインプラントした者……角人間である。

嗚呼、死よ 俺に微笑んでくれ

 オレを殺すはずの男が、逃げ出した。 「待て!待ってくれ!」  だが、男が止まることはない。一目散に小屋から、夜の嵐の中へと消える。 「畜生!何なんだコレは!」  心臓に突き立てられたナイフが、床に落ち、カランと音を立てた。オレの胸になければいけない傷はもう、存在してない。 「可笑しいだろこんなの!これじゃあ!治療費はどうなるんだよ!自殺じゃ!保険金は出ないんだぞ!」  何度も胸にナイフを捻じ込む。だがすぐに傷は癒え、ただ無意味な痛みがオレの胸に残るだけ。 「頼

Q eND A【キューエンドエー】

【問題。漢字では、大きい口のさ】 「タラ」  正解。 【問題。サイコロの目の数字をすべてた】 「720」  正解。 【問題。日本三景とは、】 「天橋立」  正解。  Qが3問連続で正解し、ラウンドが終了した。僕の隣の女が目を血走らせ、Qに掴みかかる。 「お、おかしい!最後のなんてまだ3択じゃない!お前が『アンサー』だ!じゃなきゃあんな」  安っぽい不正解音の後、女の頭が水風船みたいに破裂した。肉片が口に入った気がして、吐き気を堪える。 「やあ、ごめんね。勝ち抜け確定なのに、つ

ロストジャイヴ

 仕事を邪魔されるのが大嫌いだ。俺が四気筒を駆るこの夜のハイウェイのように、何事も滞りなく片付けたい。 「「「クタバレ運ビ屋ァー!!!」」」  下卑たがなり声の三重奏。火球を吐き出す音三つ。  着弾。全て躱す。二つは路面を爆砕。一つはクルマを吹っ飛ばす。焼け焦げた廃車を轢き潰して迫る馬鹿でかいバギーの駆動音。  野郎は確か三つ首ガロシェ。八雲会最高幹部我島の子飼い。    そう、我島。今回のヤマの依頼主。 (積荷は会頭の遺体です。くれぐれも粗相の無きように)  我島のツ

しずくのような子

 手のひら程度の大きさの少女の遺体が横たわっている。尻まである金髪には泥が絡まり、小枝ほどの細さの白い四肢は不自然に折れ曲がっている。全身を激しく打ち付けたのか、あざが酷く痛ましい。その遺体を、教会の使者は丁寧に麻布へと包んだ。 「あぁ、フレデリカ……」  憔悴しきった顔を婦人は痩せた手で覆う。ぶるぶると震えるその体を、ドゥールイット男爵は撫でた。窓のない薄暗い応接間に嗚咽が響く中、男爵は机上を見渡した。  決して狭くないその場所には、膨らんだ麻布がゆうに数十個は積まれ

一人百冊/一人百殺

 個人による書籍の所有が一人百冊までと制限されて愛書家はあらかた絶望した。絶望しなかったうちの何人かは蔵書と心中した。無論、法人なり私立図書館なりを設立して所有権を移すことを試みる者も多かったが、それでは所有欲は満たせなかった。蔵書を隠匿する者はもっと多かったが摘発されれば書籍は没収された。  当然の帰結として、愛書家の代わりに書物を所有すること自体が職業化した。人間本棚、あるいは単に本棚と称されたこうした人々を雇用することは一種のステイタスとなった。中世において書物がステイ

【狭間に揺らぐ影法師】

 …かあん、…かあん、  法堂から響く殿鐘の音が、夕闇の迫る僧堂に木霊する。  堂内を満たすのは、中央に祀られた聖僧像の、燭台が放つ幽かな灯り。虚ろに照らし出される影は、墨染の袈裟に身を包んだ、無数の修行僧だ。それらは肘を横に張り、掌を胸の前で組んだまま、微動だにしない。  私は同じように整然と立ちながら、左隣に立つ僧に視線を向けた。  一昨日までは、そこには常信が居た。憔悴しきった表情で、私と共に立っていた。  今、その顔には暗く影が落ち、判然としない。  僧堂

「おうちはどこなの」と少女は問うた

 東宮生まれ東宮育ちの6年生、桂木杏奈はこの町が大好きだった。だから自販機コーラ一掃事件や血みどろ軍手大量発生事件といった難題も解決してきたし、転校生のマリちゃんに町を紹介して馴染んでもらうのもぞうさもないことだった。そうしてスーパーの店長に「杏奈ちゃんは東宮の顔役だね」なんて言われて以来、杏奈は得意げに自分を“かおやく”と呼ぶのだった。  夏休みのある日、おつかい帰りの杏奈の目に見慣れない姿が留まった。暑い中茶色のスーツを着た、老眼鏡をおでこに上げて電柱に書かれた住所を

【お仕事 from hell】

 寝床のくしゃみとバーでのくしゃみは訳が違う。前者は埃で、後者は噂だ。そう言ってダンは煙草を燻らせながらバーボンを飲んだ。俺は何度か解ったように頷き、グラスを傾けた。中身はもはや氷水で薄められた樽液だ。 「金がないのか」とダンは言った。 「最後の仕事は半年前だぞ」 「人殺しなんてどこでもやれるだろ」 「声がでかい。ばれたら死刑になる」  ダンは笑いながら、くしゃみの真似事をした。 「俺だってばれたら刑務所行きだ」  刑事のダンは、ギャングと殺し屋の俺との仲介役だった。クズ野郎

この世、最も壮絶な里帰り

 トンネルを抜けると、そこは雨に濡れた何もないクソ田舎だった。 「やめた方がいいって兄貴。嫌な予感するよ」  弟の言葉を無視して、俺は電車のボックス席から立ちあがり、荷物棚からせいぜい三日分の着替えしか入っていない旅行鞄を取った。  無人駅へ降りる。俺は自動改札にスマホをタッチして、ログハウスをテーマにした駅構内を出て五年ぶりに帰郷を果たした。ほかに改札を出る者はいない。  コンクリートの地面が濡れていた。さっきまで雨が降っていたのだろうが、今は止んでいた。後には正月の寒

『巡礼』

ざしゅ、ざしゅと落ち葉を踏む音。 はぁ、はぁと乱れる息。 少年の耳に届くのはそれだけだった。 夕陽が差し込む晩秋の森。 それぞれに荷を抱え、まっすぐに歩く人々の列。 少年の目に映るのはそれだけだった。 何百、いや何千人になるのだろうか。 少年は思い出す。 数えようとして諦めたことを。 全部で何人いるのか、それを知っている大人がいなかったことを。 歩く。ただひたすらに歩く。 ふと、全体の速度が緩んだ気がした。 「この先、橋を渡りますー!一列に並んでくださーい!」 黄色い帽