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【二次選考結果】逆噴射小説大賞2022

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小説の冒頭800文字で競う「逆噴射小説大賞2022」! その二次選考の突破作品集です。
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#SF

偉大なる漿群閣下、祖躯君の誅罰を決意す

 今年は灰降り雨のせいで換皮を早くしなければならないのに、西の国境は閉じたままだった。加齢によりとみに輪郭が茫洋としてきた漿群の言葉はひどく分かりづらいのだが、大まかに通薬管がとった意はそのようなものだった。  うんざりしたような鳴き声が多くの貴人から漏れ、一つの旋律を作っていく。可能な限り儀礼的に不満を表明するのはこのものらの特徴だが、旋律の乱れがたしかに存在する。いよいよもって抑えておくのも限界だ。この貴人たちの半透明の肉体の中で蠢いている斑点はいよいよ素早い巡りになって

ラバーマインド・プロテクション [逆噴射小説大賞2022]

人気のない河川敷。 横たわる身元不明の死体。 その腹に両手を突っ込んで内臓をまさぐっているのは甥っ子のカズだ。 今日はやけに時間がかかっている。 俺は無意識に煙草に火をつけた。 「ジジイ、現場は禁煙だぞ」 顔を上げずにカズが言った。 「俺はまだ五十だ。ジジイはねぇだろう」 言いながら俺は煙草を捨てた。 カズは無言のまま死体の腹の中から例の物体を取り出した。 数年前から身元がわからない変死体から発見されるようになった代物だ。 何度見ても理解に苦しむ。 そいつは

地球人類大殺界

 7歳になった原川忠彦が天から降ってきた光に打たれるのを、原川哲造と原川真紀は目の当たりにした。 「忠彦!? 忠彦大丈夫か!?」  走り寄った両親に忠彦は顔を向けた。その両目が完全に裏返り、眦と鼻孔からどぶどろのような粘液が垂れているのを見ても、両親の近づく足は止まらなかった。忠彦が口を大きく開け、中に光り輝くものがあるのを見ても止まらなかった。二人の足が止まったのは、口から吐き出された光の塊が自分たちに飛来したときだった。  光の塊は前方400m強のすべてを灰に変えた。  

【メタルアーム、そしてコーク。】

 コークが必要だ。  ガンマは手刀で自動販売機を両断した。  缶が雪崩れ、ぶつかり合い、音を立てて路上に散らばる。  夜間モードで速度が乗った自動運転輸送車がタイヤを缶に取られ、金属警備員を数体巻き込みながらビルのエントランスに突っ込んだ。  ガンマは惨状を無視し、コークを探す。  衝撃音で居場所がバレる可能性がある。  モタモタしてはいられない。  難しくない任務のハズだった。  ビルに侵入、地下のサーバを破壊、逃げるだけ。  ところが目標手前で数十体の重金属警備員に

ユグドライズ -YGGDLYZE-

「この場所は、どうだ」  二人が樹楷都市を出発してから、三日目の朝。  先を歩く〈防人〉のカムザが、そう言って歩みを止めた。 「そうね……」  後ろにいた〈巫女〉のエンジュが、周囲を見渡す。  森。周囲には、樹々が檻のように生えている。そのため、全体的に薄暗い。しかし、一角には、陽の光が地面を照らす場所があった。 「悪くないわ」エンジュが頷く。「光合成に充分な光量は確保できてるし、水場も近い。ここにしましょう」    エンジュは、灰白の巫女装束を脱ぎ始める。するりと、乙女

埠頭、腎臓、スーパーチャット

結婚式に乱入して、サウンド・オブ・サイレンスを流しながら、愛する女とバスに乗り込むなら格好がつくが、俺は何もかもが違った。 今いるのは子どもの玩具のようなコンテナが並ぶ真夜中の埠頭。盗むのは死体。イヤホンから流れるのはVtuberの雑談配信。 これから命をかける相手は、美少女の皮を被ったおっさんだ。 倉庫から中国語の混じった怒声が聞こえた。 俺は緊張を紛らわせるため、生配信の音量を上げる。港のWi-Fiは弱く、何度も動画が止まって苛ついた。 「スパチャありがとうござい

天煉の祓魔刀

 君たちは腰を落とし、観測刀の鯉口を切った。  朧鮫革が巻かれた天正拵えの柄が、掌に吸い付くように馴染む。  重厚で淀みがない動作。君たちは自分がなぜこのような所作を取ることができるのか疑問に思った。  目の前には、鵺の姿。  闇黒の中に饐えた虹色を含んだ、八間三尺の巨体。  立ち上がった蟷螂にも、明王の骨格標本にも見える。細部は不安定に揺らめき、雑像のようにチラついていた。  その姿に意味がないことを、君たちは知っている。  瞬きをひとつ。  ただそれだけで鵺は仔犬ほどの大

夢の復元者、ソウルダイバー

「ありがとうございます、本当に、本当にありがとうございます!」 「いいんだよ仕事でやってるんだし。そんじゃま、お疲れさん。また何か入り用でしたら当事務所にご一報を。探偵に探せないものだって探してみせますよ」  御大層に写真を抱きしめて泣きじゃくる老女をやんわりと押し返すようにドアの外に追いやる。  築数十年のコンクリートビルの一室に間借りした事務所に静寂が戻る。机の上の空き缶にはリラクゼーション効果に定評のあるバイオヘンプシガーの吸い殻が敷き詰められていて、今新たな一本が残

ねずみのひかり

テンダンに友はいない。五年も一緒に仕事をしていた友達はあっさりとテンダンを売った。文字通りテンダンの目と腎臓を片方ずつ。二つある臓器を両方取らなかったのは友情だったのだろうか。それはもうわからない。友達はテンダンを売って作った金を使う間もなく殺されてしまったからだ。 麻酔から目を覚ましたテンダンは友達の側に転がっていた幾ばくかの金を拾った。テンダンは薬物で眠らされていたおかけで殺されずに済んだ。いつも通り、二人で仕事の準備をしていればきっと殺されていただろう。二人の仕事は敵対