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【二次選考結果】逆噴射小説大賞2022

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小説の冒頭800文字で競う「逆噴射小説大賞2022」! その二次選考の突破作品集です。
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#短編小説

「DISARM」

蛇口が吐き出す水音で、便所の外の喧騒が消えた。 右の掌に染み付いた脂を落とし、顔の汗を洗い、鏡を見る。無意識に上がった口角は勝利の証。 毎月第三火曜日、電車も眠る午前二時。都内某所地下一階、閉店後の酒場こそが戦場。 刃物も銃も必要無い決闘、アームレスリング──。腕だけが勝敗を、己の価値を決めるのだ。 先程の挑戦者は、大して手応えの無い男だった。 試合開始直後、組み合った長い指が右手に絡み付く。掌も大きく厚い。体格面では相手が有利。 だが、その程度で勝敗は決まらない。俺は

「不殺生共同戦線」

剃り上げられた丸い頭。橙色の衣。小脇には鈍色の鉢。 僧侶達が列を成して托鉢へ歩み出す、朝6時のバンコク──。 ある僧列に、スーツ姿の男が駆け寄った。 駆け出しから13年付き合った間柄だ。たとえ5年振りでも、剃髪姿であっても、チャイは相棒の姿をすぐに見付け出せた。 「ダオ!」 僧名に慣れた今では懐かしき愛称。嫌が応にも反応せざるを得なかった。仲間の僧に一言告げ、ダオは僧列から離れた。 「…何の用だ」 感情の乗らぬ声を、チャイの早口が上書きする。 「タレコミがあった。

ほほえみを焼き落とせ

「神野さん、もう悲しむことはありません」  病室のベッドの娘の亡骸に埋めていた顔を引き上げると、仏陀が立っている。  その指が伸びて己の涙を拭うのを、神野は咄嗟に払いのけた。 「なんなんですかアナタ」  仏陀は優しげな笑顔を見せると、娘の額に手を当てた。  そこから放出された金色の光が娘に染み込んだ。仏陀は神野の手を取り、彼女の額にそっと当てる。  温かい。  息の詰まっている神野へ向け、仏陀は表情を変えぬまま言う。 「この礼として、貴方には私に手を貸して頂きたいのです」  

デッドエンド

 ブレーキをかけずに洋館の門扉を突き破り、そのままターンして追手のパトカーに向き合う。俺と『虎』はドアを開け、ショットガンを構えた。しかし、警官たちはなにごとか車内で会話したあと、すごすごとバックして姿を消した。  怪訝に思いつつも内心俺はほっとしていた。銃弾も残り少ない。  車を降り、札束で一杯のバッグを下ろす。『牛』と『鶏』に指定された洋館は小突けば壊れてしまいそうなほどボロボロで、不気味だ。地元の人間は近づかないという話は本当なのだろう。  俺たちは銀行を襲ったあと、こ