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【ザ・ビースト・オブ・ユートピア】#6

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 黒い椅子が溶け崩れ、デスドレインは四角い公園に降り立った。彼はカラテを構えるフォルスに向き直った。ヘクサーは重傷の身体を動かし、この場を生き残るため、体勢を立て直そうとする。

 ハイランドは四角く白い無機的建築物の集まり、壮麗なる空中庭園だ。断崖から横向きに生えた土台やビルディングが連なり、融合し、四角い交通路で結ばれて、足場となる土地を作っている。

 立ち木も、公園も、看板も、キューブ状に剪定されて行儀よく、美しかった。そこにデスドレインは黒い染みとして泡立つように佇んでいた。彼の足元から暗黒物質が躍り上がって、螺旋を描いた。

「ドーモ。フォルスです」

 フォルスがデスドレインにアイサツした。

「貴様はニンジャだな。名乗るがいい……!」

「……ドーモ。フォルス=サン。デスドレインです」

 デスドレインは嘲るようにアイサツを返す。通信傍受の内容は裏付けられた。デスドレイン。不吉な名だ。ヘクサーは生き残る可能性を探った。ZBRシリンジを手に取り、プッシュした。ニューロンが熱を帯び、痛みが覆い隠される。これ以上の投与は危険だ。逃げられるか?

「貴様は改心区から来たのか?」フォルスが問うた。「貴様が暴動の扇動者か。破壊の目的は何だ……!」

 デスドレインはゲラゲラと笑った。

「質問ばっかりするンじゃねえや。どうしてイチイチ答えなきゃいけねえンだ? 俺はお前に答えてやる義務なんて無いんだぜ」

「モ……モシモシ。脱走者ヘクサーとの戦闘中、新たなニンジャと遭遇。ニンジャ名、デスドレイン……」

 フォルスはこめかみに指を当て、骨伝導でハイランド・ネットワーク越しにLAN通信を試みる。デスドレインはフォルスを指差す。

「キレイでイイよな、この街は。ハイランド……ヘヘヘヘ……だけどよォ……。なあ、俺は改心するためによ……診療所で働いてたンだぜ。診療所の女の名前、なんだっけな……そうだ、タリヤだ。確かな」

 指差す指先から黒い雫が滴り、もう一方の手では頭をバリバリと掻くと、黒い血が噴いて、足元の黒い液体に混じり合った。

「優しい女だった。いつも泣いていた。ここから改心区に落ちてきたんだッてな? ウケるよな。あの女、ここに戻りたいと思ってたのかな?」

「じ……甚大な被害の発生を確認。データ照会を要請。救援を要請……!」

「なあ。そろそろ始めようぜ、フォルス=サンよォ」

 デスドレインの邪悪な目がフォルスに向いた。フォルスの骨伝導にハイランド・ネットワークの応答が響いた。その内容はモーターオトモのハッキング傍受を通して、ヘクサーのニューロンにも流れてきた。

『ザリザリ……ロイヤルコートの増援を派遣しています。必ずその場で事態を収拾してください。第一優先事項とします』

「ハイ……ヨロコンデー!」

「く……」

 ヘクサーは身体を動かした。動く。どうにか。

『旦那。退散しねえと』

 モーターオトモが囁いた。ヘクサーはデスドレインを見た。暴動の扇動者……下から現れた……? 大きい老人の……?

「カカレ!」

 フォルスが叫んだ。教導兵がデスドレインを目掛け、一斉に突撃を開始した。

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