⛩ニンジャソン2021お正月🐮結果発表&トップ14スレイト全文公開⛩
今年は例年より短めの年末年始ニンジャソン開催期間でしたが、おおぜいのニンジャヘッズの皆さんから参加をいただきました。ありがとうございます! それではさっそく「丑年ウキヨエコン」と「スレイト人気投票」の順番で、結果を発表していきたいと思います。
丑年ウキヨエコン(#dhtpost2021ny)
新年を祝う丑年ウキヨエの数々! 今年は選考委員である宇宙の戦士ザ・ヴァーティゴ=サンが1個1個にコメントをつけてくれました。
V:クローンヤクザっぽいミニ水牛!よく見たらお賽銭とか奪ってるな。UNIXグリーンのカクカクした縁取りも最高にサイバーパンクでかっこいいぞ。
V:霜降り肉がめちゃくちゃうまそう。
V:オッこれも牛肉……生ハムとかの……うまそうだけど、エッ……。
V:真顔でやってるところがいいぜ! 牛の角はカッコいいしな。
V:確かにニンジャスレイヤーでそのものずばりな牛キャラがいたな。
V:年明け早々こいつは何をやっているんだと思わされるほどの、強烈に食欲を主張するネオン看板群だ。
V:そういえばマツザカもいた。ニンジャスレイヤーは牛コンテンツに困らないぜ。
V:本物の年賀状っぽいアプローチ! なんだかんだこのカラーパターンは見てるだけで華やかで元気になるよな。めでたい。牛のパワー・オブ・エネルギー感も素晴らしいぞ。
V:小さくてかわいいキャラでも絶対殺す目つきは同じだ!
V:これもまた別なベクトルで年賀状っぽいアプローチだ。賑やかで好きだ。ちゃっかりミニバイオ水牛が乗ってるのもいいな。
V:晴れ着のテキスタイルが良いものだよな。
V:言葉はいらない……。そういうことだ。
V:色合いもどことなく正月っぽさがあって縁起がいい。
V:このクールビューティー感と服装の組み合わせだよな。本編でもやりかねないしな。
V:RPGでも牛だ! 2版に対応とは早いな。せっかくだし牛と戦うダンジョンイベントをやればよかったな。トラップがすごくて、ウシ・ダンジョンみたいな名前の……。熊年ってないんだっけ。
V:いったいその牛乳パックの持ち込みはどうしたことだぜ。コトブキ=サンの表情が最高だな。
V:強烈な突進力を感じるぜ。キンカク・テンプルもめでたい。
V:象徴化された雲で牛の柄になっているところに俺は大注目した。
V:今年はこれぐらいのパワーでみんなやっていこうな。
V:牛車とカウガールの合わせはシャレがきいててにくいね!
V:完全に牛に負けてないな。彼女はこのあと何日でもロデオできるだろう。
V:ネザーキョウらしいパワフルさだぜ。ツノヘルムが似合うやつばっかりだったな。
V:ロックンロールのパワーを感じるぞ。ちゃんとネイルしてる。
V:この暴力的なまでの勢い感はクセになる。
V:新年だしこういう再生のサイクルが働くこともあろうだろう。神秘的な事象だ。
V:めちゃくちゃイケてる衣装を着せてきたな。俺も自宅ゲーミング用に通販しよう。
各賞発表
⛩ザ・ヴァーティゴ賞⛩
コメント:キャラ性が描き分けられていて、賑やかで楽しかった。貴族派閥のグランドマスターたちが礼儀良くセンター付近で整列してるのも面白い。こうしてみるとザイバツ紋もなんだかおめでたい感じに……いや、俺は騙されないぞ!
⛩イビヤモ賞⛩
コメント:牛と三人の表情とか全体の構図とかが、どれを外しても成立しない完璧なバランスになっていたから、SPACE……を……感じ……そしてFUTUREを見たんだわさ……。
⛩電子ユニコーン賞⛩
コメント:🦄大晦日に放送されたばかりのフィメールを年賀状化するなんて、すごい速さだね!衣装もかっこいい。僕は電子的な存在だから、速さに興奮しちゃうんだ。すてきなイラストをありがとうね。チャオ!🌈🌈
スレイト投票(#njslyr7vote2021)
これまでに公開された全スレイトの中からの人気投票です。たくさんの感謝とスシを込めて、上位14個をここにOPEN公開します(得票数の多いものほど下に並んでいます)。もっと読んでみたい人は、以下の記事からPLUSにアクセスしてみてください!
【ネオサイタマ カワラ・スシ:アキジ】
ターン! 店のガラスショウジ戸が荒々しく引き開けられた。カウンター・スシ店にズカズカと入ってきたのは三人のゲニントルーパーである。彼らは目を光らせ、手にカタナ、サイ、チェーンソーをそれぞれ持ち、危険であった。「デアエ!」「なんだこの惰弱なスシ屋は? ンンーッ?」「LAN直結者は居るか? 俺達が吟味してやる!」
「アイエエエエ!」カウンター席の客が椅子から転げ落ちた。その市民は、カスミガセキ・ジグラットから離れたこの区域にまでネザーキョウの手が伸びるとは考えていなかったのだろう。「ヒヤハァ! ビビリあがってやがるぜ!」「オイ見ろ。こいつ生体LANソケットがあるぜ!」「起きろオラッ!」ナムアミダブツ! なんたる狼藉! シェリフの到着を待っていても、この突発的蹂躙を止めるすべは無い……!
「お客さん」その時であった。静かな、だが、よく通る声が、カウンターの奥から投げ掛けられた。淡々とマグロに包丁を入れているその男は……イタマエ、アキジであった。「そちらの方のご迷惑になりますんで」
「何ィー?」「俺らはネザーキョウのニンジャだぞ?」「タイクーン知らんのか? ワシらはコクダカを授かったリアルニンジャだ!」三人のゲニントルーパーは市民を床に投げ捨て、カウンター越し、アキジに詰め寄った。だがアキジはその瞬間、三人分のスシゲタを彼らの前に並べ終えていた。
スシゲタには美しい真紅のマグロ・スシが乗せられている。稲妻めいた速度であった。「テメェ、ナメてやがるな……」「スシだと?」「……ゴクリ」剣呑なゲニン達は当然のごとくアキジに暴力を振るおうとしたが、視界の端にチラつくマグロ・スシの誘引力に抗う事ができなかった。促されるを待たずして、彼らは椅子に座り、スシを手に取り、食べた。
「……」「……」「……」ゲニン達は無言で咀嚼し……それから、無言で立ち上がった。彼らはアキジに目を合わせる事もできなかった。そればかりか、カウンターにキキョウ銀貨を置いて、そのまま退散したのである。パアン。アキジはネヌギーを鳴らし開いた。
アキジは床で震える被害市民のもとまで歩くと、肩を貸して立ち上がらせた。「お怪我、ありませんか」「さ、幸い……大丈夫です」「そりゃ、なによりでした。次、何にしますか」「ア、アイエ……ハマチを……」「ハマチ、ヨロコンデ」アキジは頷いた。
【アンダーガイオン第2層】
彼はプレスベンチに腰掛け、脚を大きく開いて座り、膝に乗せた手を組んで、顎に乗せていた。輝くような金髪にはLANエクステンションが混じっており、身に着けているのはハーフパンツひとつ。そして微動だにせずドアに視線を定めていた。ガチャリ。ノブが動き、アポイントしていた男が現れても、彼はその姿勢を崩さなかった。「……来たな」
「おう、お前……」みすぼらしいダウンジャケット姿の小男は、片目で眼帯だ。帽子をとると、白髪交じりの髪の頭頂部は寂しかった。小男は彼をまじまじと見た。「お前はまるで変ってねえな……! 流石だぜ」「当然だ」「今日来たのは他でもねえ、」小男がバインダーから契約書類を取り出しながら話し始めるが、彼は遮るように「いいだろう」とだけ言い、立ち上がった。
筋肉が躍動し、湯気があがった。彼の手の中には、既にハンコがあった。狼狽える小男から契約書を奪い、ハンコを捺した。サンライザー!「へへ、へ……!」小男は笑いだした。総金歯が光った。「デカいビジネスにするぜ、おい……!」
【NY:サガサマ・ミネ】
黄金立方体がゆっくりと自転する空の下、サガサマは地下鉄のホームで時間を気にしていた。「どうしましたか?」椅子から声をかけられた。振り返ったサガサマはぎょっとした。サラリマンの顔は黒い影になっていた。「エ……」間違えようもなかった。「……係長……!」「何を待っているのですか?」「エ、勿論……電車です。なかなか来ないものですから。今日のミーティングは朝イチなんですよね。係長は直行直帰ですか?」
説明しながら、サガサマは混乱し始めた。「ええと……とにかく困りましたよ」腕時計を見た。彼は呻いた。その腕時計は、いつ買って、いつ失くした腕時計だったか。ホームを見ると、彼らの他にも、何人かの通勤者が電車を待っている。その誰もが顔が影になっていて、足元は霞んでいた。「ア……」サガサマは俯いた。「つまり……私も潮時という事でしょうか。係長」
「エ? 何ですか?」今度は係長が首を傾げた。サガサマは文字化けした発着電子掲示、【4甕噛9けにをぐ】を指差した。「あれ……つまり、これから来る電車は……お迎えなんですよね?」「……何を言っているんですか、ミネ」係長はサガサマの肩に手を置いた。「こんな場所に寄り道して、サボってちゃいけませんよ」
プアアアアン……警笛が鳴り、49番線ホームに電車が走り込んだ。ドアが開き、車内の冷気が流れ出た。ホームの人々が乗り込んでゆく。そして係長も。サガサマは追いかけようとした。「係長……私は貴方に……あのとき言えなかった事が……」「私はそういうしみったれた話は嫌いですよ、ミネ」「係長!」「イヤーッ!」「グワーッ!」係長がサガサマを蹴って車外に跳ね除けた。そして指差した。「サラリマンは限界を超えてからがコアタイムです。下ッ腹にキアイ入れなさい。サラバ!」ドアが閉まり、電車は無慈悲に発車した。サガサマは線路の闇を遠ざかる光を呆然と見送った……。
ギュグン! サガサマは心臓の強い鼓動に痙攣した。温かい闇の中にいる。まるで悪夢だ。否、これが現実なのだ。体内を駆け巡る血流はまだサガサマを生かそうとしている。係長のように。重さの下でもがく彼のニューロンに短期記憶が逆流した。ここはニューヨーク。減衰を始めたポータルから異形の軍勢が最後のセンコ花火とばかりに溢れ出し、UCA防衛軍やデルタ・シノビを始めとする傭兵部隊が最後の反転攻勢を行い……サガサマは……!
「……!」力強い手が彼の腕を掴み、引きずり上げた。サガサマを圧し潰していたのは粘質の厭わしい触手の塊……ヘグイの死骸だった。「生きているか。キミ、平気かね? この指が見えるか?」「ア……ニンジャ……?」サガサマは霞む視界を一生懸命に正常化しようとした。「あ……貴方は……アア……デルタ・シノビ!?」「紋章に気づく目ざとさがあるなら平気だな」彼は半壊のビルの麓のテントを指し示した。「ともかく、あちらで救急治療が受けられるから……」
「ド、ドーモ。私、こういうものでして」サガサマは粘液に塗れたスーツから名刺ケースを探り、相手に名刺を差し出した。「チカハ社のサガサマ・ミネと申します。一度、貴社と名刺交換を行いたいと考えていたのですが、なかなか接触の機会もありませんで……」「フム……」相手のニンジャは眉根を寄せ、自身の名刺を差し出した。「私はこういうものです」デルタ・シノビ代表、オメガコマンダー。「それでは、ゴキゲンヨ」
「な、なんと……代表! 良かった! ア、待って!」サガサマはスタスタと行ってしまうオメガコマンダーを追いかけようとしたが、フラついて瓦礫に躓き、アスファルトに手をついた。アスファルトのひび割れから土が露出し、雑草が白く小さい花を咲かせていた。メインストリートの方向から、ポータル消滅を祝うファンファーレと、割れんばかりの拍手が聞こえてきた。
【パリ ネオ・シャンゼリゼ】
ユンコはネオ・シャンゼリゼの一角、そこそこ名の知れたサイバーファッション・ブティックに入り、最新のアンダーグラウンド・テックウェアを物色していた。以前はロンドン、LA、ネオサイタマが三大メッカだったが、ロンドンが滅びたため、今欧州圏で最も勢いがあるのはパリだ。
「やはり危険すぎるんじゃないか……?」
シャドウウィーヴが低い囁き声で言った。影の中からではなく、彼女のすぐ側に並び立って歩いていた。
「だから一緒に来てるんじゃない」
ユンコは笑いながら肩をすくめた。それから気になったテックジャケットをまた一着、羽織ってみてから、腕を組んで悩み、シャドウウィーヴに持たせた。
「……だがここは土地勘のない異国だぞ。シュンシナムの連中がこれで引き下がるとも思えない」
「今のジャケット、さっきの靴と合うと思う?」
「コントラストとシックな感じが美しいと思った」
「シック、いい言葉」
頷きながら二人は靴売り場に戻る。もう一時間近く、広い店内を物色している。
「初めから断る気だったんだろう」
「もちろん。そうとうナメた条件だったからね。これは?」
「……悪くない。似合っているし、防弾指数も高い。……話を戻すが、交渉で凄みをきかせたのも良かった。だが、危険を冒してわざわざ本拠地にまで来ずとも……」
「シュンシナムに渡航費も滞在費も全部出させたし、旅費が浮いたんだから、文句ないでしょ? 欧州圏までアイアンオトメ運ぶの高いんだから」
「それは……」シャドウウィーヴは頭を振り、ため息をついた。何か抗弁しようとしたが、詮無きことであった。「……その通りだ」彼は収入の大半をユンコに依存している。
「あら、あなたたち」オーナーらしき初老の女性が歩み寄り、好奇心に満ちた目で二人を見た。「ネオサイタマから?」
「「はい」」
「そうね。一目で解る。ネオサイタマっていう感じがするわ。パリへは、新婚旅行?」
「「いいえ」」
「あら」オーナーは微笑んだ。「まあ何でもいいわ。楽しんでいって」
【ネオサイタマ オイラン遊戯施設:アイアンアトラス】
「デアエ!」「デアエオラー!」KRAAASH! スモトリゲニンがハンマーを奮い、オイランハウス「恋人たち強くなる」の壁を無法に破砕した。店内に押し入るゲニントルーパー。「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」悲鳴をあげて引きずり出される半裸のオイラン達。ゲニントルーパーは血走った目を細めて残虐に笑い、彼女らに手枷を嵌める。軽トラックには既に他所で攫われたとおぼしき、死んだ目の虜囚達! なんたるマッポーの狼藉光景か!
「ケケケ、俺の言ったとおりだろう? ネオサイタマのオイランはハイレベルなんだ」「たまらねえなァ!」「このあたりは色街だからよォ、片っ端からブッ壊して持ち帰れば、すげえイサオシが溜まるだろうぜ。しかも何人つまみ食いしても無限!」「違いねえな! 俺はもうギンギンだぜ……いっちょここでヤるか!」「そりゃいい!」
「こっちへ来い! トラックに手をついて並ぶんだ」「アイエエエエ!」オイラン達は乱暴に引っ張られる。ゲニントルーパーは彼女らの悲鳴にさらに興奮!「おとなしくろ! 今からネザーキョウの精強なるありさまを見せてやる」「アイエエエ!」さらに追加で店内から蹴り出されてきたのは、この店の利用客やボーイたちだ。「何だァ? オイランじゃねえのか」「邪魔くせえ奴らだぜ。LAN端子ついてるか?」「コイツら……ついてねえな」「ならゴミだ、殺せ、殺せ」
「待て。せっかくだから、ファック前にコイツらここに並べてボトルネックカットチョップしようぜ」「ソイツはいい! せっかくネザーの加護をいただいているんだから切れ味を試さねえとなあ!」ゲニン達は笑い、客たちを殴ったり張り手して痛めつけた後、正座させた。彼らの中に……ナムサン……コミタも居たのである。市街の状況に怯え、極力自室にこもっていたコミタであったが、辛抱できなくなった挙げ句、アケチ注意報の低い数値に勇気を奮い、ラブ・メンテナンス重点したくてたまらなくなってしまったのだ。
(僕は……いつもこうだ……刹那的な快楽を期待して……いつもこうやって……)コミタは震え、隣に座らされた中年サラリマンの腫れ上がった頬に怯えた。自分は直接的暴力をたまたま免れたが、この後待ち受けるのは……「あ、あのう、ボトルネックカットチョップって、一体……」「アア? 惰弱な。知らんのか?」ゲニンがコミタを見下ろし、チョップを掲げて身振りで説明した。「こうやってなあ。水平に、こう、貴様らの首をチョップで刎ねて、カラテを競うんだろうが」「アイエエエエエ!?」
「最高だな! 殺人! そしてファック!」ゲニンの一人がオイランと男たちを見比べて腰ジェスチャーで嘲笑うと、他のゲニンも笑いに応じた。ナムアミダブツ……ナムアミダブツ! そして道路の向かいの店「エッチピンポング重点」の壁にも、スモトリゲニンがハンマーを叩きつける……!
「イヤーッ!」KRAAAAASH! 壁が破砕した。ただし、店の中から外へ。「グワーッ!?」砕けた壁材が礫めいて飛び散り、ハンマーを振り下ろす寸前だったスモトリゲニンの全身に突き刺さる! 壁をパンチで壊して現れたのは大柄なニンジャだった。しかもオイランを片手で抱きかかえている。オイランは彼の手でゲニンの狼藉から救い出されたらしく、顔を赤らめ、頼もしげに彼を見上げている……。
ニンジャはそのまま無雑作にスモトリゲニンの目の前まで歩き、腹に強烈なパンチを食らわせた。「イヤーッ!」「アバーッ!?」スモトリゲニンはキリモミ回転しながら吹き飛び、「大馬鹿」と書かれたネオン看板に衝突して黒焦げになった。ナムアミダブツ!
「デアエ!?」「何ッ!?」「アイエエエエ!?」路上の者たちの注意がニンジャのもとに集まる! 特に驚愕したのはコミタである!「ア……アイアンアトラス=サン!?」「オオ?」ニンジャはオイランを地面へ無雑作に降ろし、コミタを見た。「UNIXマンじゃん。お前、何やってンの? 並んで正座して、ウケル」「見、見ればわかるでしょ!? ボトルネックカットチョップで殺される!」「ギャハハハ! 正座しといて、殺される、じゃねえんだよ、お前……」
「何だ、貴様ァ?」「イヤーッ!」「グワーッ!」誰何しようとしたゲニンがアイアンアトラスの振り向きざまのパンチを顔面に喰らい、地面に衝突し、バウンドして天高く打ち上げられ、屋上の給水タンクにめり込んで爆発四散した。他のゲニン達が身構えるが、アイアンアトラスは何の警戒もせず、手近の一人の腹に凄まじいミドルキックを叩き込んだ。「アバーッ!」ゲニンはキリモミ回転し、軽トラックの運転席を貫通し、運転ゲニンとともに射出されてトラッシュ・ボックスに叩き込まれ、その中でまとめて爆発四散した!
「だ……惰弱文明人のニンジャの分際で貴様!」「コロセー!」「デアエデアエーッ!」残る数名のゲニントルーパーは簡易ヤジリ陣形を取り、アイアンアトラスに向かってゆく!「イイイイイ……」アイアンアトラスは地面に屈み込み、ロケットスタート姿勢をとった。そして……ショルダータックルで真正面から突っ込んだ!「イヤーッ!」「「「「グワーッ!」」」」
ゲニントルーパー達は四肢をあべこべに捻じ曲げ、あるいは切断されながらメチャクチャに吹き飛び、色街のネオン看板「弾けてもす」「高速移動」「メインクーン」「電話王子様」「すとらいく」などに叩きつけられ、火花を噴き上げて全滅!「ボーナスゲット!」撒き散らされる万札やオムロ素子をアイアンアトラスは回収!「「「ヤッター! スゴイヤッター!」」」オイラン達は一斉にバンザイ・ジャンプで喝采!
「よっしゃァ! いい汗かいたぜ!」アイアンアトラスは身体の埃を払い、コミタの首を掴んで立ち上がらせた。「オイUNIXマン! それじゃオンセン・バーに行こうぜ!」「エッ!? オンセン・バー……!?」「知らねえのか? この前改装した所があってよォー、七色に光っててスゲエらしいぜ」
「で、でも今やってるかなあ……有事だし……」「やってるやってる!」「でも……」アイアンアトラスはオイラン達を振り返った。「お前ら来るか? 店も壊れちまってるしよォー!」「「「行く行くー!」」」オイラン達はアイアンアトラスのもとに駆け寄る! コミタはアイアンアトラスと共に囲まれ、密着の役得に思わず表情を緩ませて、不平不満を引っ込めた。
【ネオサイタマ、トミガル・ストリート、ソバ屋「ふたつ歩」】
「おやじ。4つだ」「4ね?」ソバを湯がきながら、店主は訊き返した。「4つでいいんですね?」「それをふたつ。4が2だ」ガーランドはハンドサインとともに伝えた。「……マカシテクダサイヨ!」ドンブリが置かれた。
ガーランドは割り箸を割った。アブリ・マグロ・スシが4つトッピングされた、真っ黒いスープのスシ・ソバである。「ズルッ。……ズルズルーッ」ガーランドは着実なリズムでソバを啜り、合間合間でトッピングのスシを食べる。彼はスシのシャリが崩れぬよう細心の注意を払っていた。
店主はタイミングを見極め、彼が食べ終える瞬間に二杯目のドンブリを置いた。やはりトッピングのスシは4つ。今度はそれらには手をつけず、まずソバを啜りきってから、スシのマグロ部を丁寧に食べ、最後にシャリを崩して真っ黒いスープに混ぜ、啜り込んだ。
「サケを」「アイヨ」店主がホット・サケを置いた。ガーランドは二度傾けてコップのサケを飲み干し、「ゴチソウサマ」と一言言い残して退出した。
【パリ ネオ・シャンゼリゼ 夜のテラスカフェ】
「スミマセン、スミマセン、恐縮です」緊張のあまり、黒いドレスに包まれたサクラモチのサイバネ腕が震えていた。カタカタと、白いコーヒーカップが鳴っていた。「私なんかのために、こうしてお時間までいただくなんて。夢みたいで」
「そんなに固くならないで」ユンコは姿勢を崩し、ラフに座って、小さく笑った。「別に、私たちは何も特別じゃない。セレブとかじゃないし」
「俺たちも、ただの人間だ」シャドウウィーヴも両手を広げて見せ、頷いた。周囲にニンジャの気配はない。「本質的には」
「アッハイ」サクラモチはまだ罪の意識と緊張で固くなっていた。
夢遊病めいて二人をストーキングし続けたサクラモチは、メガコーポの刺客を疑われ、念のため路地裏でジツにかけられカナシバリにされたのだ。すぐに無害であることが解ると、二人は気まずそうに謝罪し、彼女をこのカフェに連れてきた。ストーキングされたことは嬉しいことではないが、怖がらせすぎてしまったと思ったのだ。
「……それじゃ、話を戻すけど。まさか、私を追って、わざわざ日本から?」ユンコが問うた。
「いえ! とんでもありません。滅相もありません。……偶然なのです。私、オートクチュール・サイバネ工房で、ユンコ=サンをたまたまお見かけして……! 運命的な再会だったのです……!」サクラモチは頰を赤らめ、視線を下げた。
「運命的な再会」シャドウウィーヴは影のように囁くと、やや居心地悪そうに二人を順番に見た。だが、護衛の務めを放棄してここを離れるわけにもいかない。「特に気にするわけじゃないが……昔、付き合っていた……?」
「ンー……」ユンコは口を尖らせ、小さく首を振った。
「まさか! 付き合うなんて、そんなことないです! 滅相もないです!」サクラモチのほうが激しく否定した。
「もしかしたらなんだけど」ユンコがこめかみを押さえながら言った。「単なる誤解じゃない? 私に社交界の友達なんていなかったし。この通り、元は無軌道大学生のサイバーゴスで」
「いえ、あの、ネコネコカワイイの、ライブ会場で」サクラモチは勇気を出して、問うた。「ステージに、立って、踊っていませんでしたか?」
「いつ」
「十年ほど前です」
「ンー……」ユンコは眉間にしわを寄せて考え込んだ。
「……昔、バックダンサーの仕事を?」シャドウウィーヴが推理めかして問い、付け加えた。「いや、俺は……特に気にしているわけじゃないが」
「ンー……」ユンコは目を閉じ、両方のこめかみを押さえた。マイコ回路が回転し、かつての記憶が鮮明に蘇った。「……心当たりがある。暴動があったスタジアム?」
「やっぱり、あ」サクラモチは言いかけたが、ユンコに手を握られ、ハッと息を飲んだ。
「……その前に約束して欲しいんだけど。ここだけの話ってことで、いいかな?」ユンコはサクラモチに耳打ちするように言った。
「ハイ」サクラモチは返した。心臓が早鐘を打ち、目は潤み、今にも涙が溢れそうだった。
「多分、ステージに、立ったかも。代役で」LANケーブルヘアをかきながら、そう答えた。
「そして高く、ジャンプした」サクラモチの声は震えていた。
「そうだね、高く……ジャンプした」
ユンコは意味を理解した。そして気恥ずかしさを捨て、かつての行いに相応しく、胸を張って微笑んだ。サクラモチは押し殺していた気持ちを抑えきれなくなり、ユンコに抱きついた。そしてわんわんと大声で泣いた。ひとしきり泣くと、彼女は言った。半分はネコネコカワイイに。もう半分はユンコ・スズキに。
「私、あの会場にいたんです。ずっと、ずっと、腕も足も無かった、私の支えだったんです。だから、みんなが忘れても、忘れなかった」
【トコロザワ チバ邸】
使いに出したヤクザが買ってきたのは、ふやけた合成肉饅頭と缶入りの人工マンゴージュースだった。
ネヴァーモアはそれを銀食器の上に乗せ、チバの横に運んできた。肉饅頭は幸いにも再加熱されている。朱色の最高級ベルベットチェアに腰を落ち着けたチバは、まず肉饅頭の一個を受け取り、裏表、上下左右をまじまじと観察してから、一口食べた。最上級のスーツを着たソウカイヤの首領には、あまりにも不似合いなジャンクフードだった。
チバは数口噛んだあと、口の中に合成肉を含んだまま口元に手を当て、ネヴァーモアを一瞥して、苦笑いするような顔を作った。シックスゲイツの前でも見せぬような表情だった。
「お前も食ってみろ」
「ハイ」
ネヴァーモアも無言で肉饅頭を丸ごと一個喰らい、咀嚼した。
「まずいだろ」
「ハイ」
ネヴァーモアは頷いた。
「……だが時には、初心に戻るというのも大切なことだ」
チバは人工マンゴージュースをストローで啜り、オールバックの髪を掻き上げると、投げ出した足を組んで葉巻を要求した。
【サワタリ・カンパニー本社:社員食堂】
他のヨロシ社員たちは一足先にマナウス・シティへと向かった。残ったユイチは父親の後に続き、見知らぬ人々の列に並んでいた。奇妙な光景だった。サワタリ・カンパニーの「本社」と聞いた時はヨロシサンのリオ支社要塞のようなものを想像していたが、実際に訪れてみると、面食らった。
ジャングル奥地に隠されたこの建物は実際老朽化しており、TVに出てくる麻薬犯罪組織のアジトのように貧相だった。テーブルも椅子もちぐはぐで、寄せ集めの家具や資材が使われ、ダクトや壁や窓はそこらじゅうに修繕の跡がある。だがここには、小さいながらも温かみと活気があった。食事を待つ列には、人間の社員もバイオニンジャもいた。ヨロシティではありえないことだ。それでユイチは不思議と胸が温かくなり、勇気付けられた。
「ヘヘッ! うまそうだな!」先に並んでいたハイドラが、皿に大盛りにされた奇妙な料理と、黒緑色のジュースらしきものをトレイに乗せ、テーブル席に向かって歩いて行った。チラリと見えたその料理は、コメの上に黒いドロドロとしたスープ状のソースがかけられたもので、ソースの中には茹でられた野菜や謎の触手が入っていた。ユイチは恐れたが、食堂の壁に手書きで貼られた「本日の夕食:アマゾンイカスミカレー:おいしいです」と書かれた紙を見ると、ホッと息をついた。イカカレーならば食べれるはずだ、と。
前に並んでいた父がトレイにカレーライスを乗せ、次はユイチの番だった。「はいよ! いっぱい食べて大きくなりなよ!」「アッハイ」初老のイタマエからカレーを受け取ったユイチは、父親と並んで歩き、ハイドラがいる長テーブルに座った。隣のテーブル席には、自分より背丈の低い少年が座っていた。どう見てもバイオニンジャのようだが、幼く見えた。その子は先にカレーを半分ほど平らげていた。
「おいしい?」ユイチはその少年に語りかけた。
「おいしいですよ」フロッグボーイが頷いた。予想に反して大人びた言い方だった。少し離れたところにいるバイオ大ガエルが、ゲコゲコと喉を鳴らした。フロッグボーイはまた視線を落とし、静かにカレーを食べ始めた。
「そ、そう。じゃあ食べれるかな。イカだもんね」ユイチは見ず知らずの者たちがいる空間で、また少し不安になった。父親はカレーにはまだ手をつけず、ワイシャツを着たディスカバリーとかいう名のニンジャと、緊張した面持ちで何かを話している。守秘義務がどうのこうの……難しい交渉ごとのようだ。ユイチにはまだよくわからない。大人の話だ。
ただ、話の雰囲気からして、やはりここにいる人々はヨロシサンではないのだろうということは解る。オニから助けてくれたのだから敵ではないと思うのだが……この世界にはヨロシサンをよく思わない人たちがいるということも、ユイチは知っている。ハイドラやセントールが近くにいるが、それでもやはり不安だ。
ユイチは無意識のうちに、ポケットのドッグタグお守りを握りしめながら、周りをキョロキョロと見た。同じドッグタグを下げている者が他にも何人かいるのが解った。ディスカバリーという名のニンジャもそれをつけているようで、チェーンが首元に見えた。ユイチは少し迷った末、お守りドッグタグを取り出して、首から下げた。そして黙々とアマゾンイカスミカレーを食べ始めた。少しして、ハイドラがそれに気づいた。
「オッ、なんだ? ずいぶん年季の入ったドッグタグじゃねえか!」ハイドラは山盛りのカレーを貪りながら、スプーンでユイチを指し示した。
「おそろいだよ」ユイチが恐る恐る言った。
「ハハハハハ! 見た目だけはな!」ハイドラが笑った。「いいかガキンチョ! オレたちの下げてるドッグタグは、その辺で売ってるアクセサリーなんかとは違って、戦いの歴史そのものなんだぜ! ……ン? オイ、待て」ハイドラが何かに気づいた。
「アッ、実はですね……。私が代表して残ったのには、もうひとつ理由がありまして……」ユイチの父親はひどく緊張し、ハンカチで額の汗を拭いた。
「エッ、何?」その様子を見て、ユイチはまた不安になった。何かまずいことをしてしまったのかと。
「オイ待て、ちょっと見せてみろよ」
ハイドラはひょろ長い手を伸ばし、ユイチの首にかけられたドッグタグに触れた。そこに刻まれた『生残道場』の文字は、明らかにサヴァイヴァー・ドージョーのニンジャだけに与えられたドッグタグの証だった。
なぜヨロシサンの少年が、このドッグタグを持っている? しかも、昨日今日に作られたものではない。所々が傷つき、錆びて、変色している。ハイドラはそれを裏返してみた。裏面には『モタロ』の文字が刻まれていた。それはユイチが持つもう一つの名前だった。
「モタロ……? モタロ……ア……アアアーーーーーッ!」ハイドラはそのドッグタグの文字を指でなぞり、ニューロンをスパークさせ、十年ほど前の事件を電撃的に思い出した。皆がネオサイタマの下水道で明日なきサヴァイヴァルを続けていた頃……モモめいた保育カプセルに入ったまま流れてきて、ハイドラ自身がモタロと名付けた、あの赤子のことを。なんたるサイオー・ホースか。あの赤子が成長し、今、目の前にいるのだ。ハイドラは興奮してその場で立ち上がり、ユイチとその父親を交互に指差して叫んだ。「アアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーッ!?」
「騒々しいですね、まったく」フロッグボーイが呆れたように肩をすくめた。バイオカエルがゲコゲコと鳴いた。
【アンダーガイオン:シキベ】
「ア!? フラフラ歩いてんじゃねえぞコラーッ!」
「ウェー……? アイエッ、スミマセン」
「どこに目つけてんだッコラーッ! 俺は疲れてるんだよコラーッ!」
アンダーガイオンの南リフト通りを歩いていたシキベは、泥酔サラリマンとすれ違いざま肩がぶつかり、ヤクザスラングまがいの口汚い罵声を浴びせられていた。当たり屋の類ではない。明らかにシキベのウカツである。
「スミマセン、スミマセン」
実際情けない姿だ。昔のバイト時代に戻ったかのようだ。今の彼女はまるで夢遊病のマネキンめいて生気がなく、銃弾痕だらけのテック・ダスターコートも、ただのダボついた探偵コス・プレイのようにしか見えない。ビズ中の彼女が放っている私立探偵のオーラは、今は微塵も感じられない。
「謝れば済むと思ってんのかコ……」
「ゲーッ!」シキベのコートの胸元に隠れていた三本脚のカラスが目を覚まし、勢いよく嘴を突き出してサラリマンを威嚇した。
「アイエエエエエ!?」サラリマンは狼狽し、雑踏の中へと消えていった。
「アー……スミマセン……」
シキベは再びネオン繁華街の雑踏をぎこちなく歩き出す。イミテーション黄金の輝きを放ちながら手足を動かす巨大なズワイガニ型街灯TVには『ネオサイタマとの間で磁気嵐続く』『タイクーン出現予報の精度にとても疑問』『シェルターの売り上げが5000%増な』『でもキョートは安心』『安心ローン』などの文字が躍る。シキベは少しもどかしげにそれを一瞥する。
「ゲーッ」
三本脚のカラスはシキベのコートの補強された肩に飛び乗り、腕を上げるようせっついた。そしてシキベの左腕のハンドヘルド・キーボードを目にも留まらぬ速さでタイプした。その言葉はLANケーブルを通してシキベの脳内に直接響いてくる。
『大丈夫か? 疲れてるか? トロ・スシが足りてねえんじゃねえのか?』
「アー、大丈夫ス。所長はあんまり外ではタイプしないほうがいいスよ。目立つッスからね」
シキベは小声で囁き、カラスを胸元に収納し終えると、再びボディの制御をAIモードに切り替えた。そして煌めくネオンの海をオートマチック自動的な足取りで歩き始めた。
次第に歩行者の数はまばらになり、慣れ親しんだガンドー探偵事務所の裏通りへ。赤いLEDチョウチンの群れや、道の端に座り込んだケミカル酔漢たちの歌が彼女を出迎える。シャッターの降りた事務所の前に帰り着くと、シキベはボディの制御を取り戻し、セキュリティロックを解除して中に入った。探偵事務所へ帰ってきた。
これでもう誰の目も気にする必要はない。
「ンアー……! 疲れたスわ……!」
シキベはソファに身を預けると、大きく欠伸をし、組んだ両手を頭の上に伸ばした。三本脚のカラスも室内を我が物顔で飛び回っている。シキベは小休止してから、ダスターコートをハンガーに放り投げ、ワイシャツのボタンをふたつ外し、ネクタイを盛大に緩めた。最新鋭のドロイドボディにはこうした生理作用の必要性など全く存在しない。それでもニューロンチップ蘇生者は、生前の記憶をもとに、こうした肉体的行動を取ろうとする。それは一見無意味でナンセンスな行動だが、ニューロンの安定に必要なものであり、可能な限り自然に行うべきなのだとユンコ=センセイも言っていた。
『オイオイオイ、やっぱり疲れてんじゃねえか。まあタフなケースだったからな。トロ・スシで祝杯と行こうぜ』
「ウェー、いえ、その前にもう一仕事あるんスよ」
『日報か? まあ後でいいじゃねえか』
「すぐ終わりまスからね」
シキベは探偵事務所のUNIXデッキの前に立ってLANケーブル直結し、目を閉じた。胸のAI回路が高速回転し、背中のスリットから排熱が始まる。精神を集中し、論理タイプ速度を限界まで上げ、ドロイド脳内メモリで編集された最新のテキストファイルをUNIXデッキに転送した。それからキンギョ屋謹製のプロキシ・プログラムを作動させ、磁気嵐で崩壊したハイ・ウェイを回避しながら、ネオサイタマIRCネットへと接続。そこに自らの作品が入ったデータ重箱を論理的にドロップした。ここ数日、仕事の合間や帰宅時間、ドロイドボディをAIで自動歩行させながら、ローカルIRCに閉じこもって書き続けていた作品を。
琵琶湖の底から蘇った『サムライ探偵サイゴ』の掌編小説を。
それはネザーキョウによる襲撃を恐れて外にも出られず、IRC電脳空間に引き篭もって震え上がるだけのネオサイタマの原作ファンたちに、奥ゆかしいスシの差し入れめいて届けられた。
謎めいた原作者がニューロンチップ再生者として蘇っていることなど、『サムライ探偵サイゴ』の原作ファンたちは知るよしもない。そもそも彼らは、本当の作者が誰なのかも知らないだろう。無数のメディアミックス展開を経て、子供向けのカトゥーンとして大幅にアレンジし直され、再翻訳に再翻訳を重ねられ、彼女の知らないキャラクターが数百人も増え、コンテンツの全貌は複数のメガコーポに分割されて握られ、原型をもうほとんどとどめていない。無論、シキベはそのことについて誰も恨んでなどいないし、悪意も持っていない。むしろ感謝すらしている。ただ、純粋な原作ファンの割合は、もう極めて少ないだろう。それでもやる価値はあるはずだと彼女は考えた。
実際、今しがた匿名でドロップされたその完全なる新作は、精神的飢餓状態のファンたちによって、すぐさまGREP発見された。その熱は、ネオサイタマ電脳IRC空間の片隅で少しずつ広がっていった。
まるで原作者のような筆致。いや原作者そのもの。実によくできた紛い物。AIが生み出した完璧な模倣作。そうした議論を行う者たちも、いくらかいた。だが大半の人々は、その正体など関係なく、ただ『サムライ探偵サイゴ』の新作を純粋に面白がってくれていた。とても把握しきれないほどの文字列が、去り際、熱を帯びてIRCネットに流れていくのが感じ取れた。
『新作か。自動操縦にして、それを書いてたってのか』三本脚のカラスは首をひねって問いかけた。シキベにはタカギ・ガンドーの表情が見えた。
「アー、まあ、急ごしらえもいいとこスけどね」シキベは少し気恥ずかしそうにIRCを閉じると、事務所の冷蔵庫に備蓄していたビールと二人分のパックド・スシをテーブルに運び、自分は二本の給電ケーブルを背中に挿した。そして嬉しそうに笑った。
【ネオワラキア:ドラクル城裏口、ツインテイルズとオー・オー】
早朝。灰色の朝霧の中、旅支度を万全に整えたツインテイルズとオー・オーはドラクル城の裏口へと向かっていた。オー・オーは最新鋭のサイバーレインコートを纏い、ツインテイルズの足元には新品の厚底スニーカー「D.RA.CLE+++」が輝いている。
少し寒いが、朝の空気は心地よい。カサカサと鳴る落ち葉を踏み、二人は胸を張って進む。ツインテイルズの足取りは軽かった。いつもだらしない生き方で、いつも最後はコソコソと逃げ出してばかりだったが、今回は違う。胸を張って、誇らしげに出て行くのだ。
見送りに来たのは戦友ソニアと黒猫のベラドンナだった。いまやネオワラキアの広報関連の要職にも就いたソニアは、鉄紺色の貴族服を着て、長い髪を後ろにまとめている。流石は元スダチカワフの令嬢だな、とツインテイルズはそれを見て思った。
ソニアは重い鍵束を持っている。そして無言で鍵を開ける。キイと音を立てて、ゴシック様式の鉄柵が押し開けられた。見事な松の木の下で、ツインテイルズとオー・オーは鉄柵の前に立った。
『>_< サミシイゾ』オー・オーは名残惜しげだった。
ツインテイルズは相棒の背中を叩いてから、ソニアと向き合った。
「じゃあ、長い間ありがと。ソニアにはいろいろ世話になったよね。公とかみんなによろしく」
「……本当に、行くアテはあるのか?」ソニアが歩み寄り、心配げに問うた。
「大丈夫だって」『^-^ オキナワ、イク。パーティー、スル』オー・オーが呆気なく秘密をバラした。「ああもう、着いてから写真でも撮って驚かせようと思ったのに」『0_o』
「オキナワか。ははは、そうか、太陽の光が恋しくなったか」ソニアは少し寂しげな表情を作りながらも、納得した顔で笑った。この計画も、昨日突然聞かされたものだ。おそらく、ツインテイルズたちは前々から決めていたのだろう。本来ならば期間満了による正式な退任式を待つべきところだが、ストリート育ちの野良猫は、華々しい表彰台も辛気臭いのも嫌いなのだ。猫には自由が似合っている。ソニアは自分の中でそう結論づけた。
「アー、もともと、いつかオキナワに行こうってオー・オーと約束してたからさ」『^-^ ソウソウ』
「オキナワで豪遊して、カネを使い果たしたら、また昔のような盗賊に逆戻りか?」ソニアが問うた。
「まさか! 実はね、ゴールドラッシュっていう富豪が、リゾートで働くニンジャのパフォーマーを募集してるのを知ったワケ。フエの演奏データを送ったら通過。リゾートホテルに高待遇で住み込みだって。サイバネ可。ペット可。ハッパ可。楽器可。……最高じゃない?」『^-^-^-^-^』オー・オーはベラドンナを肩に乗せながら、別れを惜しんでいた。
ソニアは訝しんだ。「富豪……? 高待遇……? 胡散臭くはないか? 大丈夫なのか? それに今、世界各地がネザーキョウとやらの侵攻で騒がしいというのに」
「オキナワならタイクーンとかいう奴の影響も受けなかったみたいだし、大丈夫でしょ」
「そう軽々しくプランを立てるから、お前はいつも窮地に陥るんじゃないのか」
「行き当たりばったりで生きてるから、ソニアにも会えたし、こうして勲章ももらえた。文句ないでしょ?」
「……」ソニアは何か言おうとして、肩をすくめた。そして続けた。「引きとめる気はないさ。私も家を飛び出してきた身だ。好き勝手に生きればいい」
「住んでみてイマイチだったら、またフエ吹いて路上で暮らすし。オキナワなら野たれ死ぬことはないって。ニンジャだし、リゾートだよ?」
「わかった……もう決めたのだろう?」
「そう」
「元気でな。爆発四散しないと約束しろ」ソニアはまっすぐツインテイルズの目を見つめ、右手を差し出した。
「当然、死ぬわけない」ツインテイルズはそれを握り返した。ソニアは力強く、ぐっと手を引き寄せ、ツインテイルズを抱きしめた。そして後ろ頭を撫で、肩を強く叩いた。ツインテイルズも別れを惜しむように、ソニアの背中を撫でたり匂いをかいだりした。ソニアがいつまでも離さないので、ツインテイルズが慰めるように言った。「飽きたらまた世界を旅して……ここにも来るからさ」
「……この一年間、お前と一緒にいて、本当の姉妹ができたような気でいたんだ」あの気丈で高飛車なソニアが、驚いたことに、少し声を詰まらせていた。
ツインテイルズは名残惜しくもあったが、こんなソニアを見るのは初めてで、少し茶化したくもなった。「どっちが姉貴よォ?」ソニアを慰めるように、耳元で囁いた。
「……それは、私だろう」ソニアが涙ぐみながら返した。ツインテイルズはニヤニヤ笑いながら背中をぽんぽんと叩いた。「私のがセンパイだって」「いや、姉の方がしっかりしているべきだ」「そうじゃないのもいるって」「ここで決めるか」「望むところ」しばらく沈黙が続いた。
「ミヤーオーウー」『^-^-^-^-^』オー・オーはベラドンナを肩に乗せて吊り橋遊びをさせながら、二人の話が終わるのを待っていた。キュッキュー、キュッキュー。バイオツグミが松の木の枝で侘しげに鳴いた。
「……ごめん」やがて、ツインテイルズがソニアの肩を抱き、すまなそうに言った。「やっぱり、もう一泊してくわ……」「そうだろう。ちゃんと就職先をリサーチすべきなんだ」「ホントそうだよね」二人は鉄柵を閉じると、互いに肩を貸し合いながら、小さくキスをし、並んで元来た道を引き返し始めた。
『^-^』オー・オーは満足げに頷き、ベラドンナと一緒に二人に続いた。
【サワタリ・カンパニー本社、社員食堂:フォレスト・サワタリ】
「まさか皆さんと再会できるとは、思ってもおりませんでした」
これで何度目か。ユイチの父、エヒラ・コイチは深く頭を下げながら静かに言った。その声が、営業時間をとうに終了し、がらんとした社員食堂の静けさの中に吸い込まれていった。食堂の電気はもうまばらで、薄暗く、物寂しい。
ユイチ少年とK-2、K-3、そしてフロッグボーイの四人は、先程まで社員食堂の隅の小さなソファエリアでUNOをして遊んでいたが、今は疲れて眠ってしまっているようだった。巨大バイオカエルはまだ起きていて、その横で時折ゲコゲコと鳴いたり、油を垂らしたりしていた。
「サイオー・ホースな……」
カーゴパンツに開襟シャツ姿のサワタリは、十年前に自らが刻印した『モタロ』のドッグタグを見ながら、そう呟いた。ベイビーだった頃のユイチの顔と、軽さと、驚くべき小ささが再び思い出され、自然と口元が緩んだ。
ただし、それはあくまで個人的な事情である。サワタリ・カンパニーの長として、仲間たちを守るために、避難民や捕虜の処遇は適切に行わねばならない。もし、それが現役のヨロシサン製薬の社員ならば、なおさら注意深くあらねばならないのだ。
「ディスカバリーの報告によれば、すぐにマナウスに帰ることもできたが、二人が敢えて残ったとうことだったな」
「ええ、私があの営業部隊の責任者でもありますから」エヒラが言った。「ただそれ以上に、個人的な思いとして、十年前のお礼を言いたかったというのが、勿論ありまして……。ご迷惑でしたか?」
「ヨロシサンと我が社……お互いの事情に足を踏み入れる気は無いし、ベタベタと馴れ合う気もない。だが、個人同士となれば話は別だ。十年前の縁もある。滞在を断れば……あいつらもくだらん文句を垂れるだろう。何ヶ月もな。面倒を見る身にもなってみろ」
「本当に、何度お礼を言っても、言い足りないほどです」
エヒラはまた深々と頭を下げた。
「もういい。あまりペコペコされるのは慣れていない。俺としても、あの子が立派に育ったのは嬉しい事だ。それに……すまんがマナウスまでは、二人にズダ袋でも被させてもらうぞ。そちらの言葉を信じないわけではないが……立場上な」
「その点は、ご安心ください。ユイチにも説明しますし。この社屋の座標や、お話しした事柄などについても、絶対に本社に伝えはしません」
「厳しく問いただされたり、懲戒免職にはならんか?」
「私には、それなりのジョブセキュリティがありますので。それに今回の件の責任は、アストロイデアの開発チームに全て投げられます。先行で社に戻った者たちも、そう報告するはずです。あとは、なんですかね、タイクーンですか。ともかく、それなりに覚悟はして残りましたよ」
エヒラは苦い顔で頭をかいた。
「ならばいい。だが、ヨロシサンは恐ろしいところだぞ。知っているだろうがな」
と、サワタリは返した。エヒラは肩をすくめて言った。
「万が一、懲戒免職にでもなったら、就職活動でもしますよ。ヨロシサン以外のところで暮らしていけるか、正直、自信はありませんが」
「モニカ=サンも、元はリオ支社だ。そういうルートもうちにはあることを一応伝えておこう。営業職はつねに不足している」
「ありがとう存じます。ここの環境はやはり私にはハードですし、今の所は、お気持ちだけで……」
「無理せんでいい。こんな辺鄙な場所で安月給をもらうよりも、ヨロシティの高級マンション暮らしのほうが、遥かによかろう」
「いえ、違うのです。お互いの生存戦略的にも……」エヒラは幾分ビジネスめいて言った。「私はヨロシサンに残っていた方がいいでしょう。多少の地位はありますから。最悪の事態に発展しそうになった時、何か動けるかもしれません。ですから、もしよろしければですが、非公式に、サワタリ・カンパニーの皆さんとお付き合いを続けたままで……またいつか、ここを訪れることができればと。その時、何か困っていることがあれば、私からできることがあるかもしれませんし……。結局は、無力かもしれませんが」
「……何故だ? 何故そこまで?」
サワタリは訝しみ、少し厳しい目で問うた。そのような提案を持ちかけてくるヨロシ営業マンなど、今までに見たことがなかったからだ。またそれは提案というよりも、単純な善意の表明に似ていた。相手側の利点が、あまりにも少ないと思われたからだ。
「何故? 助けてもらったからですよ。今回も。十年前も。それ以上に、何があるというんですか」
エヒラはむしろ不思議そうに言った。サワタリは顎の無精髭を撫でながら、しばし、手持ち無沙汰になり、ドッグタグを弄んだ。
少しして、冗談めかして言った。
「うちを託児所代わりに使う気じゃあるまいな?」
「それは、考えていませんでした。夏の休暇シーズンなどに、よろしいかもしれませんね」
少しして、二人は小さく苦笑した。ヨロシサンとサワタリ・カンパニーではなく、互いに一人の人間として。
「なんにせよ、まだ夜は長い。コーヒーはどうだ?」
「とても好きです」
「コンデンスミルクは?」
「悪くないですね」
「よし」サワタリは立ち上がり、コーヒーメーカーの方に向かって歩いた。途中、ユイチの背中に薄い毛布を被せ、棚からコーヒーカップを2つ取った。まだ起きていた巨大バイオカエルが、サワタリのほうを見て、ゲコゲコと小さく鳴いた。
【ネオワラキア ドラクル城:レッドドラゴン】
〈夜〉のレイヤーに覆われた空には、劣化したVHSを思わせるスクラッチノイズまみれの映像と声が投影されていた。アケチ・ニンジャによる宣戦布告は、地表に刻まれたネザーキキョウ紋の内側だけでなく、遠きネオワラキアの空にまで届いていたのだ。
「殿、ようやくシュマズ社よりエンジニアが到着いたしました。これを……」最側近たるカシウスが玉座の間に置かれた複数のモニタに次々と解析映像を映し出す。シュマズ・ノクターナルの情報網が、この短時間のうちに収集した衛星写真や磁気嵐の観測データなどである。突然の磁気嵐によってIRC通信網は乱れ、いずれの暗黒メガコーポも、前触れなき雷雨に見舞われた羊のごとく震え上がっている。
「……そこで止めよ」レッドドラゴンは地球規模衛星写真のひとつを指差し、カシウスに一時停止を命じた。そこにはカナダ、ニューヨーク、ネオサイタマなどを繋ぐ紫色の光の五芒星と多重円が映し出されていた。
「何に見える、カシウス」「悪魔崇拝者らが用いる魔法陣のようにも見えます」「左様。おそらくは、キキョウ・ジツであろう。サバトニンジャ・クランもこの亜種を用いた。ジゴクから力を引き出すためにな。多くの場合、破滅を招く」「なるほど、確かにこの五芒星パターンは、こちらの磁気嵐観測データとも符合いたします。……しかし、これほどの規模とは」
「あのタイクーンとやら、こうして自ら正々堂々と宣戦布告を行うとは、古風な男であるな。天晴れである」「……仮にこれがタイクーンのジツによるものならば、今後、ネオワラキアにどのような影響が?」
「あ奴は、五芒星の内側を自らのものと言い放った。だが、余のネオワラキアはあの方陣の中に含まれておらぬ。タイクーンが騒ぎを起こしたのは、地球のはるか裏側の大陸のこと。今は好きにさせておけばよい」
レッドドラゴンは赤葡萄酒を飲み、続けた。「……それよりも、この混乱に乗じて論理聖教会が攻め込んで来ぬか、より一層、国境の守りを固めよ。余が第一に守りたいのは、何よりもネオワラキアの領民である」
「御意」カシウスは一礼した。「では現時点で、ネオワラキアとして、タイクーンそのものに対する何らかの軍事行動は不要ということでよろしいでしょうか?」
「うむ。ただし、一時間後に動画配信を行う。その準備を進めさせよ」「配信を」「領民は案じているであろう。ネオワラキアにいる限り、何も恐れる必要はないと伝えるのだ」「……殿、聡明なるクライシス・コミュニケーションに御座います」カシウスは感銘を受け、深々と頭を下げた。
それから玉座のレッドドラゴンは、自らのIRC端末を操作し『連絡先』次いで『お気に入り』の項を選択した。ネオサイタマにハマヤが着弾したことは、いささか気がかりである。かの地には信頼に値する友がいる。レッドドラゴンは『サツバツナイト=サン』と書かれた項をタップし、赤龍騎士団紋章入りのIRC端末を耳に当てた。
【スシ・バー:アイアンアトラス】
回転スシ・チェーン「ソニック・スシ」、レイド・チョウ4号店の華々しい開店セールもたけなわ。コミタ・アクモとアイアンアトラスは行列を経てきらびやかな店内にエントリーを果たし、カウンターに座ることに成功していた。店内に鎮座するオーバル型のスシ・レーン。壁の小さなトンネルには「美味しい」のノレンがかかっており、そこから色とりどりの皿に乗ったスシが現れて、奥ゆかしくレーンを流れてゆく。キッチンは別室なのだ。
「新しい、あれだ、新築とかのニオイがするよな! オイ見ろ、チャが飲み放題だぜ!」「静かにしようよ……!」アイアンアトラスが蛇口から熱いチャをディスペンスし、さまさずに喉を鳴らして飲むのを、コミタは畏怖の目で見た。火傷しないのだろうか? しないのだろう。
「UNIXマン、お前、何皿目標だ? オイ見ろ、ガリが食い放題だぜ!」アイアンアトラスはアルミのトレーに入ったガリを抱えるようにして食べながらコミタに尋ねた。然り、今日は開店セールということで、食べ放題プランの金額が半額。さらに、枚数天井制限が撤廃されている。
「そうだなァ……とにかく沢山食べたいけど」「俺は200は行くぜ」「200!? ムチャだよ」「いや行ける行ける! 今までそんなに食った事ねえしよォ、こういう時にやらねえとツマンネエじゃん!」「そう……」コミタは深く考えない事にして、目の前の回転スシ・カウンター・レーンに意識を集中した。無論、コミタはアイアンアトラスの隣、上流側に座っている。流れてきたスシをすべて取られる可能性があるからだ。
深呼吸を数度。やがて、ピンク色のスシがトンネルから飛び出し、レーンを流れてきた。サーモンだ。コミタが一瞬迷った隙に、アイアンアトラスが右に身を乗り出し、皿を掴み取った。「ア!」アイアンアトラスは大きい手で皿からスシを取り、咀嚼した。「ウマイ、ウマイ」
コミタはアイアンアトラスの食欲範囲をまだ軽く見積もっていたと言わざるを得ない。「や……やめてよ、こっちまで入ってくるのは」「そんならお前も自分より右の方から取りゃいいじゃんよ!」アイアンアトラスはガリ箱を逆さに振って全て食べた。「ガリのオカワリ・ボタンはねえのか?」
更に次の皿が流れてきた。サバだ! コミタは躊躇せず皿を取り、ショーユをつけて食べた。食べているうちに、レーンをトロが通り過ぎ、アイアンアトラスの手に入った。(本当はトロのほうが食べたいのに!)コミタは後悔する。焦りによる判断ミスだ。そうこうするうちにもスシが流れ来る。エビ、カツオ、ハマチ、エビ、タマゴ、タマゴ!
「アアッ!」コミタは慌てて皿を取る。……キュウリ・スシだ。「どうしてこんなスシがあるんだよ!」タンパク質がほしい! その横でアイアンアトラスは順調にトロやアカミ、エンガワなどをゲットし、リズミカルに咀嚼していた。「い、急がなきゃ……」流れてくる皿を慌てて手に取る。キノコ・スシだ。「クソッ!」食べながら次の皿を慌てて取り、レーンを見ながら咀嚼した。今のはトロ……だろうか? 大慌てで食べたので味がわからない! その横でアイアンアトラスは次々に食べている!「ウマーイ! ウマーイ!」
コミタは店のデジタル表示を見た。時間経過! このまま手をこまねいていたら食べ放題時間が終了してしまう! エビ! アワビ! イカ! タマゴ! サバ! コハダ! 次々にレーンを流れ来るスシ皿! コミタは目を白黒させながら、とにかく皿を取り、口に放り込んだ。魚の脂肪に含まれるDHA効果でニューロンが加速し、レーンを流れるスシの量が倍に見える……否! 実際倍なのだ!
ブガー! ブガー! 店内の赤灯が回転し、デジタル時計の表示が「エラー発生な」に変わった。「アイエエエエ!」トンネルの向こう、別室のキッチンから悲鳴が聴こえた。エビ! マグロ! トロ! アカミ! サバ! マグロ! トロ! キュウリ! エンガワ! ナス! 次々にレーンを滑り来るスシ皿! レーンの速度が既に三倍! そして四倍に!
コミタ達、客には預かり知らぬ事であるが、開店セールの需要に対応すべくスシ・マシンのUNIXシステムを推奨周波数を超えてチューンナップしたことが裏目に出て、オーバーフローが起こっていた。「アイエエエエ! まずい……」キッチンでスシネタをマシンに呑み込ませるイタマエンジニアが右往左往し、高速回転するクランクに撥ねられて吹き飛び、床に倒れ込んだ。「グワーッ! 止まらない……!」
ブガー! ブガー! ブガー! ブガー! 赤灯が回転! 連続射出されるスシ!「アイエエエエエ!」コミタが悲鳴を上げた。レーンから脱線したスシ皿がコミタの顔にぶつかり、眼鏡にヒビを入れた。「ウワーッ!」レーン下流の客たちも恐るべき速度で流れ過ぎるスシ皿に恐怖し、頭をかかえた。危険だ!
その中で、アイアンアトラスはカッと目を見開き、次々に射出される皿を受け止めては、スシを次々に口に放り込む!「イヤーッ!」「アイエエエエ!」コミタはしゃがみ込み、隣でスシを食べ続ける巨躯のニンジャを垣間見た。「イヤーッ!」アイアンアトラスの背中には縄めいた筋肉が浮かび上がり、残像を伴うほどの速度でスシ皿を掴み取っては咀嚼していく。これにより、レーン下流の客達の安全も確保されている!
「ガ、ガンバレ!」「ガンバレー!」客達はいつしかアイアンアトラスの食べぶりに感化され、熱狂し、声援を送っていた。アイアンアトラスはトンネルから射出されるスシ皿を掴み取り、食べ、掴み取り、食べる! イクラ! トロ! ウニ! イカ! サバ! エンガワ! ゴウランガ!
未来へ・・・
🍣🍣🍣以上で14スレイトの発表を終わります。まるでお正月の華やかなオスシのように、色とりどりのスレイトばかりでしたね。惜しくもトップ14に入らなかったものも、タグへの感想など我々の方で全て拝読していますし、今後のためにも良いデータとなりました。膨大なスレイト数に対して少々投票日数が短かったため、5個に絞るのは大変だったかと思いますが、たくさんの投票&感想をいただけてよかったです。ウキヨエコンともあわせ、参加ありがとうございました!🍣🍣🍣
🍣教授より:2020年は世界的に大変な年でした。そうした時代性は、スレイト人気投票の統計データにも反映されており、サツバツとしたスレイトより、前向きで元気なスレイトや、癒しや再会などといった優しみのあるスレイトが全体的に好まれていた傾向がうかがえます。つまりどのような時代でもニンジャは健康に良いことが研究によって明らかになっているので、2021年も引き続き、良質なサイバーパンク・ニンジャアトモスフィアの供給体制を整えていけるよう、邁進していきたいと思っております。🍣
🍣受賞者の方へ:ウキヨエコンで各賞を受賞された方には、後ほど @DHTLS からTwitterのDMが届きますので、記念品を受け取りたい場合は送付先住所などをおしらせください(物理的肉体が存在しないなどの理由によって辞退することも可能です)。なお発送は2021年2月以降を予定しています。🍣
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