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【ファイア・アンド・アイス・ビニース・ザ・ブロークン・ムーン】

総合目次


「ヤベエ! ヤベエ! ヤベエ!」

 入り口のノレン「近未来」をかきわけ、部屋に飛び込んできたジャタリキは、チャントのように「ヤベエ」の言葉を繰り返し、キッチンのシンクに隠してある「グラス・アイス」の袋を掻き集めた。「マジ・ヤベエ!」

「オイ、ちょっと待てよ」「いきなり何始めてンだ」マージャンに興じていたバルタミ、ゴズモト、ズズキ、ザントモは恐慌状態のジャタリキを咎めた。「何やる気だ」

「うるせェよ! 逃げンだよ!」ジャタリキは彼らを睨んだ。「呑気にマージャンなんかやりやがって! テメェらが好き放題やれてンのもなあ、俺がビジネスしてッからだぞ!」

「その言い方はねェだろ」「ブツを捌いてンのは俺らだぞ?」「ギブアンドテイクだろ?」「WIN-WINだろ?」マージャンの四人は口々に不満を言った。部屋の奥では、ソファの上で裸のオイランが物憂げに身じろぎする。ジャタリキは怒りに震えた。

「テメェらいい加減にしろ! 来るンだよ!」「何が?」「ソウカイヤだ!」「え……」マージャンの四人が顔を見合わせたのもつかの間!

「やってンのか、お前らァー」

「近未来」のノレンが動き、新たな一人が入室した。ジャタリキは青褪めた。入ってきたのは、四角い眼鏡をかけ、ヤクザスーツを着た男だ。後ろに撫で付けた髪は奇妙な火の粉めいた輝きを帯び、歪めて笑う口には尖った犬歯が特徴的だ。

「ドーモ。インシネレイトです」

 彼はアイサツし、その場の者たちの恐怖の表情を楽しむように見渡した。野卑で暴力的な態度が、きっちりと整えた外見では中和しきれず、コンフリクトを起こして、より恐ろしいアトモスフィアを作り出している。

「おう、ジャタリキ=サン。それだァそれ。話が早くてよかったわ。それ探しててよォ。これ、あれだ、シンクロナイズド……シンクロ……シンクロニシティな? 合ってっか?」

 インシネレイトがジャタリキを指さす。ジャタリキは失禁し、抱えていたグラス・アイスの袋を取り落した。「アイエエエエ……」「それな。ウチに納品されずに、お前がそうやって抱えてンの、どうしてだろうなッて話でよォ」「違うんです!」

「イヤーッ!」「アバーッ!」ジャタリキの顔上半分が炎に包まれた!「違わねえよ、交渉タイムは何日か前に終わってンだわ」「……」黒焦げのジャタリキは痙攣して仰向けに倒れ、裸のオイラン達は悲鳴をあげて裏口に走った。「アイエエエエ!」

「オイオイオイオイ!」だが裏口にもエントリー者あり! 松竹梅がプリントされたハワイアン・シャツを着た坊主頭のヤクザ・チンピラが立ちはだかった。インシネレイトの舎弟、クスバである。「こっちは行き止まりだよォ」

「アー、いい、いい、そいつらは。行かせろ」インシネレイトは手を振って、チンピラに合図した。彼の舎弟はやや不満そうにフーセンガムを膨らませ、女を行かせた。「勿体ないッスよォ」「こっからは話早ええから」

「ち……畜生!」「クソーッ!」「ワメッコラー!」マージャン・チンピラが銃を構え、インシネレイトに襲いかかる! ヤバレカバレ! インシネレイトは好戦的な笑みを深め、両手を炎の色に染めて大きく振りかぶった!

「イヤーッ!」「アバーッ!」「イヤーッ!」「アババーッ!」「イヤーッ!」「「アバババーッ!」」

 ナムアミダブツ! 松明めいて燃え上がり、キリキリ舞いしながら死体となって倒れ込む四人!「よっしゃァ!」クスバは消化器を取り、手際よく消火作業を行った。死体を蹴り飛ばし、グラス・アイスの袋を拾い上げる。

「いち、にい、さん……全部あるッスよ! 今日もガッチリ……」「イヤーッ!」「グワーッ!」クスバの横面にインシネレイトは蹴りを食らわせた。クスバは吹き飛び、壁に叩きつけられた。一瞬前までクスバが居た場所を、凶悪なカタナ斬撃が通過した。アブナイ!

「……シューッ……!」それは死んだと思われたジャタリキであった。起き上がりながらのアンブッシュを繰り出した彼は、光るカタナを構え、首を強く振った。黒いススが零れ落ち、ニンジャ頭巾に覆われた顔があらわになった。「ドーモ。インシネレイト=サン。ルミノセイバーです」

「ハハッ! そうだよジャタリキ=サン。ルミノセイバー=サンってか? ドーモ、インシネレイトです」インシネレイトは再度アイサツしてやった。「おめェ、いっちょ前にニンジャになったッて話聞いてたからよォ、しょうがねえからこんなダルい仕事に、俺が……」

「イヤーッ!」ルミノセイバーが斬りかかった! インシネレイトは微かに横に動いて攻撃を躱し、顔面を掴み、手から直接のカトンを注ぎ込んだ!「イヤーッ!」「アバーッ!」目、耳、鼻、口から炎が噴出し、ルミノセイバーは完全に死んだ!「サヨナラ!」爆発四散! ナムアミダブツ!

「お、オニイサン……流石ッス」クスバは鼻血を拭い、身を起こした。インシネレイトは手を差し伸べた。「大丈夫かお前? 悪かったな、咄嗟でよォ」「エ、エヘッ、俺がトロくさいから……大丈夫ッス。手加減してくれたッスよね。オニイサンの蹴り、暖かいッス」

「気持ち悪りィんだよ!」インシネレイトはクスバの頭を叩いた。クスバは笑い、床のグラス・アイス袋を手際よく回収、念の為の室内クリアリングを手際よく終わらせた。

「この後、焼肉行くかオイ」「ハイ!」クスバはインシネレイトのタバコに火をつけながら素早く頷く。そして上目遣いに見上げた。「焼肉の後は……オニイサン、あれッスか。サウナッスか」「ア? そうだよ」「たまには俺も連れてってほしいッスよォ」

「アー? ナメんなよ。ダメだ」インシネレイトは拒否した。「俺のサウナは、アレだ、一人になりてェ時間なんだよ」「一人に……すげェ……オニイサン、マジ哲学的ッス」「だろ? 俺の背中に学べ。とにかく、肉行くぞ」「ハイ!」


◆◆◆


「お目出度いフジサン」の高温サウナルームは薄暗く、石炭めいた赤い光が足元を照らし、腕組みして座るインシネレイトの体躯をぼんやりと浮かび上がらせている。ジゴクめいた高温の中で、彼は歯を食いしばり、玉の汗を滴らせていた。

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