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ジゴク・プリフェクチュアの結末に関する仮説


妖怪、豆腐、センパイ等のさまざまな物語が一堂に会する物理書籍「ハーン・ザ・ラストハンター」、既にゲットされただろうか? 今回、書籍発売にともない、毎週土日に「リアルタイム読書会」という試みを行った。これはデジタルとアナログを相互に補い合うイベントであり、書籍を手元に置いてTwitterにつなげば、ストリーミング設備や放送局が無くても作品の実況はできるという楽しい試みだ。とても盛り上がったのだ! あれをタイムラインで見かけてなんとなく気になった方も是非書籍を手に取ってみてほしい。

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さて、先週末は書籍内で特にキツめの描写が出てくる「ジゴク・プリフェクチュア」の同時読書会だった。普通にゴア・ホラーなので、ある程度人を選ぶ作品ではあったが、結末に関して、さまざまな読み方が可能な作品である事に気づいた。ここで作者本人に「あれはどういう事になるんですか」と直接に聞くのは無粋だと思うので、我々の方で色々と考えてみよう。

結末に関する事なので、当然ネタバレであり、ここからしばらくマージンを置く。














































未読の人は読んではいけない。


























































昏輪川村の食人族に襲われ、アシュリーとともに脱出したジョシュア。昏輪川村は山奥の孤立した村で、同名の川によって外界と隔てられている。行き来するためには鉄橋を通らないといけないわけだ。その鉄橋上には人骨、なめした皮、ビニールテープ等で築かれた奇怪なオブジェがあり(「め」のひらがなが書かれている)、外側に向けて、そこが尋常の土地ではない事を知らしめている。

アシュリーは橋を渡って脱出する。そこで警官隊に遭遇する。警官隊はアシュリーをその場で逮捕しようとするが、手にしているのはナイフだ。そこにジョシュアが合流し、彼らを皆殺しにする。警察車両の中にはツアー客の死体が満載されていた。ジョシュアは「全部がグルだ」と言い放ち、車を奪って、倶等川町に突入する。倶等川町の火の見櫓から双眼鏡で見張りがそのさまを確認すると、鐘が鳴らされ、住人が松明や凶器を手に飛び出してくる……。

ここで物語は幕を閉じる。つまりオープンエンドだ。ブルース・J・ウォレスが実際の結末をどのように意図して書いたのかを確かめるつもりはない。詳細な設定を構築したうえで、あえて切り落としたのか、あるいはホラー作品において常套的手段であるオープンエンド形式を踏襲したのか、その判断は我々にゆだねられているわけだが、ここはひとつ、読後の愉しみとして、できるだけ多くの考察を挙げて行ってみよう。


仮説a:倶等川町も食人のコミュニティだった

この場合、ジョシュアが見た・感じた通りの内容となる。つまり、昏輪川村は篠山県内に存在する巨大な食人共同体の一部に過ぎないのであって、倶等川町も昏輪川村と同様の村人は日頃から倶等川町へ行き来し、今回の有事(ジョシュアの反撃)にあたって協力を仰ぎ、山狩りを行おうとした。コミュニティから逃げ出そうとするジョシュアとアシュリーは食人社会の敵であり、外の世界へ逃がさず、全力で排除すべき対象である。

ジョシュア達はより厳しさを増す全方位からの襲撃に耐え、倶等川町、ひいては篠山県から脱出せねばならないだろう。


仮説b:ジョシュアが発狂している

「みんなグルだ」というジョシュアであるが、彼の言葉に対してアシュリーの見た事・感じた事は詳細には描写されていない。彼女はジョシュアに従ってはいるが、この時すすんで行動を共にしたとは見うけられない。彼女は恐怖によって従っているだけではなかろうか? 昏輪川村での絶望的な体験を生き残り、一個の殺戮者として完成されたジョシュアは、自分に向かってくる者たちすべてが食人族に見えてしまっているのではないか? ホラー映画等では主人公がまともな市民すべてを怪物と見なしてしまっていたような話は幾つか存在する。

ただし、記述の真偽を疑うタイプの考察はやろうと思えば何でも関連付けられる為、いわゆる夢オチ議論・トトロ議論のようなものになる危険をはらんでいる。厳密な客観性を欠けば最低限の考察ルールが崩壊するおそれがあるのだ。そういう意味では、このジョシュア完全発狂説を採用するに足る作中の根拠はやや不十分か。警官がナイフを持ち出したのはジョシュアではなくアシュリーが目撃しているし、警察車両の中にツアー客の死体が満載されていた。ともあれ、ジョシュアの精神状態が異常な仕上がり方をしている事は確かだ。


仮説c:何らかの歪んだ世界に落ちている

鉄橋の上の奇怪なオブジェとは何であったのだろうか? われわれ日本人からすれば、「め」のひらがなが書かれたあの物体は火消し棒を連想させるものだが、ウォレスの考えはまた違うだろう。あれが昏輪川の住人の手で、現世と常世の境界を示す何らかの神秘的な呪物として設置された可能性は十二分にある。

となれば、昏輪川村に足を踏み入れた時点でジョシュア達は我々が考える現実世界にもはやおらず、食人が是とされる歪んだパラレル世界を彷徨う定めにあるのかもしれない。それゆえ昏輪川村からの脱出はジョシュア達にとって何の解決にもなっていない。倶等川町に抜けた彼らが依然として人食いに襲われる事がその証左だ。村や町ばかりか、篠山県が……あるいは日本が……あるいは世界が……ジョシュア達に対して牙を剥くことになる。救いは無い。


仮説d:倶等川町は防衛行動を取っている

鉄橋の上の奇怪なオブジェは昏輪川村が倶等川町に対して突き付けた防衛境界のサインである。倶等川町の人々は日々、鉄橋の対岸に暮らす異常殺人者の集団に怯えて暮らしてきた。倶等川警察は通常の自治体とは異なる装備で警戒にあたり、発見即殺害という、日本の法律に照らしても違法な、自警団めいた体制を敷いていたのではないか。それゆえに彼らは盾とナイフで武装していた。車内に満載されたツアー客の死体は村民から奪取したものであり、こののち適切な手段で葬られる筈だった。

この場合、倶等川町の住人からすれば、警察官を皆殺しにしてバリケードを突破し町へ侵入してきたジョシュア達は恐るべき侵略者に見える。こうした時に備えた災害マニュアルが平時から敷かれており、侵略を監視していた火の見櫓では鐘が鳴らされ、自警団が武器をとって、ジョシュア達「村から来た人間」によるこれ以上の殺戮を阻止すべく、覚悟を決めて集まって来たのだ。

それはいかにも異常な対処ルールだ。日本の法律から見ても問題だらけだ。だが、それをいうなら昏輪川村の在り方そのものが既に常軌を逸しているではないか!


仮説e:国家的陰謀が隠されている

カナダから一週間で5万円というツアープランは凄まじい破格値である。これは実際ウォレスがその目で目撃して安さに驚いたツアープランの値段をそのまま用いたという事だが、とにかく安い、それは間違いない。もしや、このツアー自体が何らかの仕組まれた陰謀であったのではないか?

ヒロは昏輪川村がなにか国家的な大きな力によって隠匿され放置されているというアンダーグラウンド・フォーラムの説を半信半疑でジョシュア達に語って聞かせた。これが事実だとすればどうか? ヒロは日本を離れてカナダに在住しており、実際の日本の社会システムが物語時点で実際どのような変化を辿っているか、インターネットを通してしか知り得ない。たとえば日本の社会がヒロがいた時点から大きく変貌を遂げ、なおかつ他国の人間に一切それを知られずにいるとすれば……? つまり先進諸国のメディアぐるみでの隠匿によって! これ以上は危険だ。君もインターネットを止めてエクササイズをし、布団に入ってぐっすり眠って、この仮説を忘れよう。


仮説f:特に決められていない

ホラー作品がしばしば採用するオープンエンドの手法を、お約束的に・オマージュ的に、ウォレスが踏襲しただけかもしれない。結局のところ、物語の中の諸要素は強いて関連付けをしようと思えばいかようにでも関連付けられるし、「これは〇〇を暗喩している」の〇〇にはおよそ何でも当てはめる事が可能だ。いつか夏枯れの時が訪れ、死は等しく我々の人生を閉じてゆく。


あなたはどれにしますか?

いかがだっただろうか。色々考えるのは楽しい! これらの仮説a~fは、ざっと思いつくままに挙げてみたものだが、きっとさらに多くの可能性が隠されているに違いない。正解が果たしてどれなのか、敢えてウォレス=サンを問い詰めるつもりもない。こういった要素を意識しつつ、再び篠山県を訪れてみるのもいいだろう。森の奥から無事に戻ってこられるよう、客観性という道しるべは忘れずにね!


(本兌)


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  • 18本

筑摩書房刊行、「ハーン・ザ・ラストハンター」および「妖怪処刑人 小泉ハーン」の情報をまとめたノートです。イラストレーションは久正人さんです。 ◆書籍はこちら→  https://www.amazon.co.jp/dp/4480832106/ ◆筑摩書房特設サイト→ http://www.chikumashobo.co.jp/special/dhtls/

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