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S3第6話【エスケープ・フロム・ホンノウジ】分割版 #2

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「心を平静に保て」クレイグ隊長が低く言った。「恐れたり、おかしな動きをすれば、たちまち誰何される」隊長の声がトムの精神をあるべき位置に戻してくれた。彼らは合掌チャントを再会し、再び歩き始めた。「奴らは一心不乱だ」と、ヒロ博士。「市中で乱暴狼藉をするが、カラテを畏れている……」

 岩山から降ってくるカラテシャウトに怯えながら、彼らはボンズらしく穏やかに進んだ。騎馬のゲニンと一度すれ違ったが、ゲニンは合掌して通過した。ありがたいのだ。やがて彼らは岩山に穿たれたトンネル路に辿り着いた。紫の松明に照らされた恐ろしい道だ。「場所が深すぎる。ヤバイぜ」とホルヘ。

「博士、本当に問題ないんで?」アシュリーが尋ねた。彼女はヒロ博士の護衛であり、文字通り壁として銃弾を受けながら随行してきた。現場にあっては鋼の意志を持つ彼女でさえ、確かめずにはいられない。博士は請け合う。「ホンノウジ・テンプル城への間違いない侵入ルートだ。機会は今しかない」

「ホンノウジ・テンプル」と口に出す時、博士の声には緊張が伴った。当然だ。中心も中心、アケチ・ニンジャの居城なのだから。「……君らの懸念はわかる。だが私も当てずっぽうで冒険させるワケではない。クレイグ隊長と共に汚染カウンターを用いて発信源の特定の為のデータを集め、確信に至ったのです」

「そういう事だ」クレイグ隊長は認めた。「時期が早まっただけだ……」彼らは暗い紫に照らされるトンネルを進んだ。「ははは! 大丈夫ですよ」ヒロ博士は安心させるように声を出して笑ったが、緊張を深めただけだった。「なに、天守閣まで攻め上るわけじゃない。中庭、あるいは外堀あたりでしょう」

 長い長いトンネルを抜けると、目の前には運河。エンジンつきの艀が横に並び、灰色の水面を揺れている。上流には、黒い煙を方方で立ち昇らせ、五重塔群の頂上からパイロを噴き上げる威容。ホンノウジ・テンプル城……! 艀にゲニンの姿はない。彼らは鎖を素早く切断し、二組にわかれて乗り込んだ。

 ヒロ博士はトムと同じ艀に乗り込んでいた。彼はガイガーカウンターじみたポータブル装置を両手で持ち、瞬きせずに凝視していた。やがて電子音が鳴り始める。テン、テ、テテテテテ……「やはりだ! 敵はホンノウジ・テンプルにあり!」ヒロ博士は城のホンマルやクルワを囲む、恐るべき真鍮城壁を示す。

「ボートの速度をあげよう! 早く、早く見たい! ネザーキョウの汚染の源を! 急ごう、隊長! 頼むよ!」ヒロ博士はカメラを構え、興奮して叫んだ。トムは法衣の下でライフルを構え、灰色の川をすれ違う船舶を警戒した。アシュリーが「静かにしなさいよ、博士! アンタの態度、危ねンだよ」と小突いた。

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