【プレリュード・オブ・カリュドーン】
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【プレリュード・オブ・カリュドーン】

ニンジャスレイヤー公式/ダイハードテイルズ

◇総合目次 ◇初めて購読した方へ


サロウ

「ハアーッ……ハアーッ……ハアーッ」重金属酸性雨降りしきるネオサイタマの下町、ブブジマ・ストリート、金網にしがみついて背中を折り曲げ、サロウは荒い息を吐いた。「……ハアーッ……」やがて彼は首を振って背筋を伸ばした。追手がいないか警戒した後、彼は手にした新円のホロ万札を一枚一枚、震える手で数えていった。「これで……大丈夫かナ……」

 ピリリリ。携帯端末のアラーム音が鳴った。サロウは慌ててホロ新円を押し潰すようにまとめて懐にしまった。携帯端末をアスファルトの泥に取り落しそうになって、危ういお手玉をした後、なんとかそれを耳に当てた。「モ……モシモシ!?」『助けて! 早く!』「大丈夫! ダイッジョブだよ! 頑張って!」『お願い……!』「今すぐ行く! カネの都合はついた!」『ほ、本当に!?』「任せて!」

 サロウは通信相手の女性を必死に励ました。クリコ=サンは素敵な女性だ。ネオサイタマに辿り着くなり財布をスられて文無しになって途方にくれていたサロウを助けてくれた。彼女は低リスクでまとまったカネを用立てるやり方を教えてくれた。契約書は長大であったが、クリコが要点をまとめて伝えてくれた。そして30万新円を借りることができた。これで当座を凌ぐ事ができる……。

 しかしその喜びをクリコに連絡しようとした時、恐るべき事が起こった。クリコの元夫が現れ、彼女に婚姻が続いている事実を突きつけ、暴力をふるい、手切れ金200万を要求してきたのだという。どうしたらいいかわからず途方に暮れる彼を、たまたま通りすがったドクター・トジマという詳しい人間が救ってくれた。事情を知った彼は、サロウが持つ30万円を担保に、よりハイグレードな借金が出来ると教えてくれた。30万円の借金が110万円に膨れ上がった。担保があるから安全だ……利子だけ返していけばいい。

 クリコのほうでは200万円のうち80万円をどうにか捻出できるという。これで、助けられる。足りないぶんの10万円は……今……「用立てた」。これで、綺麗さっぱりクリコの因縁を断ち切って、彼女と二人、ハッピーなネオサイタマ滞在ライフを満喫できるだろう。

 ……事のあらましをかいつまんでまとめると、このような状況である。

 ここまで読んだ皆さんは、サロウに迫る危機にお気づきだろうか。最初の借金で彼は腎臓ひとつを、次の借金では両腕を担保にしている。彼はそれを知らない。契約書をあまり確認していなかった。安全だという事で、クリコとドクター・トジマに任せていたのだ。「利息が一度でも返せない時はすぐにそれらが"回収"され、粗悪な旧世代の代替サイバネティクス・パーツに置き換わるので安心」という安心オプション。安全とはつまり、身体部位を奪われても生きていく事が可能なように処置はしてくれる……という事だ。

「よし……行くぞ!」サロウは頬をピシャピシャと叩き、支払い場所として指定された雑居ビルの一階、薄暗い喫茶店に入っていった。店内に客はわずか。指定されたテーブルに、クリコは居なかった。かわりに若いサラリマンが一人、椅子に深くもたれ、腕組みしてクチャクチャとガムを噛んでいた。

「アンタが、エート……サロウ=サン?」「あれ……クリコ=サンは?」「いや、代理人ッスね、自分が」サラリマンはクチャクチャとガムを噛みながら答えた。「120万円、準備できたンスよね?」「あ……ハイ」サロウは懐に手を入れ、皺々のホロ新円札の束をテーブルに置いた。

「こ、これなンですけど……」「アー」サラリマンは頷き、ホロ万札をカウントしていった。彼を見ながら、サロウは指を小刻みに動かし、カタカタと歯を鳴らしていた。今この瞬間までの自身の行動を、彼は反芻していった。何かがおかしい。何かがおかしい。ネオサイタマは彼を陥れ、奪おうとしてくる。契約書の「安心オプション」の内容を、彼は映像記憶であらためて確認する。

「ネオサイタマは過酷……」サロウは呟いた。カネを数えながら、サラリマンは生返事をした。「そうッスよ。でもサロウ=サンがカネを用立ててくれたんで全部OKッス……サロウ(Sarou)、変な名前ッスね」「違います」「何スか?」「クリコ=サンは無事ですか?」「大丈夫じゃないスか? カネも用意できたんで。おつかれッス。……120万円ありますね。じゃ、帰っていいんで」

「俺の名前はサロウ(Sorrow)です。そういう名前の、ニンジャなので」「そうなンスね。エ……ニンジャ……」サラリマンは手を止めてサロウを見た。その目が恐怖に見開かれた。サロウの肩から、視認できるほどのキリングオーラが立ち上っていた。「ニンジャ……?」

「イヤーッ!」「グワーッ!?」サロウはサラリマンの顔面を無造作に掴んでいた。マンリキめいた力で両こめかみを握り込む!「ア、アバババーッ!」サラリマンが痙攣し、もがいた。サラリマン? 否、こいつは詐欺師である。サロウの指先を通し、この詐欺師のニューロンとサロウの精神が強制接続。真実を引きずり出す。

 この詐欺師の名前はトクフネ・ミタオ。こいつの名前はどうでもいい。サロウはこいつのニューロンを引き裂きながら、ヒューマン・ツリーを辿る。すぐにクリコのニューロンの居場所がわかる。この詐欺師のニューロンにニオイが残っているからだ。ここから2スクエアほど離れた雑居ビルの6階、ヤクザの事務所で、クリコは今……否、サリサ・ジワカミは今、ドクター・トジマと……否、トジマ・マオキと一緒に、ガラステーブルにラインを引いたコカインを吸引している。

「なんてこった……最初から全部筋書きが決まってたのか。親切にしてくれたのも全部嘘……マジか……すっかりハメられたんだなあ。恐ろしすぎるだろネオサイタマ」トクフネの頭を吊り上げながら、サロウはクスクス笑った。「アバッ! アバババーッ!」トクフネの痙攣が凄まじくなり、もがく足が椅子を蹴り飛ばした。「もうちょっと頑張れよ。頼むから」サロウは呟き、
クリコのニューロンに接続した。

「アッ!? アバババーッ!?」クリコ=サリサ・ジワカミは身体を仰け反らせ、目鼻から出血した!「何だッ!?」ドクター・トジマが仰天した。彼はサリサがワケのわからぬオーバードーズをやってしまったのかと疑ったのだ。既にその瞬間にサロウはトジマのニューロンに飛び移り、侵食を始めていたので、彼の視界と感情、思考の片鱗を味わうことができていた。

「アババババババーッ!」トジマは目鼻から血を噴出しながら死のダンスを踊る。「ウーン、フン、フン、フン、フーン」サロウは断末魔痙攣するトクフネの身体を掴んだまま、その場で同じ踊りを踊り始めた。喫茶店店内の客やウエイターが悲鳴を押し殺して彼の狂気を見守る。そしてヤクザの事務所では、既にトジマの向かい、頭が破裂して死んだサリサが床に転がっている。

「アババババババーッ!」事務所内、トジマが回転した先、ノイズにざらつく視界に、恐れ慄くヤクザ二人が見える。「アバババーッ!」左のヤクザ、ゴロ・ヤマダにチェインして破壊(その際、こいつが必要に応じて元夫役をやる手筈だと知った)し、そのあと右のヤクザにチェインした。そのヤクザはデルフィニアという名前のニンジャで、抵抗を破るまでに少し手間がかかった。

「ドーモ、デルフィニア=サン。俺はサロウって言うんだけどね」サロウは踊りながら、ニューロン越しにアイサツする。「アバババババーッ!」デルフィニアが全身から血を流し、暴れ狂う。事務所の隅に設置された金庫のナンバー情報を引きずり出す事ができた。十分だ。「サヨナラ!」デルフィニアの頭が破裂し、爆発四散した。ナムアミダブツ!

「イヤーッ!」サロウはセッションを終えた。「アバババーッ!」トクフネが砕け散った。ナムアミダブツ!「……ハァ……ネオサイタマ、怖すぎるな……ニンジャまで居た」サロウは死体を振り捨て、騒然とする喫茶店店内を見回す。「これからうまくやっていけるか不安だよ……」サロウは外へ出て、ヤクザの事務所がある雑居ビルを目指した。「ニンジャスレイヤーかァ。しっかりやれるかなあ。ボスに怒られるし……他の狩人たちも怖いし……仲良くやれる自信がないしなァ……」


メイヘム

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