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【プロメテウス・アレイ】#1

◇総合目次



ダン
1993_10_02

 やがてアパート前の路上でサイレンの音がうるさく聞こえてきたが、ダンはベッドの横に立ったまま、微動だにしなかった。

 玄関のブザーが鳴らされても、ダンは動かずにいた。

 ベッドの上で冷たくなっているリディアを、ダニエル・キャリントンは、ただじっと見つめる他なかったのだ。

 荒っぽくドアが叩かれ、怒鳴り声が耳に届いた頃、ようやくダンは動いた。リディアの瞼に触れ、恐怖に見開かれたままの目を閉じさせた。

 路上には、何事かと野次馬も集まってきていた。ダンは刑事の質問に淡々と答えた。

「私が殺したようなものだ」

「……つまり?」

 刑事が訝しんだ。ダンはポケットの中の、星型の金属片に触れた。この部屋の壁に突き刺さっていたものだ。彼はそれを警察に差し出そうとは思わなかった。

「この世には人智を超えた悪が隠れ潜む」ダンは呟いた。「私の責任だ。私は彼らの存在に気づきながら、何ら行動しようとしてこなかった。それが報いとなったのだ」

 刑事は沈痛そうに首を振った。


ダン
1997_11_11

 お前は甘い匂いがするから嫌いだ

 誰も聞いちゃいない 俺を信じるか

 俯いた頭をぐらぐらと揺さぶる癖毛のギタリストの横で、マイクに唇をつけたまま不明瞭な囁き声をあげるヴォーカルは、肋骨が見えるほどに痩せて、まるでアンデスのミイラだ。粗く切り刻まれた髪は染めた黒。照明の揺らぎの中、ときおりガラス玉のような目が垣間見える。

 俺を信じるか 俺……俺!

 囁き声は、いきなり叫びにかわった。ギターの轟音を浴びた彼は、鞭打たれたように背中をのけぞらせ、もはや意味を持たない咆哮を放ち続けた。ドラム・ビートの底をベースラインが這う。腹を殴りつけてくる。光と光の衝突。スモークの色彩は青から紫にグラデーションを描いた。

 満載の客。うねる音の波に身体をまかせ、ひきつけを起こしたように踊り、手を挙げる。ヴォーカルがフロアに平然と降りてくると、彼らは手をのばして触れようとする。

 ダンはバーカウンターの横に佇み、遠くからそれを眺めていた。

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