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【ケイジ・オブ・モータリティ】#10

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 強烈なAEDショックを受けたように、インシネレイトの身体がえびぞりになった。「オゴーッ!」ひときわ激しい嘔吐。クレッセントは彼の背中に掌を当て、周波振動を継続しながら、それを冷徹な観察者の目で確認する。「オゴゴーッ!」さらなる嘔吐! ……クレッセントは小さく頷いた。

 彼女は痙攣ヤクザの背中からゆっくりと手を離した。「これッて……」サイダ3が確認しようとした瞬間、「ショラアーッ!」インシネレイトは寝返りを打ちながらクレッセントの顔を蹴った。「ナメチャレッゾコラー!」「イヤーッ!」「グワーッ!」クレッセントは反撃殴打! インシネレイトは倒れ込む!

「スッゾ……! スッゾコラー……!」インシネレイトは口を拭い、震えながら身を起こした。床の生々しい吐瀉物、そして冷たく睨みつけるクレッセントを見、徐々に状況を把握する。「随分だな」クレッセントは呟いた。インシネレイトは舌打ちし、やや大人しくなる。「礼は言わねえ……ヨロシサン落とし前つけろや……!」

 壁際で座り込むガーランドが身じろぎする。インシネレイトは火のように走り、ガーランドを揺さぶった。「ガーランド=サン! 何なさけねェ真似さらしてンスか! ドシタンス!」「お前ほどではない」ガーランドはインシネレイトの手を振り払い、血を咳き込んだ。「少し、やられた」「あ、あの虫女……」

 インシネレイトはさらに状況を把握し、ハッと目を見開いた。「ニ、ニンジャスレイヤーって聞こえた気がすンスけど……」クレッセントを振り返り、「オイ、テメェ! 何があった、さっきまでよォ! ニンジャスレイヤーつったかァ!」「そうだ」答えたのはガーランドだった。「あの蝿と何らか関係がある」

「何だとコラァ……あの疫病神野郎……!」「待て。病み上がり」ガーランドはインシネレイトを掴んだ。「まず状況把握しろ。そして、ゲホッ」血を吐いた。クレッセントが無言でメディ・キットを放り投げた。インシネレイトは唸り、天井の裂け目を見上げた。ゴウゴウと空気が唸っている。

「……!」インシネレイトは訝しみ、頭上の裂け目の上の砂嵐様の色彩を見た。風の唸りにまじって、雷鳴が遠く聞こえる。そして……わあんわあんわあんわあんわあんわあん。この世の終わりじみた凄まじい羽音が、雷鳴をも覆い尽くした。


◆◆◆


『ザリザリザリ……ザリザリどうだオイ、ニンジャスレイヤー=サン! 何が起きてる! ノイズがすげェ、ハックした監視モニタが、クソッ』ニンジャスレイヤーのニューロンに微かにタキの声が響き、再び遠ざかった。どのみち、助けはもう要らない。ビルに侵入する為、コトブキの操縦するカイトとタキの力を借りた。十分だ。

 かわりに、ナラクの憤怒が戻ってきた。(((コシャク也。この地すべてを糧にしたか))) 周囲のボンボリ・ディストリクトの建物から無数の光る霧の松明が立ち上り、渦を巻いている。ベルゼブブはゆっくりと、濡れた羽根をひろげる。ビルを見下ろす大いなる存在の影が再びちらつく。

(アイエエエ!)(アイエエエエ!)(アババーッ!)眼下、阿鼻叫喚地獄図が今まさに繰り広げられる。人々の断末魔がニンジャスレイヤーの耳に入ってくる。幾筋もの蝿の大群が母のもとへ戻ってくる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げた。そして急速接近する!「イヤーッ!」

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