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S3第9話【タイラント・オブ・マッポーカリプス:前編】分割版 #7

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 コトブキが凝視する先、ニンジャスレイヤーとタイクーンは再びぶつかりあった。ニンジャスレイヤーの背中の火は禍々しい。しかしそのカラテは、何よりコトブキが知るカラテだ。だからコトブキはもはや何も恐れはしなかった。「……何ですか? タキ=サン!」『千載一遇のチャンスだ』「言ってください!」

『リコナーはネザーキョウの圧政で封じられてきたネットワークを今まで生かしてきた。それがキいて来てるッて話だぜ。オレらはナガシノで暴れただろ? あの時、どうもUCAのどっかのギークな野郎が侵入してきてたみたいでよ……オレのヤバイ・テンサイ神域ハッキングにタダ乗りした』「つまり?」

『堰き止められていたデータ・ストリームが溢れて、ネザーキョウ中の連中が通信のやり取りを始めた。バレたら殺されるがな』「胸糞悪い処刑ロードを見ました」『そうだ。だけど、そんな脅しで人類の欲望を止められるワケねえぜ。今のネザーキョウは騒がしいんだ。そしてそれが、敵の力を殺いでる』

 タキは早口を加速させる。『トラフィックが増えれば、奴らのジゴクの魔術は遅くなる! 奴らの軍隊が弱まるんだ! お前、隣の家の奴が急に大容量データ通信始めた時のブルシットを経験したことあるか?』「無いけど理解できました」『アレだ。アレをやりてえンだ、UCAのギーク科学者がな!』

「成る程……」『トラフィックをもっと増やしてえンだとよ。爆発的にな。そうすりゃネザーキョウは困った事になる。オレらの目的にも叶う。いいか? ボス一匹倒して終わる規模の国じゃねえぞ、ネザーキョウは』「しかし今は、死力を尽くした一騎打ちの最中です」『そうだ。だからチャンスなんだ』

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」タイクーンが四連続の打撃でニンジャスレイヤーを押す。ニンジャスレイヤーは右目の瞳を点めいて凝縮させ、異様なニンジャ動体視力を発揮して、それら圧倒的打撃を捌いてゆく。コトブキはバトルグラウンドを見渡す。そしてホンノウジ・テンプル天守閣を見る!

『そうだ、天守閣だ。どうにかしてそこから……ザリザリ……そこからザリザリザリ』「タキ=サン?」『ザリザリザリ』コトブキは訝しんだ。彼女は西の空を見た。そこへ不意に、異色の闇を白く染める光の塊が生じた。「……何です……?」光の塊は三つの連なり。何かの紋章を思わせる。さながら……。


◆◆◆


「AAAARGH!」「AAAAARGH!」異彩の空と黄金の立方太陽の下、オニの戦士達が首を巡らせ、目を光らせ、吠え声を上げた。凄まじい殺意と刃がセーラー服の少女に向けられた。しかしヤモト・コキは歩みを止めなかった。桜色に光るマフラーをなびかせ、カタナに手を添えただけだった。

 異常な空だ。だがポータルをくぐってこの地に入る前の常世の世界の空も、もはやこの地と変わらぬありさまに成り果てたのである。「AAAARGH!」「AAAARGH!」オニ達はウルシ塗りの鎧で武装し、背中に「明智」「鬼と明智」「ねざあ軍」などの威圧的ショドー旗を背負っていた。

 ヤモトの目が強く光った。肩の上に浮遊していたオリガミが次々にツルの形を取り、眩しく輝きながら飛翔! オニ達の眼前で爆発!「AAARGH!?」「イヤーッ!」ヤモトは跳ねた。着地した彼女の背後で、オニ達の胴体がわかれ、溶岩質の大地に転がった。ヤモトはもはや走り出していた。黒い丘に法螺貝が鳴り響き、オニ達が叫ぶ。

 砂塵を起こしながらオニ達が黒い丘を駆け下りてくる。ヤモトは走りながら次々にオリガミを浮かべ、空に放つ。桜色のツルは放物線を描いて飛翔し、オニ達に降り注いだ。「サフォスサフォスソ!」眼前の亀裂を押し拡げ、触手の群れが跳ね上がった。「イヤーッ!」ヤモトはイアイした。

「サフォス!」イタマエにひらかれたタコじみてバラバラに飛び散ったヘグイには目もくれず、ヤモトは黒い丘の方向へ走りを転じ、自らオニの群れに向かっていった。オニ達は舞い狂うオリガミに翻弄され、雲霞を斬り裂こうとするように無駄に空をカタナで斬り、躍起になっていた。

 そこへヤモトは到達。歩みを遅め、向かってくる最初のオニに呼吸を合わせる。「AARRRGH……」「イヤーッ!」カタナが斜めに切り裂く!「アバーッ!?」オニが血飛沫を上げ、彼女の後ろ、丘の斜面を転がってゆく。次のオニ!「AAARGH!」「イヤーッ!」「アバーッ!」ナムサン! 斜面を転がる!

「AAAARGH!」第三のオニ!「イヤーッ!」ヤモトは背中を向けながらカタナを後ろに突き出し、オニの腹を貫く!「イヤーッ!」「アバーッ!」そして切り裂きながら振り向き、第四のオニに横から斬りつける!「イヤーッ!」「アバーッ!」ゴロゴロと斜面を転がる死体!「イヤーッ!」「アバーッ!」

 黄金の立方体の逆光となって、丘の上をゆくヤモトと襲いかかるオニ達の影が次々に交差したが、生き残ったのはヤモトだった。彼女は歩きながらカタナを鞘に収め、丘の向こうを見下ろした。荒れた大地がどこまでもひろがっている。朽ちた古い死骸とノボリ旗を、ネザーの砂嵐が洗ってゆく……。

 すさまじいありさまの古戦場に、ヤモトは心動かされる。そして彼女はこの不毛の大地に、どこか懐かしさをすらおぼえている。「ヨモガハマ。この先に」ヤモトは呟いた。「間違いない」彼女の瞳の光は急激に強まったが、強まるに任せはしなかった。立ち止まり、目を閉じ、開き、ヤモトは先へ進む。

 感じる。奪われしニッタ・カタツキが放つ周波数を。このネザーの地はどこまでも不毛でありながら、表情豊かでもあった。それは野放図な混沌の果て、あまりにも目まぐるしく移り変わるサイクルが時の流れを無意味化した先に訪れる停滞の姿だった。彼女は溶岩の川の岩の橋を渡り、溶けた谷を抜けた。

 この地にニッタ・カタツキがあるならば好都合。いわばアブハチトラズである。彼女は茶器の力を用いてヨモガハマへ向かう必要があった。そして彼女のニンジャソウルであるシ・ニンジャと、今この時しっかりと対峙しなければならぬのだ。「……」彼女はバンブー林の中で身を屈め、力の源を覗った。

 ネザーのバンブーは、ほんのりと内から光を放っている。奥ゆかしいボンボリめいた森を抜けようとした彼女は……バンブーに身を寄せ、その先にある影を注視した。庵である。「……」眉根を寄せる。オオオオン……。共鳴音を彼女のニンジャ聴力は確かに捉える。茶器の音だ。

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