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重忍機ガイオン:【泥と鋼】

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【泥と鋼】

 この戦争の原因なんて、覚えてる奴は誰もいねえ。

 エテルニウム資源の奪い合いだとか、王子が暗殺されたとか、もっともらしい理由を探そうとすればなんだって後付けはできる。だけど、そんな個別の理由で、何十年も、何百万人も死に続けるような戦争が続くはずがないだろう。

 多分、国家とか企業とか、そういうものよりずっと上の方に居る連中が、合成じゃない本物の牛肉のステーキでも食べながら、「今年はここで戦争を起こそう」「来年あたり、あっちで戦争を起こそう」そんな具合で決めてやがるに違いないのさ。だから俺は平和を祈る事なんてしない。それはクソ野郎に祈る事になるからだ。死ぬときは泥と鉄のにおいにまみれて、誇りを持って死んでやるさ。

 ……「起きろ。イダ。起きやがれ!」キャンプの外で俺を呼ぶ喚き声が聞こえる。ヤマノだ。うるせえ奴だ。アラームを確認するが、起床時間までまだ一時間もあるじゃねえか。「何だようるせえな……。大した事ねえ理由だったらキンタマ引きちぎって食わせるぞ」俺はテントの外に叫び返した。「マザーファッカ野郎! 堰が崩れてンだよ! あと10分もすりゃ、こっちのキャンプ地が水浸しになるんだっての!」「アアー!?」

 俺は迷彩服を着て軍靴を履き、テントを開けた。ヤマノが陰気なツラで俺を見た。冷たい雨がバラバラと降り始めていた。「クソが!」「早くしやがれ!」「マザーファッキング・クソが! どこのバカのせいだ!」「昨晩のクソ大雨のせいだろ!」「ならその雨に備えなかった偉いクソ野郎のせいだろ!」「まあそういう事だろ。そいつ連れて来いよ。お前がな。できねえならお前もやるんだよ」「クソファッククソ!」

 俺は雨の中に出、ヤマノと共にキャンプ地を横切った。パウー……パウー……遠くでサイレンが鳴っている。こっちとは関係ない。俺らドブネズミ分隊は今回、物資輸送任務を上から命じられて、このクソみたいな谷をモゾモゾ進んでいるって塩梅だ。

 俺とヤマノはもう何人かをかき集め、問題のポイントに到着した。最悪だ。先遣隊が築いた堰が今にもファックしそうなありさまで、歪んで生まれた隙間から泥水がピュウピュウと漏れ出ている。小便小僧のクソ小便みたいに。「遅いぞ貴様ら! このクソども! クソ溜まりに顔を突っ込んで上から小便かけてやろうか!」分隊長のカガワが怒鳴った。

 しかし、俺らの士気は最低まで落ち切っている……いや、落ち切っているというのは不適切か? はじめから最低なんだからな。「申し訳ないであります!」「スミマセンであります!」ヤマノと俺はスコップを斜めに頭に乗せておかしな敬礼をした。ププクス……作業していた誰かが笑った。「ファッキング・コックサッキング野郎!」カガワは耳ざとく聞きつけ、そいつの頬を張った。

「ンだよクソが」「全くよォ」ブツブツと呟く声が雨音に混じった。それ以上カガワも何もウサばらしはできない。この分隊のテンションは危険な状態で推移している。たとえばこのクソ作業も、カガワ自身が泥まみれになって頑張っているから、かろうじて俺たちは命令を聞く。ふんぞり返って俺らに全部やらせようものなら、俺らは反抗してメタメタにファックしてやるところだろう。カガワはそこそこガッツのある奴だと、俺らは評価していた。前の分隊長はそこのところを勘違いしていやがった。不幸にも崖から落ちて事故死しちまったが。

「全くよォ! 工兵連中の手抜きファッキング・クソ仕事のツケがこうやって回って来るってのはよォ!」「分隊長どの、NINJAにやらせるッて事はできないんでありますか!」「NINJAだと?」「そうですよ!」俺は崖の上で頭部を旋回させているNINJAを指さした。

 NINJAについて説明していなかったか? 面倒くせえが仕方ねえ。NINJAってのはこのクソファッキング戦争の主力兵器。全長9メートルで、人が乗る。パワードスーツつうか、メックつうか、そういうやつだ。鳥みたいな骨格フレームを、ほとんど間に合わせみたいな鉄板と装甲タイルで覆っている。あれ一機で、俺らドブネズミ分隊の人間全員の命よりも価値がある。当然カガワ分隊長の命も勘定に入れて、それでもだ。

 何しろNINJAってのはとてつもない代物で、ゲコゲコ音を立てて歩くだけじゃなく、ブースターとローラーを用いたダッシュを行えば戦車の最高速度よりも速い上に、やたら小回りが効くし、御大層な人工知能システム「S.O.U.L」を搭載しているから、両腕のアサルトライフルの命中精度はほとんど百発百中、ロケットランチャーも肩に積んでいるし、10メートルぐらいの高さを平気でジャンプしやがる。

「アースクエイクなんて大層な名前してるんスから、ちょっとあれをこっちまで降りてこさせて、なんかイイ感じで堰をヘシ曲げてですね、うまくでっち上げりゃいいんじゃないですか?」「このクソファッキング・アホめ!」カガワは百倍デカい叫び声で俺に怒鳴り返した。

「NINJA一機一機が国家的資産だ。その運用方法は非常に厳しく定められているんだぞ! アレに貴様らウジ虫どもの仕事をやらせるだと? 調子に乗るな! 今もアレはフル稼働で哨戒を行っとるんだ。ほかでもない貴様らファッキング・スカムどもの安全のためにだぞ! いいか、この任務は非常に重大で神聖なものだ。失敗は許されんのだぞ。いつ敵が襲ってくるかもわからん。自殺したいのか! したいならさっさとそこでしろ! 死んでからゾンビになってどこかファッキング遠いところ、腐乱死体になっても俺らが気にしない場所まで自分で歩いてから好きに腐り果ててガスでも吐いてろ!」

「でも、敵って言われてもですね、分隊長どの」ヤマノはシャベルで泥土をむなしく積み上げながら言った。「こんなクソ後方の、いわばさいはてでですね、何のために敵が出張ってくるっつうんですか? コンビーフ缶詰の為に!」「このクソファッキング大バカ者! そのコンビーフ缶詰が届かない事で何十人の精鋭兵士の命が失われると思っておるのだ!」

「何十人って……この戦争で今まで何万人死んだんですか? 精鋭もクソも、結局見張りを見張るような無意味な任務の為に使いもしねえトーチカを守ってる無駄な連中じゃないですか。そんな無意味な奴らの為にメシを届ける俺らなんて、無駄に無駄を重ねたスーパー・ファッキング・アルティメット・クソ分隊ですよ!」

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