【滅王の冠】
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かつて世界を照らした
キンカク・テンプルの輝きは失われ
世界は無常の霧に覆われ尽くした
栄華は果て
知識は失われ
文明は灰燼に帰し
人類は数千にまで減った
いつとも知れぬキンカクの再生と
力の復活を夢見
あてもなく彷徨うオヒガンの民
人類はもはや
「耐え忍ぶ者」なのだ
おお、そして新たなニンジャよ
呪われし石門をくぐる身の程知らずよ
見る影もなきオヒガンに
この無常の世界に
それでもなお望むのは
屍の山か
民なき虚しき王国か
キンカクを再び輝かせ
オヒガンを再興し
人の世を再び取り戻す
その過ぎた野望に
滅王は闇のカラテで応えるであろう
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ハイニンジャファンタジー小説
【滅王の冠】
第1章
聖なるフジサン・マウンテンの五合目。険しい断崖の地にオヒガンの光を留めた休息領域は乏しい。その貴重なポイントのひとつで今、ニンジャ五人からなるパーティーは、弱々しい焚き火を囲んで座っていた。
「過去の旅人たちの記録が残されているのは、この復活拠点が最後だ」パーティーのリーダーであるニンジャ、勇者ドミナントは他の四人を見回し、力強く言った。「ここより先は人智の及ばぬ領域。だが、おそらく……フジサン・マウンテンの頂上に、キンカク・テンプル復活の鍵を握る神秘の領域が存在する」
「いよいよね」尼僧ディグニティがドミナントの肩に手を置いて熱く見つめた。ドミナントは頷いた。「今までで最も激しい戦闘となるだろう。だが我々は力を蓄え、伝説の武具を集めてきた。今こそ人類英雄となる時だ」「その通り!」重戦士レッドゴリラは唸った。「俺の暴力はもはや地上最強となったぞ」
「ただのおめでたい脳筋! まあいいわ」魔女イリテイションは目を細めて笑った。「せいぜい皆の盾になってよね」「任せておくがいい。だが強い武器は俺が真っ先に頂く!」
「……皆さん。チャの準備が整いました」ためらいがちに言葉を挟んだのは、パーティーの最後の一人、茶師のカイである。茶師とは?
茶師とは即ち、茶導の師。チャに魔力を込め、休息地での体力回復をブーストするスキルの使い手だ。戦闘や探索の役に立つスキルではない。「チャがヌルいんだけど!」イリテイションが睨んだ。「確かに」ドミナントは顔を曇らせる。「スミマセン」カイは頭を下げた。「気圧が低く……」
「ザッケンナコラー!」レッドゴリラはヌルいチャをカイにかけた。非道! しかしカイは言い返せず、弱々しい愛想笑いを返すばかり。ドミナントはレッドゴリラを制した。「よせ。そのような弱い者いじめは歴戦冒険者にふさわしくない」「フン!」「だが、この件については、今から話そうと思っていた」
ドミナントは皆を静め、そして、切り出した。「カイ=サンは実際頼りない。この先の冒険に耐えられないと私は判断した。ここに、置いていく」「な!?」カイは青褪めた。「い、一体それはどういう」「解雇という事ですわね」ディグニティが言った。彼女は既にこの方針をドミナントから聞いているのだ。
「当然ね!」イリテイションはせせら笑った。レッドゴリラは頷いた。「こいつの弱っちい愛想笑いには日頃からイライラさせられてきた! クビは当然だ!」「だいたいスキルが地味すぎ。戦闘で役に立ちもしない」「ポーションで勝てたら苦労せん!」「否めませんわね」罵る彼らを前に、カイは震えていた。
「チャは皆さんの傷を癒やし、能力を……」「ややこしい! 黙れ!」「ヒッ!」レッドゴリラが黙らせる。「この地で落ち合う約束をした勇者がいる」ドミナントはその者の気配を感じ取った。「時間通りか。流石、私が認めた油断なき戦士」霧に影が浮かび、焚き火領域に美少年のニンジャがエントリーした。
「ドーモ。マークスリーです」「ドーモ、マークスリー=サン。君を迎え入れる事ができて光栄だ」「よろしく」「ははは! 俺より目立ったら承知せんぞ」「カワイイ美少年!」「皆が知っての通り、彼と私は切磋琢磨するライバル同士。心強い仲間となるだろう。皆、いいか?」「「「賛成!」」」
「エ……つまり……」カイは和気藹々とする彼らを前に慌てた。ドミナントはマークスリーと握手しながらカイを見た。「悪いが、知っての通りパーティーの最適人数は5人。君のかわりに、彼を加える。君は、来た道を辿って一人で帰るがいい。道中のモンスターは、登りの行程で倒して来たから安全だろう」
「逃げ帰る事すら出来るか怪しいぞ。ハズレスキル野郎めが。不快なザコ面を俺に二度と見せるな!」「グワーッ!」レッドゴリラがカイを蹴飛ばした。「アーララ、カワイソ」イリテイションは涙目のカイを見下ろして笑う。マークスリーはゴミを見るような冷たい眼差しを投げた。誰も庇ってくれなかった。
その時である。焚き火の火が不意に消えた。「何?」イリテイションが不思議がると、ディグニティは警告した。「この地に届くキンカクの加護の残滓はごく僅か。復活拠点といえど油断はできません!」応えるように、空から咆哮と風が降ってきた!「ゴウオオオオン!」ブラックドラゴンだ! 酸ブレス攻撃!
「イヤーッ!」ニンジャ達は前転ローリングでブレス攻撃を回避! カイも躱した! 彼とてニンジャだ。だが誰も見ていない。「迎え撃つ!」ドミナントが号令!「早速ドラゴンとは景気が良い!」レッドゴリラは必要筋力70の巨大斧を構える!「狂気の百相よ、我に応えよ!」イリテイションが高位呪術で攻撃!
「ゴウオオオン!」ブラックドラゴンは吠える! レッドゴリラは必要筋力75巨大盾で尻尾打撃をガード! ディグニティは回復詠唱と並行し、神秘の帳でパーティーをブレスから守る! だがカイが帳からはみ出ている!「グワーッ!」吹き飛ばされ、荒れ地を転がるカイ! 体勢を立て直そうとするが、崖が崩れた!
「誰か……!」カイは崖の縁にぶらさがった。誰も彼を顧みない。マークスリーは冷属性と断裂属性二刀流細剣で回転しながら斬りかかり、ドミナントは聖剣でブラックドラゴンの尻尾を切断する。ボーナス秘宝がドロップだ!「助……」KRACK……岩が崩れ、カイは転落した。底の見えぬ霧の中へ。
"YOU PERISHED..."
エメツ -114643
第2章
ゴゴーン……。岩々が軋み合う音で、カイは目を醒ました。起き上がり、じっと手を見る。そして顔を上げた。「ここは?」復活拠点ではない。半径500メートルはあろうかという円形の空洞。上は霞んで見えない。落ちてきたのだ。「ここは一体……アイエッ!?」目の前に、黒装束の影が座っている!
「よく来たな。カイ=サン」影は語りかけた。「なッ……何故ぼくの名前を?」「オヒガンに繋がりし我らは本来、相手の名を知るなど造作もなき事。私は探偵者フジキド……この呪海に縛られし、ニンジャの成れの果て」影は黒装束の輪郭に橙の火を閃かせた。「オヌシがここに来たのは運命の導きであろう」
「運命?」「然り。私はもう長くない。"ナラク" を次のニンジャに引き継がねばならぬ。そこへオヌシが落ちてきた」フジキドは懐から大きな布塊を出した。否、布塊ではない。それは赤ん坊めいて、赤黒のおくるみに包まれた禍々しい存在である。「コロスベシ」ナラクは呟いた。いわば、ベビーナラク!
「落下死する筈のオヌシの命を繋ぎ止めたのは実際このナラクだ」「コロスベシ」「ナラクこそが鍵。此奴をフジサンの頂上に導き、オヒガンの理を取り戻してほしい。私はもはや力失せ、此処より動けぬ」ナラクはおくるみごと浮遊し、カイの横に浮かんだ。そして、じっとカイを見つめ「グググ」と唸った。
「無理です」カイは慌てた。「ぼくは茶師です。パーティーでは地味な補助しか出来ずクビになりました。ぼくのスキルはチャドーしか無いんです!」「チャドーしか、だと!?」フジキドの目が物騒に光った。「何たる体たらく! 私の現役時は、チャドーこそ最強のスキルであったぞ!」「そんなバカな!?」
カイは信じられなかった。「チャドーは休憩地点で皆にチャを飲ませてバフする事しか出来ないですよ!? 補助専門のスキルで……」「愚か! それはチャドーのイチ側面に過ぎぬ。チャとは茶。すなわちチ、血と似る。つまり同じだ。茶ではなくオヌシ自身の血を霊薬たらしめ、戦うのがチャドーだ!」
「そんな! そもそも危険では?」「私もまたチャドーの使い手であった。ゆえにオヌシの潜在能力が見える! 自己卑下に甘んずるな!」「コロスベシ!」「ナラクもなついておる」「しかし……」「今、試せ。呼吸せよ」フジキドの有無を言わさぬ言葉に、カイは従うしかなかった。「スウーッ……ハアーッ!」
すると、ゴウランガ! 呼吸は大気中に残留するキンカクの加護の残滓を体内に取り込み、血液を輝かせ、カイの体内に力を循環せしめたではないか! 能力がバフされるとチャドーの効果も高まる! さらに能力がバフされる!「ウワアアアーッ!」カイは赤黒のオーラに包まれ、燃え上がる!「グワアアアーッ!」
ナムサン! 内なる炎で死ぬ! だがその時ナラクが共振した!「コロスベシ!」カイはナラクと一体化し、自壊を免れ、しっかりと立つ! ナラクが預かっていた114643エメツが還流増幅! 極度成長!「見立て通りだ!」フジキドは力強く頷いた。「精進せよ。私が果たせなかったクエストを達成するのはオヌシだ」
「しかし、山頂には今頃ドミナント=サンのパーティーが……」カイは解雇の記憶を回想し、表情を曇らせた。だがフジキドは気にしなかった。「山頂には衰滅の王が立つ。生半のニンジャが打ち克てる存在ではない。彼らは恐らく全滅。よいか。奥にある門を通ってゆけ。その先の滅牢でオヌシは従者を得る」
「従者?」「かつてナラクと私が倒したニンジャ達だ。皆邪悪で、しかも私を恨んでおるが、腕は確かだ。いつか訪れるイクサに備え、彼らを滅牢に封印した。召喚すれば力となる」「そんな奴らを従える事などできません!」「オヌシは真のチャドーを知った。その証であるナラクを見せれば、彼らは従う筈」
「本当ですか?」「コロスベシ!」ナラクが請け合うように答え、フジキドは頷いた。「時間が来たようだ」その姿が崩れ始めた。「よいか。チャドーとはフーリンカザンなり。それを忘れるな。ナラクと力を合わせ……世界を……」「待ってください!話はまだ半分」「オタッシャデ」「フジキド=サン!」
カイは絶望した。だが、傍らに浮かぶベビーナラクがカイの袖を引き、指差した先に、進むべき門があった。「わかったよナラク」「コロスベシ」歩き出すとベビーナラクもついてくる。「お前は一体何なんだ?」「コロスベシ」「答えられないか。そりゃそうか、アカチャンだもんな」「コロスベシ」
門の先には第一の滅牢があった。「てめェナラク! よくも俺を閉じ込めやがって!」闇術師が鉄格子にしがみつき威嚇!「罰当たりな話は売るほどあるぜェ! 今すぐ俺を解放しやがれ!」牢には「デスドレイン」の名があった。カイはナラクを見た。「こんな奴を仲間に?」「コロスベシ」ナラクは頷いた。
「ヒャア自由だ!」デスドレインを従え進むと第二の滅牢。全身に針を刺した血の呪術師アゴニィは奇怪なポーズで静止していたが、ナラクの存在を感じてビクンと動いた。「ア、アーイイ……オブジェの時間ですか? それとも痛みを、イイーッ!」「こいつ大丈夫なのか?」「コロスベシ」ナラクは頷いた。
第三の滅牢には腕組み直立する危険な丈高い戦士。「ザンマは解き放たれ、キンカクに弓引き夜を狩り朝を葬らん」「ナラク! コイツに話が通じる気がしない」「コロスベシ」ナラクは諭すように首を振り、カイに封印を解かせた。ザンマは必要筋力45信仰60の異形武器ザンマブリンガーを手に、牢から出て来た。
第四の滅牢には光り輝く稲妻の化身がいた。雷霆アガメムノン。彼は不思議そうにカイを見、高い知能指数によって5秒で全て理解した。「面白い。では君がフジキドからナラクを引き継いだのか。チャドーの戦士が再びこの地に現れるとは!」カイは唾を飲んだ。一番話が通じそうだが、絶対に危険だ。
ともかく、これでパーティーが成立した。邪悪なニンジャ達はカイを値踏みする。「ヘヘヘ、お手並み拝見といこうじゃねえかチャドーの勇者様ァ」「私は瀕死状態で攻撃力が増えます! さあ痛めつけて!」「ザンマは破壊を寿ぐ」「カイ君、私に仕える気はないかね?」彼らを従え、カイは昇降機に乗った!
呪海を離れると従者達は光に変わり、ナラクの中に入った。数千メートル上昇する昇降機の重力に耐えながら、カイは己が為すべき事に思いを馳せた。キンカクの加護を復活させ、世界に調和を……ニンジャが耐え忍ぶ時代を終わらせ、新たな時代を!「おれに出来るだろうか」「コロスベシ!」反撃の時間だ!
第3章
「こんな、バカな」屍水晶の林立するフジサン山頂領域。ドミナントは惨状の中で立ち尽くしていた。ディグニティは既に、悲鳴姿勢で物言わぬ石像。邪竜バジリスクの石化ブレスが防護を破ったのだ。「シャギャーッ!」バジリスクは目を爛々と輝かせ、食いしばった牙の隙間から致命の石化ガスを漏らす。
「ウオオオーッ!」レッドゴリラが巨大盾を構えて石化ブレスを防ぎながら突っ込んでゆく。「シャギャーッ!」「アバーッ!」彼に横から喰らいつき、振り回して壁に叩きつけたのは、第二の邪竜、ニーズヘグであった。もがくレッドゴリラを、無慈悲なニーズヘグの前足がぺしゃんこにしてYOU PERISHED。
「こいつ呪術が効かない!」イリテイションが必死で呪術攻撃を繰り返すが、バジリスクは平然と向かってくる。邪竜は内なる呪力によって免疫を得る!「ちょっと! 誰か助け……」「シャギャーッ!」「アバーッ!」YOU PERISHED! マークスリーはニーズヘグにかかっていくが、硬い鱗に刃が通らない!
「ありえない。こんなの嘘だ」ドミナントは聖剣をむなしく構え、壁を背に、現実を受け入れがたい思いだった。彼のパーティーは歴戦のニンジャの集まりだ。道中の敵達は確かに強かったが、いつもならば楽勝……いつもならば……いつものようにチャのバフがあれば……?「カイが居ないせい……なのか?」
『神域侵しは死にて贖えぬ罪』脳に直接声。ドミナントは慄いた。乱戦の中、眼前に突如、異質な影が出現したのだ。本能で悟る。領域の主、滅王。闇に堕ちしニンジャ、即ちダークニンジャだ!『キンカクの光は卑賤の人類に分け与えるべきものに非ず』「ウワアアーッ!」ドミナントは聖剣を振りかぶった。
滅王が手を翳すと聖剣の鋼は屍水晶と化し、脆く崩れた!「今だ!」ドォン! 致命の音が響いた。マークスリーが滅王に背中から刃を突き刺した……否!「グワーッ!?」もがきながら逆に宙に持ち上げられたのはマークスリーだ! 滅王の背中から飛び出したカマキリの腕めいた複節の刃が美少年を貫いていた!
「グワーッ!」複節の刃は内なる光に仄白く輝く。マークスリーは呪いで一瞬のうちに屍水晶と化し、爆発してYOU PERISHED!『我が領域で滅びしニンジャは拠点復活を禁ず。永劫に此処に留まるべし』滅王の言葉でドミナントは気付かされる。この地に乱立する墓石めいた水晶は皆、倒されたニンジャ達……!
「バカな! 冗談ではない! 消滅するなどと……」『イヤーッ!』滅王はネンリキで首を締めた!「グワーッ!?」ドミナントはもがきながら宙に浮く! 二匹同時出現の竜がその処刑のさまを侮蔑的に見下ろした。ドミナントの脳裏をよぎるのは後悔の念。カイのチャドーを軽んじたのが敗因だ。彼を連れて来ていれば。後悔しても、もう遅い。
「Wasshoi!」而してその時! 決断的カラテシャウトを轟かせ、赤黒の影が滅王の領域に飛び込んだ! 赤黒のオーラを纏い、たすきがけのスリング布でベビーナラクを胸に固定したカイが、ドリル回転トビゲリで滅王を貫いた! 滅王は光に変わり、転移回避! ドミナントは解放されて地をなめる!「グワーッ!」
ドミナントは震えた。「何故お前が……」「色々あった」カイは答え、ベビーナラクに触れた。そして新たな獲物に舌なめずりする巨大な二竜を見た。空にはキンカクの輝きが浮かんでいた。この領域に閉じ込められ、外に届かぬ黄金の光の源。それを背に、日蝕めいて浮かび上がった滅王がカイを見下ろした。
『新たな愚者が神域に至りしか。なべてこの世の理の礎となれ』滅王は二竜に攻撃を命じた!「「シャギャーッ!」」バジリスクとニーズヘグが襲いかかる!「スウーッ! ハアーッ」カイはベビーナラクと一体化し、赤黒のオーラは装束となって衣を覆う! 漲る力! これぞチャドー!「おれの力、大体わかった」
「イヤーッ!」二竜の牙、爪を、カイは特殊ステップ回避でノーダメージ!「コロスベシ!」同化したナラクが従者たちを召喚!「ヘヘハハハ! やるぜェ!」闇術師デスドレイン!「イイーッ!」痛みの使徒アゴニィ!「死地これザンマ在り」旧き英雄ザンマ!「これが今回の敵か!」雷霆アガメムノン!
「ゆくぞ!」カイの号令一下、四人のニンジャは動いた。「ザンマ!」「アバーッ!」ザンマはいきなりアゴニィを背中から刺し貫いた。「イ、イイ……」「ザンマ!」「アバーッ!」さらに蹴り飛ばす!「イイーッ」悶えて赤く光るアゴニィ!「ザンマ!」ザンマはアガメムノンを攻撃! アガメムノンは無雑作に雷霆転移回避!
「シャギャーッ!」バジリスクが石化ブレス浴びせる。ザンマは魔剣ザンマブリンガーの風圧で強引に切り開き、回転跳躍! 竜の顎から喉にかけ、一撃で断ち割った!「アバーッ!」「いい穴開いたじゃねえか!」デスドレインが手を翳す。暗黒物質を虚空より召喚、バジリスクの体内へ注ぎ込む!「アバーッ!」
「ヘヘヘ……暴れンじゃねえ」「シャギャーッ!」ニーズヘグが闇術姿勢のデスドレインを噛み殺しに行くが、割って入るのはアゴニィ!「私に、イ、イイーッ!」噛まれながら、全身の針を長く飛び出させた! 禁断の血の針の術だ!「ゴアアア!」苦悶するニーズヘグの眼前にアガメムノンが浮かび上がった!
「竜……所詮は年経た長虫よ」アガメムノンは全身を白く輝かせ、ニーズヘグの眉間に稲妻の矢を撃ち込んだ!「アバーッ!」逆側では、バジリスクの体内で暗黒物質が膨張し、内側から破裂させた!「アバーッ!」ゴウランガ! 何たる強さか! ほんの僅かな時間で最も強いドラゴン二体がスレイされたのだ!
竜の死に呼応し、さらなる魔物が出現する。サイクロプス! コッカトリス! ダイアウルフ! ヘルフィーンド! カコデモン! ジャイアントマンティス! ガーゴイル! どれも神話辞典に記されし幻獣たちだ。「ヘヘヘヘ……」「アーイイ」「ザンマ!」「やれやれ。面倒ばかりかかりそうだ」全く怯まぬ四人!
赤黒のニンジャとなったカイは幻獣を仲間に任せ、地上に降りた滅王と対峙!「イヤーッ!」右拳!「イヤーッ!」左拳!「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」四人の無双を背景に、目にも留まらぬカラテ連打! 滅王は真っ向カラテを受け切る。そしてワンインチ・パンチを返す!『イヤーッ!』「グワーッ!」
KRAAASH! 背中から屍水晶に衝突し、カイは一撃で瀕死! 急ぎチャの瓶を掴み、飲み干して体力を回復するが……『イヤーッ!』「グワーッ!」滅王の踵落としがカイを叩き潰す! 転がって離れ、再びチャの瓶を掴み、飲み干して体力を回復するが……『イヤーッ!』「グワーッ!」そこに攻撃を受けてしまう!
「これはジリー・プアー(徐々に不利)だな」アガメムノンが腕組みした。デスドレインが嘲笑う。「ヘヘヘ、アマチャンめ。回復タイミングは狩られるに決まってら」「アーイイ……」「ザンマ」四人の召喚ニンジャは既に幻獣を全滅させたがカイを助けず、遠巻きに見物。真価を見定めようというのか。
「このまま奴とナラクがくたばるのも面白……ア?」デスドレインは眉根を寄せた。砕けた屍水晶の中から明るいオレンジ髪の占姫コトブキが解放された。知らぬ方に説明すると、彼女はこの地に封じられ力を搾取されていた最後の妖精だ。「わたしは……これは!」滅王とカイを交互に見て、事態を把握する。
『イヤーッ!』滅王は回し蹴りで闇の波動を飛ばし、コトブキを殺そうとした。「……イヤーッ!」カイは己を強いて跳ね起き、庇い、腕で闇波動を跳ね返した!「なんと!」見物するアガメムノンが目を見開く。カイ自身も驚愕した。咄嗟だった。無意識の彼の肉体が、絶望してはならぬと彼を鼓舞していた。
カイはカラテを構え直す。隙なく対峙すれば滅王もおいそれと仕掛けられぬ。打撃を受けねば体力回復は不要!(チャドー。そしてフーリンカザンだ)心のフジキドが告げた。(飲むのではない。武器とせよ)「冷静に!」コトブキが拳を握る。「コロスベシ!」同化ナラクも応援!「スウーッ! ハアーッ!」
再び全身をエネルギーが駆け巡り、赤黒の装束は力を得て燃え上がった。「スウーッ……ハアーッ!」カイはチャドーを深めた。カラテの高まり! 相乗効果によりバフ効果は等比級数曲線を描き強化!「スウーッ! ハアーッ!」「イヤーッ!」滅王が仕掛けた! チャドー呼吸を阻止すべく先手を仕掛けたのだ!
「コロスベシ!」内なるベビーナラクが叫んだ。カイのニューロンが燃え上がり、主観時間は極めてゆっくりになった。滅王の致命チョップ突きがカイの心臓をめがける。カイは腕を動かし……肘先で滅王のチョップ先端を……弾いた!「イヤーッ!」ドオン! カイの身体が赤黒く光り、滅王が体勢を、崩した!
「イヤーッ!」カイは反撃のチョップを突き刺した!『グワーッ!』滅王の胸を貫く!『ここまで我を煩わせたニンジャは……初めてだ!』滅王は光に包まれて転移し、背中から二本の複節の刃を生やし、キンカクのオーラを身にまとった。最終形態! 体力も再び最大値に! これは負けイベントではない! 絶望!
「負けてはなりません! 攻め続けるのです!」占姫コトブキはその場に膝をつき、これまで搾取されるばかりだった妖精の力を、カイに自らの意志で分け与えた。カイの身体が軽くなり、各属性への耐性が増す!「トドメオサセー!」コトブキは気合!「コロスベシ!」ベビーナラクの意志が肩の上に浮かんだ!
見物していた四人はナラクの呼びかけを受け、銀色に光り始めた。彼らは互いに顔を見合わせた。デスドレインが頭を掻いた。「恩を売っとかねェといけねェようだぜ」「滅王なき世のほうが、来たるべき我が支配には都合が良い」「アーイイ……」「ザンマ!」彼らは光球となり、カイの背中に吸い込まれた!
「イヤーッ!」カイは滅王めがけ走る!『イヤーッ!』滅王がキンカクの大剣を構える! 大きく振りかぶった後10秒ぐらい溜める即死攻撃は回避終わりに当たる卑劣攻撃! だがカイは惑わされずジャストタイミングで前転し、滅王の懐に潜り込んだ!「イヤーッ!」『グワーッ!』「イヤーッ!」『グワーッ!』
打撃! 打撃! 打撃!「ア……」瀕死のドミナントはうつ伏せ状態でカイの戦いぶりを見つめた。チャドーの力を完全に引き出し、ナラクを通して四人のニンジャのカラテすらも自身の力に還元したカイはもはや赤黒の神と化し、繰り出す全ての打撃で滅王の防御を削り取っていた。「イヤーッ!」『グワーッ!』
滅王はよろめき、膝をついた。「コロスベシ!」ナラクが叫んだ。カイは複雑にステップし、垂直ジャンプ着地の後に前進した。すると、世界にひとときの闇が訪れた。闇の中には滅王とカイだけが居た。カイは滅王の複節腕を引きちぎり、鎖骨に手をかけ、滅王を真っ二つに引き裂いた! SATZ BATZ!
『ヤ! ラ! レ! ターッ!』滅王の肉体は光の粒となり、断末魔と共に、風に吹かれ散っていった。「見てください。キンカクの輝きが世界を照らします。夜明けです」と、コトブキ。カイの身体からチャドーのバフが失せ、元の姿に戻る。「コロスベシ!」胸のベビーナラクが喜んだ。冒険は終わったのだ……。
体内を循環していた四人のニンジャもナラクと共に分離し、実体を取り戻していた。「オイ! この死に損ないはヤッちまっていいよな!」デスドレインがドミナントの頭を踏みにじる。「コロスベシ」ナラクが頷いた。だがカイが止めた!「やめろ」「アア? テメェをクビにしたカス野郎だろ。アマチャンか?」
「確かに彼はおれを使い走りのように扱ったが、くだらん仕返しなど、どうでもいい」「カイ=サン」ドミナントは己の傲慢さを心より恥じた。カイは彼に肩を貸し起き上がらせた。「見苦しいぞ。立て」キンカクの輝きは今や世界を照らす。ドミナントの傷は治癒し、死んだ他の4人も拠点で復活するだろう。
「ケッ。別人のように成長しやがったな。付き合いきれねえ」デスドレインは去った。「私は痛みの探求の旅へ」アゴニィは己を鞭打ちながら去った。「我が野望!」アガメムノンは稲妻と共に消えた。「ザンマ!」ザンマは走り去った。それは混沌の種が撒かれるにも似ていたが、悪業の対象は何処にもない。
占姫コトブキが目を伏せた。「世界の理は修復されました。しかし、人が再び地に満ちるまで、何万年という時を要する事でしょう。そして、彼ら四戦士の魂にも、冒険を通した変化を感じます。心配は要りません」「コロスベシ」ナラクが西を見た。水晶の階段が生じ、空に向かって伸びて、道を作った。
「道……この先には何が?」「わかりません」コトブキは首を振った。「でも、きっと冒険があります。わたしを一緒に連れて行ってくれませんか」「何だと?」「わたし、長い長い時間ここに閉じ込められていました。冒険したいのです」「新たな冒険」カイは顔をあげた。「わかった。行こう。新天地へ!」
「コロスベシ!」ナラクが同意した。「かわいらしい存在です!」コトブキは感心した。「アカチャンだからな」カイはスリング布を結び直す。「行こう」「行きましょう!」彼らは空の道を走り、新たな地に飛び出す。或いはそれは、ネオサイタマか。探偵者フジキドの霊的な姿が、彼らを満足げに見送った。
【滅王の冠】
暗転スタッフロールし、ここに終わる。
各地の隠しボスを倒したり、強くてニューゲームしてください。
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