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12万年酷暑締切探偵ザザ


ザザとは! ダイヤモンドの義眼を持つ超常探偵である! 彼は様々な期日を察知して現れ、人類に害をなす超次元存在を退治するのだ。放て! 義眼光線!


 クソッタレの1年がもうすぐ終わる。半分残っていると思ってたら後4ヶ月しかない。俺はそういう覚悟をしていなかった。だから今、急にビビりだしているわけだ。まあいいさ。夏休みの宿題なんて最終日に全部片付けるものだ。ッて事は、大事なのは最後の最後で、他の日は無意味だろ。まだいける。

 締切とか、締め日とか、夏休みの終わりとか、クソだ。受験ボーイの精神を叩き込まれた俺達は、入学とか入社とかデビューとかライフイベントをゴールだと勘違いする。だが人生はその後も普通に続く。区切りは幻だ。永遠の日常があるだけだ。やっていかなきゃいけない。俺はカラルド。編集に追われてる。

 俺はまだやれる。俺にはまだ人生が……まだあるんだ。そう言い聞かせて、日々を誤魔化して、何も成し遂げられない24時間を振り返るのを止め、明日の新しい俺に賭ける。その繰り返しで、今年もあと4ヶ月になった。俺は変わりたい。真面目な気持ちがあるんだ。それなのに、今年は暑すぎるじゃないか。

 気の狂ったニュースが毎日四方八方から降り注ぎ、知らない奴がキレ倒してる。このクソ暑さもそのひとつだ。12万年ぶりの酷暑だと? 日本だけじゃない。世界中が暑がってる。俺はクーラーをガンガン利かせ高みの見物を決め込みたかった。だけど部屋にはインターネットと締切しか無い。俺は逃げ出した。

 外に出た俺はたまげた。湿気と暑さが凄すぎる。ここは風呂か? マジでイカれてる。イカれてるといえば駅の構内にゴミ箱が何処にもない。自販機はスポドリが全部売り切れだ。この世の終わりを感じながら、改札を通って街に出た。人間が沢山いて賑わっている。俺は嬉しく思ったが、それにしたって暑い。

 蜃気楼と陽炎が立ち上る繁華街を歩いた。コンクリートと強烈な日差しと湿気で滅茶苦茶だ。ラーメン屋に凄い行列が出来ている。店の外の炎天下に人が並んでる。タフ過ぎる。だが俺も何処か入る店を見つけなきゃ。クーラーがガンガン利いて、冷たいものが飲めて……。俺はこの暑さから解放されたかった。

 俺は喫茶店を探した。炎天下の街を窓から見下ろし、横の席で学生が怪しい金儲けの話をもちかけられる様子に集中を乱されながら、抹茶のかき氷やパフェを食いまくって……熱いコーヒーを飲む。いいじゃないか。だが甘かった。俺みたいな欲望を100万人が既に考えていた。どの店も満員で入れやしねえ。

 開いてる店を探して歩く。風呂みたいな街の中を。雑踏が霞み、広告の音声が滲む。荷物が重い。喉が渇く。街頭の喫煙所には人が満載。俺はどうして部屋から出たんだ? 後悔が湧いてきた。そもそも論はやめろ。俺は自分を叱責した。人間ってのは合理的に生きられるわけじゃない。やむにやまれずやっちまうんだ。

 座れる店を探して歩く旅に1時間は費やしていた。俺は12万年ぶりの酷暑のなかでもがいている。ここは煉獄だ!「だったら休みなさいよ」いや、その休める場所を今探してるんだよ。「それならこっちにおいでよ」俺の手を引いたのは、赤いミニスカナース服を着たホットな美女だった。「え?」

「一緒に、冷たくて快適なところに行こ?」「マジで? でも……」俺は彼女のホットな姿を見た。「コスプレ的な? そういう店なんだろ? ボトルとか入れさせられるんだろ? さすがにそれは」「ううん、違うの」彼女は首を振った。「私も今、お店辞めてきちゃった」「え?」「だって、太陽が眩しかったから」

「ええっ?」「街頭で客引きしてたけど、どうでもよくなっちゃった」彼女は溜息をついた。「こんなに暑いのに私、何やってんだろう。何しに来たのかなって……この街に。なんか、考えちゃって」「……わかるよ」俺は呟いた。話をテキトーに合わせたんじゃない。同じだ。俺達は。日々を苦闘してるんだ。

「冷てッ!」俺は思わず叫んだ。コスプレナースが俺の額にペットボトルを当てたのだ。ひんやりしていた。「ずっと歩いてたの? これ飲みなよ。熱中症になっちゃう」「ア、アリガト」俺はスポドリを飲んだ。全身に水分が染み渡るようだ。「落ち着いた?」「ああ」「じゃあ一緒に行こうよ、涼しいとこ」

「それって、まさか」俺達はいつのまにか表通りを外れ、艶っぽいストリートに入り込んでいた。「わかってるくせに」彼女は俺の手を握った。こんな事って……突然の事態に頭がカッとなって……朦朧……まるで熱中症の初期症状……「違うよ」彼女は笑った。「一服盛ったんだよ!」意識が吹き飛んだ。


◇◇◇


 ――「起きロ!」「グワーッ!」俺は側頭部にガツンとくる衝撃で目覚めた。激しい痛みの後に襲ってきたのは、心臓が止まるような冷たさ、寒さだった。俺は真っ白い部屋、氷風呂の中に寝かされていた!「ウワーッ! 冷たい!」何処だここは!? 監禁? 氷点下サウナの水風呂!?「黙れ、下等なル人類め!」

 俺の頭を掴み、身を屈めて覗き込んできたのは、さっきのコスプレナースだった。美貌が縦に裂け、牙が生え揃った食虫植物じみてばっくりと開き、無数の触手が溢れ出した!「アアアアア!?」俺の困惑は宇宙的恐怖に変わった! 叫ぶ俺をナース怪物はすごい力で押さえつけた!「手間をかケさせおッて!」

「な……なぜ俺を!? それに、この寒過ぎる部屋は!?」「ここは我らの文明のテクノロジーが作った特別冷却チャンバーだ!」怪物は答えた。「この冷却装置にて貴様ら人類の脳活動を鈍化せしめ、そののち、自我とクリエイティビティを吸い出す! それが我々の征服宇宙船の駆動エネルギーとなるのだ!」

「ワケがわか……モゴーッ!」俺の口を、ナース怪物のヌルヌルした管が塞いだ! ヤバい何かが入り込んでくる!「ビルビルーッ!」「アアアアーッ! オゴゴーッ!」嫌だ! 嫌だ! 俺は確かに日常に苦しんでいた。クソ暑さもクソだ。だが、だからって……こんな宇宙的恐怖のなかで理不尽な死を迎えたくない!

「ビルビルーッ! 光栄に思えクズ人類め! 目的もなく街をうろつく貴様を我々が有効活用してやるわ!」「嫌だーッ!」「ビルビルーッ! ビルビルーッ!」終わりだ……その時だった! KRAAAASH! 怪物の背後の白い壁が破砕し、何者かがチャンバーに入り込んだのだ!「酷暑締切探偵ザザ、参上!」

「何ッ!?」怪物ナースは振り返った。ザザは光り輝くダイヤモンドの目を持っていた!「貴方は何者!?」俺は尋ねた。ザザは答えた。「この世には自然科学で説明できぬ秘密が沢山ある。それを解決するのが、この私だ!」「小癪な! 我らの宇宙的目的達成を阻害すべからずーッ!」「喰らえ! 義眼光線!」

 ザザは両腕を交差し、両目から凄まじい熱ビームを照射!「ウッギャアアアーッ!」怪物ナースは一瞬で灼熱爆発! 氷のチャンバーも熱余波で溶解し、後には空っぽの風呂の中、裸で寝かされた俺だけが残された。怪異は去った。ザザは俺を立たせた。「服を着ろカラルド。熱中症に注意し、なすべき事を為せ」

「なすべき事って……?」「ニンジャソン2023の自由研究 https://diehardtales.com/n/n5a8718730ae6 ……その締切は今日いっぱいだ」「ア!」俺は思い出した! ザザは憤怒に目を光らせた!「それを貴様は!」「アアアアアーッ!?」「わかっているのか!」「アアアアアーッ!」

「日常が続くだと?」「アアアアアーッ!」「日常の中にも期日はある!」「アアアアアーッ!」「それを貴様は!」「アアアアアアーッ!」「わかっているのか!」「アアアアアアアーッ!」「まだ間に合う!」「アアアアアアーッ!」「せよ!」「アアアアアアアアーッ……!」


~FIN~



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