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【シャドウズ・アゲインスト・ヴァイン】

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【シャドウズ・アゲインスト・ヴァイン】


 スダチカワフ・アームズなどと並び、スラヴ経済圏の覇権を争う重工系暗黒メガコーポの雄「オクダスカヤ社」。一族内クーデターによるCEO交代劇の後、わずか一年足らずで、オクダスカヤは強権的に、かつ急速に周辺地域の経済的併合を進めてきた。あたかも、眠れる獅子が目覚めたかのように。

 スラヴ経済圏の西域、霧深き森林地帯に築かれたオクダスカヤの本社領域「オクダスカヤーノフ」は、電子戦争以降、緩やかな衰退の中にあり、次第に追い詰められていた。それがここ数ヶ月のうちに、猛烈な砲火とニンジャ部隊を全面に押し立てての、急激な再拡張を開始したのだ。

 ヨロシサン、カタナ、オムラなどの各社が紳士的警告を行ったが、オクダスカヤは聞き入れるそぶりも見せぬ。それどころか、論理聖教会の移動要塞すらも攻め落とし、電子貨幣教域を大きく西へと押し返した。これらの野心がトゥキュディデスの罠めいて、世界の暗黒メガコーポ各社のパワーバランスを乱す存在となるのは、もはや秒読みと言えた。

 オクダスカヤの謎めいた戦略修正の影には、明らかに、強大なニンジャの存在がある。各地の前線で恐怖と共に囁かれるその名は、「ヴァイン」。恐るべき「クロヤギ・ニンジャ」のソウル憑依者。やがてオクダスカヤは、同領域で活動を行うザイバツ・シャドーギルドと交戦状態に入った――。



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 DOOOM……DOOOOM! 断続的な爆撃音の中、茶灰色の大地に黒いシルエットが滲んだ。オクダスカヤ主力戦車「スヴェントヴィト無体44」の群れである。キュラキュラと無限軌道音を響かせ、主砲が獲物を求めて首を振る。戦車師団の行く先、半壊の村には住人の姿はない。崩れた井戸の傍らに、佇む影がただ一人。

 黒紫の襤褸マントが風を受け、彼女の背後、歪んだアンテナに引っかかったシートが剥がれて飛んでいった。彼女ディミヌエンドは俯いていた顔を上げて睨んだ。DOOOOM! 戦車砲が井戸を吹き飛ばした時、彼女の姿はない。中間地点に黒い染みめいた残像がひとつ。既に彼女は戦車のハッチの上に乗り、片膝をついて、カラテ漲らせた右腕を振り上げていた。

「イヤーッ!」KRAAASH! 打ち下ろしたカワラ割りの拳がハッチを壊し、砲手の首を掴んで引きずり出した。「アイエエエエ、アバッ!」砲手の首を折って殺し、死体を隣のスヴェントヴィト無体44の主砲に投げつける。主砲に死体が蓋をする。KA-DOOM! 暴発、爆発!「イヤーッ!」旋回する3つ目の戦車のキャタピラにクナイが突き刺さり損壊、横転せしめる! KRAAAASH!

『HQ! 手に負えない! ウチのニンジャはまだか!』『そのニンジャが昨日死んだンだよ!』戦車内のオクダスカヤ企業戦士の悲鳴混じりの通信が混線する。「イヤーッ!」踊るようにディミヌエンドは跳んだ。両手に構えた三日月刀が輝く。……彼女唯一人の軍隊がオクダスカヤの進軍を阻んで、既に6日。

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