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灰都ロヅメイグの夜 6:竜の舞う夕暮れ

承前

 不安と焦燥に胸を軋ませながら、跳ね上げ扉を押し開け、秘密の隠し部屋を抜け出した幼きグリンザールは、無惨にも崩れ去った修道院の瓦礫の中で進退ままならず佇み、夕暮れの天を仰いだ。

 竜だ。蒼白く輝く三日月の瞳。地獄の顎。燃え上がる世界を、暗黒の竜が舞っている。無数の鉤爪そなえた四対の脚は丘の巨木よりもなお太く長く、てらてらと輝く蝙蝠めいた四対の翼は村全てを包み隠しかねぬと思われる程。口先から二本の尾の先までの、それを形作る全てが邪悪な輪郭を有し、ありうべからざる冥府か奈落の産物で在ることを、見上げる全ての者へ、逃れ得ぬ絶望のうちに知らしめた。粘着く暗黒の吐息を撒き散らしながら舞い、天の所々を暗黒に染め上げると、時折、地鳴りを呼び起こさんばかりの咆吼を伴って滑空し、家々と大地に巨大な爪痕を残した。遙か遙か上空より睨め下ろすその影が、幾度と無く村と、ひた走るグリンザールに落ちた。

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