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S1第3話【サンズ・オブ・ケオス】

総合目次


「オーゴッド」
「サツガイはどこだ」「待て、焦りは禁物だ」
「貴様を殺す」「誰の差し金だ」「……おれ自身……!」
「ウツケめ。風下に立つからだ。どうでもよし」
「貴様……グワーッ!」「離さん!」
「行けよ。試験なんだろ」
「ピ、ピザ食えよ。アツアツの!」
「スシを取れ」

 悲鳴を上げ続けるヒロインの口に荒々しく猿轡を噛ませ、邪悪な白ストライプスーツのギャングが凄んだ。「ココマデ、ヤメテダゼ!」だが、ロベルト・ストームドラゴンは少しも怯まずカンフーを構え、半身になって小刻みなステップを踏んだ。そして言い放った。「オマエタチモナ!」戦闘が始まった。

 「ハイヤーッ!」ロベルトがシャウトした。襲い掛かるギャングは目にも止まらぬカンフーで円周状に弾き倒された。「フウッ!」更にシャウト。「……ドンナニモ、ナッチマウゼ!」ギャング首領がバッドサインで応えると、リムジンを飛び越えて黒装束のニンジャ達が回転着地し、撥ねながら襲い掛かった。

 ニンジャはカタナと鎖鎌で武装している。コワイ! しかしロベルトは挑発的に手招きした。ニンジャは無言で地を蹴った。闇に生きる戦士なのだ。しかし!「ハイヤーッ! ハイ、ハイヤーッ!」ロベルトのローキック、回し蹴り、サミング、ワン・インチ・パンチの連続打撃によってニンジャすら打ち倒される!

 「ザマアミチマエ!」ギャング首領が罵り、髑髏マークの瓶をロベルトの足元に叩きつけた。「グワーッ!」立ち込める有毒ガス! ギャング首領は素早くガスマスクだ。「ナンダコレハ! ヨクミエナイ!」ロベルトの影が悶えた。ギャング首領は哄笑し、銃を構える……しかし!「ハイヤーッ!」「グワーッ!」

 ヤッタ! これがロベルトの心眼殺法だ。目を閉じた彼はキの流れを読んで跳び蹴りを放ち、見事ギャング首領の頭に命中させたのだ。吹き飛ぶギャング首領、感涙するヒロイン、ロベルトのサムアップがスローモーションとなり、「THE END 終劇」の字幕が浮かび上がって暗転した。潔い終わり方だ。

 ……「ヤッター!」コトブキは握りこぶしを振り上げ、ソファーから少し撥ねて、ドスンと着地した。画面にはスタッフロールが流れ、VHSの再生ノイズが上下にうるさい。彼女は横の盆菓子をまさぐった。ひとつだけ残っている。「……」彼女はやや躊躇い、惜しむように食べた。やがてビデオが終わった。

 ガガコー。機械音が鳴り、テレビモニタの下の骨董デッキからビデオテープが吐き出された。ラベルには「NINJA STARBLOOD」のタイトル。50年以上昔、アメリカで作られた日本コンセプトのカンフー映画である。「……ハア。終わってしまいました」コトブキは独り言を呟き、立ち上がった。

 彼女は広い一室を振り返り、壁一面に並べられた骨董テープのラベルを見渡した。それらはすべて、電子戦争以前の、誰も気にも留めずアーカイブもされていないようなグラインド・ハウス映画、モンド映画、カンフー映画である。コトブキはテープを取り、神妙な表情でそれを棚に戻した。「完了です」

 ビデオは全て見てしまった。菓子も食べ尽くした。旅立ちの時がやって来たといえよう。コトブキはクローゼットからアオザイを取り出し、きっちりと着替えた。正装のつもりだ。彼女は姿見の前で淡いオレンジの髪に櫛を入れ、口角を少し上げて微笑んだ。美しいが、わかる者にはわかる。瞳の奥の刻印……。

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【サンズ・オブ・ケオス】

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 (残せ! アユミを殺したニンジャの道筋を!)(アバババーッ!)ナハトローニンは赤黒の火を吐き、痙攣した。(サツガイ……貴様はサツガイを……アバッ、ハハハ、殺す……殺す気でおるのか……笑止……アバーッ!)(そうだ。サツガイを殺す。必ず)(できるものか……奴は神にも等しい……)

 (貴様の見解に興味は無い。言え。貴様らを繋ぐ糸がある筈だ)(……俺は……独りだ……アバーッ!)(サツガイから力を得たニンジャの名を、おれに言え)(……貴様は必ず死ぬ……ブザマにな……だが、よかろう)燃え崩れながら、ナハトローニンは呟いた。(……メイレイン……!)

 「メイレイン!」マスラダはバネ仕掛けめいて跳ね起き、戸口に蠢いた影を睨んだ。サツガイ!「イヤーッ!」「アイエエエエ!」KRAAAASH! マスラダの右腕はタキの顔の横の壁に、第一関節まで埋め込まれた。「ア……アイエエエエ……」タキは壁をずり下がった。「げ、元気そうで何よりだな……」

 「……!」マスラダはタキを見下ろして舌打ちし、壁から腕を引き抜いた。それから己の手を見つめ、己の姿に気づく。ところどころ破けたTシャツとズタズタのカーゴパンツだ。装束が失せている。マスラダは下がり、己の頬に触れた。タキは目を閉じ、叫んだ。「オレは見てねえ! お前の素顔なんか知らねえ!」

 「どうでもいい」マスラダは冷たく言った。板張りの床を振り返った。フートンもなにもない、ただの物置きだ。タキは呻いた。「クソが、壁の修理代を請求したいところだ。とにかく一宿一飯の恩義とでも言うべきやつだぜ」「おれは?」「いや、ブッ倒れたからひとまず放置……いや、介抱してやったんだ」

 マスラダはまた舌打ちした。タキがおずおずと目を開けると、青年の足元から熾った赤黒い火がその身体を覆い、例の赤黒装束を数秒のうちに生成していった。「人間なんだな。お前」タキは思わず呟いた。マスラダの手にはメンポすらも生じた。「忍」「殺」。それを無慈悲に装着する。「違うかも知れんぞ」

 「わかってる。お前がオレの死神にならないようオレは努力する。な。まあその……そういう取引きだったわけだし……で、何だっけ、メイレイン。な。そうだよな、次のお前のターゲット……調べてやるさ。前のめりだろ、オレ」「いつお前に伝えた」「いや、さっきお前叫んでたろ。あっちまで聞こえたぜ」

 ……五分後、彼らは地下四階のUNIX室にいた。

 蛍光色のモニタ光を受けながらキーをタイプするタキのすぐ後ろで、ニンジャスレイヤーは腕組みして睨んでいる。タキがぼやく。「やりづれえんだよな。情報屋には情報屋の領分がな、」「ナハトローニンがおれを殺し、後腐れなく問題解決……だったか?」

 「……ホッ! ホーウ!」タキは肩をすくめて見せようとして、サムライ・フィギュアを倒した。「お前、何だよ、あれオレの本心だと思ってたのか? つうか聞いてたのか? よせって。ホットなチック(娘)の前で薄情な冷徹野郎に振舞ってカッコつけたい時ってあるだろ? そういうトークだって」

 「始めろ」「わかったッて! オレ様の目端の利きっぷりをとくと味わえ。お前、オレに巡り合った事はブッダとかオーディンとかに感謝……」「クソッたれデジタル・オーディンの話は二度とするな」「よし、いくぞ!」タキは椅子を引いてタイピングに本腰を入れた。モニタ上をワイヤフレームやIRC小窓が飛び交う。

 「メイレイン……どこかで聞いた名前って感じはするぜ」タキがかけているUNIX作業用の色付きグラスに流星めいて画面遷移の光が飛び交う。「お前が何者なのか知らんし、詮索もしねえけど、あんまり詳しくないのは確かだよな! 秘密の闇社会によ。どんだけ知ってる」「ああ、詳しくない」

 「……」タキはニンジャスレイヤーを振り返り、またモニタに目を移した。「まあ詮索はしねえよ」やがて、IRCツリーの枝葉の枝葉の枝葉、それらしい情報集積物が見えてくる。「サンズ・オブ……聞いたことねえな」タキは眉根を寄せる。「サンズ・オブ・ケオス……あ、待て、やっぱ止めだ。諦めよう」

 「何だと?」「いや、絶対ヤバイから。絶対ダメ」タキは首を振った。画面には「メイレイン:ニンジャ」という名前に紐づいて、「サンズ・オブ・ケオス」という謎めいた単語が浮遊していたが、タキが特に注意を……恐怖を向けているのは、それではなかった。「ニンジャ:ソウカイ・シンジケート」。

 クロス・カタナのエンブレムが大写しになると、タキは反射的に身を震わせた。「あのな、このネオサイタマには知っての通り世界各国のクソ企業が入り込んでシノギを削ってやがるが、実際に街の裏路地をカラテでシメてるのはソウカイ・シンジケートだ。皆ここと上手くやってる。企業も、ヤクザクランも」

 タキは端末を見せた。「オレも持ってる。ソウカイヤのホットラインを。なぜか連絡取れねえけど」「……」「頭首のラオモト・チバはカミソリのように頭の切れる若き帝王、手下にニンジャがわんさといて、特にヤバイ六人が『シックス・ゲイツ』、人肉のスシを食って精をつけてるらしいぜ。恐怖そのもの」

「そんな連中に興味は無い」ニンジャスレイヤーは低く言った。「だがメイレインは殺す。そしてサツガイの情報を引き出す」「ッデーム! バカ!」タキは熱くなった。「それがソウカイヤとコトを構えるッて事だろ! 奴らに睨まれたら……」「それならばソウカイヤもシックスゲイツも敵だ。殺すだけだ」

 「よせ」タキはニンジャスレイヤーを見た。ニンジャスレイヤーは見返した。冷徹な目だった。冷徹な中に、溢れ出る寸前で押し留められた激情がある。「なあ考えろ。お前だけなら知った事じゃねえが、オレまで片棒担ぎにされたら……」「知った事ではない」死神は言った。「取引をしたぞ、タキ=サン」

 「奴らはニンジャの戦士だ」「おれはニンジャを殺す力を得た」「んんん」タキは唸った。押し問答だ。そしてこの男は本気だ。確かにこの男は強い。ナハトローニンも殺した。だが……。「んんん」それにしても、サツガイとかいう奴は、一体こいつに何をしでかした? 迷惑千万だ。タキのニューロンは高速回転した。

 「わかった」タキはやがて言った。「お前はメイレインを仕留めて、サツガイの情報を得る。ソウカイ・シンジケートとは、コトを構えない」何か言いかけたニンジャスレイヤーを遮り、手ぶりを交えた。「この二要素を両立させるのが、現時点でベスト!」「何だと?」「殺して、バックレろ」

 ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。「何を……」「だから! サツガイに関係ねえ奴とデカく争ってたら、お前、何十年経っても辿り着けねえんじゃねえのか? エ?」タキは加速する燃える車輪めいてヒートアップした。「組織には絶対知られるな。メイレインは下っ端。今度はマジ。切り離して仕留めろ!」

 目の前のこの死神は、サツガイとそれに連なるニンジャ達に、狭く深く、狂ったように、決断的焦点を絞っている。そこにどうやら交渉の余地が存在している……!「わかったか! ガッツリやるぞ! オレに作戦タイムをくれ!」タキは異常興奮状態で喚いた。リリリン。インタフォンが鳴った。「スシも来た!」

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 ドオン……クロス・カタナ意匠の銅鑼が鳴らされた。四方にカドマツが飾られ、中央の黒大理石の卓には菊のカドーが飾られている。南側の壁は透明で、滝めいて水が流れ、ガラスの奥では嬌声をあげて遊ぶオイラン達の姿が滲んでいた。緊張の面持ちで連座する企業重役達は脂汗を滲ませてカミザの男を見た。

 カミザの革張りヤクザソファでくつろぐのは、ほとんど黒に近い紫の三つ揃えのスーツを着た、威厳ある青年ヤクザだ。肩ほどの銀髪を後ろに撫でつけ、カタナめいた鋭く酷薄な目元。足元に傅く媚薬めいた女ニンジャが葉巻に火をつけると、天井に紫煙を吐き出し、企業重役には視線を返しもしない。

 革張りヤクザソファの横にはボディガードと思しきニンジャが微動だにせず直立している。暴力を人の形に捏ねたようなニンジャだった。はちきれんばかりの筋肉には無数の傷が勲章めいて刻まれていた。どれ程のカラテの持ち主か。だが彼も、この青年に死ねと言われれば、即座にその場で望んで死ぬだろう。

 おお、齢二十半ば手前、己の冷酷さを隠しもしないこの男こそは、ラオモト・チバ……混乱の底に堕ちたネオサイタマを救った英雄にして、恐るべきニンジャ戦士を束ねる非ニンジャの帝王。闇のヤクザ集団「ソウカイ・シンジケート」の、若きオヤブンであった!

 「つまり、我が社ジバタメ・エンタープライズがですね」左の企業重役が身を乗り出し、口火を切った。「そもそもジェネレータ権利を取得しているわけなんです。このクロサマ・テクニコはまるでハイエナだ。我が社の格付けダウンの噂が市場に流れた事をこれ幸いと、権利の横取りを……」

 「違う!」右の企業重役が負けじと声を張り上げた。「ジェネレータ権利を競売で取得したのは我が社だ」クロサマ社員はマキモノを開いて権利書を取り出した。ジバタメ社の重役が目を見開いた。「権利書だと? 嘘だ」「前権利者のハンコも当然ある」彼は挑戦的に笑い、権利書のハンコを指さした。チバの瞼が動いた。

 「ウチにもある!」ジバタメ社の重役は腰を浮かせた。「今、持参してはいないが……」「無ければ無いのだバカめ! 出まかせを言うな」クロサマ社の重役は喚いた。そしてチバに向かって勝ち誇るように言った。「手に取ってご覧になってもかまわない! 権利書はここに!」「ウチにもある!」とジバタメ社。

 「ウチにあるものが本物でそっちは偽造! その偽物をよこせ! 判じてやる!」ジバタメ社重役は卓越しに権利書を掴もうとする。「ヤメロ!」クロサマがペンを投げつける。「イディオットめ!」「貴様がイディオットだ!」「貴様がだ!」

 争いを前に目を閉じていたチバが、カッと見開いた。「キエーッ!」若きオヤブンはヤクザソファから飛び上がり、卓上に着地した。チン、と音が鳴った。ロング・ヤクザ・ドスを鞘に戻した音である。然り、戻したのだ。恐るべきワザマエのイアイ斬りであった。

 その瞬間、クロサマ重役とジバタメ重役、それぞれの右手首から先が切り離され、卓上に落ちた。チバはヤクザ革靴で無慈悲に権利書を踏みにじると、ひらりと身を翻し、無造作に卓から降りた。

 二人の重役サラリマンの手首から鮮血が噴き出した。「アイエエエ!」「アババーッ!」悶絶する彼らに、ソファの傍らの女ニンジャが何かを投げつけた。メディ・キットだ。

 「見苦しいわ、下郎ども」チバは吐き捨て、葉巻を噛んだ。「何が権利書だ。尻軽な権利者に二重契約でたばかられた責任の擦り合いを、俺の目の前で始めるとはいい度胸。……俺にとって重要なのは、貴様らがソウカイ・シンジケートの領地に土足で踏み入り、くだらんイクサを始めた事だ。ケジメをつけろ」

 「アイエエエ!」「ケジメ? この手首が!?」「それはケジメとは別だ。単に貴様らが鬱陶しい」チバは言い放ち、葉巻を投げ捨てた。退出である。古傷のニンジャが先導し、チバが続く。のたうち回る重役社員を、女ニンジャが振り返った。「二人で協力してキットを使えば、まだ繋がるかもよ」

 (アイエエエ……)後方に悲鳴を残し、チバは進む。女ニンジャの姿は消えた。黒漆塗りの廊下は等間隔のボンボリ・ライトで照らされていた。「オヤブン」先導する古傷のニンジャが立ち止まり、振り返った。チバは闇を見透かした。前方に、跪くニンジャあり。「ドーモ。ラオモト=サン。ガーランドです」

 白く退色した短い髪と秀でた額、武骨なメンポが特徴的なニンジャだった。ガーランドの左目の上には<六門>のカンジとクロス・カタナを組み合わせた紋章が刻印されていた。古傷のニンジャは殺気をたもったまま脇にのいた。チバは冷たく言った。「ガーランドか。ビジネスの場に貴様が何の用だ?」

 「情報を得た折、ごく近くに居りましたので。無礼を承知で参上した次第」ガーランドは言い、チバのもとへ歩み寄った。そして彼にだけ聞こえる声で囁いた。(例の件。やはり十中八九、メイレインはクロです。ただし確証とまではいかぬゆえ、直接承認を頂きにまいりました)

 チバは頷いた。「よし。殺せ」

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 ヒートリ・コマーキタネー……ミスージノ・イトニー……。アカチャン。ウマ・コリェール・ジ・ソーパ。複数の広告電線から流れる音楽やプロモーション音声が混じりあい、ホロバスヤマ・バラック屋台街にさざ波めいた環境音を作り出している。

 採掘者、パルクール配達者、ドヒョー労働者、ビタミン・カラーのスーツを着たカブキ達、サイバーゴス、モヒカンヘアーと鋲打ち腕章にサラリマン・スーツを組み合わせたサラリパンクス。アニメボーイ。多種多様の通行人が行き交う。バラック屋台街には盗品が何でも集まる。取り締まる者もない。

 盗品衣類を吊るしたハンガー・ツリーの間から、短い黒髪の男が歩み出た。マスラダである。「ヘイ、これで男前だね、いい買い物した。また来てね」換金素子を受け取って満面笑顔のバッド・ブティック店主は、手を振って彼を見送った。マスラダは歩きながら眉根を寄せ、拳を握り開く。

 人ごみをぬって歩いた彼は、やがて目当てのモチ屋台に辿り着いた。「何にします」「フライド・モチを」「へい」マスラダは椅子にかけ、そこから、「ゴールド銀座」のネオン門をいただく狭い路地を眺めた。(衆人環視の中、物騒な赤黒装束で張り込むわけにはいかねえんだよ)タキの指示である。

 (オレはメイレインの行動ログを取った。奴はソウカイ・シンジケートのニンジャで、普段は地下の金網ドージョーのシノギを監督してる。カラテカとモーターガシラが殴り合うエンターテインメントだ。だがそれはいい。重要なのは、どうも最近、奴が金網ドージョーと関係の薄い地域を往復してるんだな)

 それが、ゴールド銀座だ。マスラダはネオン門の奥の闇を凝視する。(あの路地に奴が入ると、その先のログは無い。消えちまう。そして数時間後にまた現れる。そして帰っていく。要は、あの路地には妙に強いIRC妨害が敷かれてるッてわけだ。怪しいだろ?)「モチどうぞ」「ドーモ」モチを食べる。

 そのままマスラダは待った。店主の視線が剣呑になって来ると、追加でコブチャを注文した。装束やブレーサーの防備が無いこの状態は、彼にとってストレスフルだった。パーカーと細身のカーゴパンツ、そうしたかつての日常的な装いは、今の彼には非日常のものだ。(現れろ)彼は心の中で呟いた。(早く)

 彼のニンジャ第六感は時折、離れた地点で素早く移動する強力なニンジャソウルを捉える。内なるナラクが蠢き、精神に深く楔を打とうとする。そのたび抗う。ネオサイタマには相当数のニンジャが居る。それらに片端から挑めば、無意味な殺しだ。この街には無差別殺戮志望者が掃いて捨てるほどいる。その同類に堕する気はない。

 「お客さん、追加のご注文は」「ゴチソウサマ」マスラダは立ち上がった。彼の視線の先、泥を蹴立てて足早に移動する姿があった。ニンジャだ。襟を立てた黒コート、ネオン傘。垣間見えたメンポの意匠が、タキの事前情報と一致していた。メイレインである。

 メイレインはゴールド銀座の門をくぐった。マスラダも後を追った。路地の暗がりに足を踏み入れた時、彼は既に赤黒の装束と「忍」「殺」のメンポを身に着けた影となっていた。メイレインは尾行するニンジャスレイヤーに気づかない。メイレインのニンジャ第六感を、ニンジャスレイヤーのニンジャ野伏力が上回ったのだ。

 ニンジャスレイヤーは殺意を研ぎ澄ます。メイレイン。サツガイに連なる者。脳の芯が冷え、握りしめた拳が軋む音が骨を伝う。ポン引き、乞食、ストリートオイラン。暗い路地の住人達も、滲む赤黒の霧めいた彼に気づけない。鋭利な刃めいて敵に至る忍び足、相手を引き裂き殺す暴力。彼にとっては同義だ。

 曲がり角に差し掛かると、メイレインは念を入れて一度背後を振り返った。だがその時ニンジャスレイヤーは既に地上にはなく、壁めいた建物群の配管パイプの上に立ち、標的を見下ろしていた。

 『YO。順調か』タキが通信を入れた。『あのな、グッドニュースとバッドニュース、どっちを先に聞きたい?』「バッドから」『やっぱグッドからにする。メイレインの野郎はソウカイ・シンジケートにハネられた。ソウカイヤはソウカイヤで奴との間に何かあったんだ。つまり、奴を殺してもソウカイ・シンジケートはそこまで怒らねえ。抜け目ないオレがソウカイヤに幾つか情報を横流ししたからなんだが……』

 「バッドは」『そのな』タキが言葉を切った。やがて言った。『ソウカイヤのニンジャがメイレインを始末しに向かってる。誰が来てるかは知らんが、オレの感覚だと、こういう身内の粛清にあたるのは、シックス・ゲイツ格のニンジャだな』「何?」『つまり、ちょっと段取りを巻かないと、お前はメイレインを殺せない』

「時間は巻かない」ニンジャスレイヤーはメイレインを睨みながら舌打ちし、否定した。「殺すのはアジトを探してからだ」『そ、その通り』タキは相槌を打った。『今回は情報が要る。奴がスムーズにアジトまで帰るよう、その、念じたり祈ったりしろ。ソウカイヤがそこへ来てグチャグチャにする前に』

 「……!」ニンジャスレイヤーは配管パイプの上で蹲り、その目を殺意に光らせた。メイレインが再び歩き出した。ニンジャスレイヤーは配管パイプから飛び降り、標的につかず離れず、迷路じみて入り組んだ路地に入っていった。やがて現れたのはネオン看板の光すら乏しい、寂れた雑居ビルだった。

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