ウォーカラウンド・ネオサイタマ・ソウルフウード(3):新年のオモチ
「エジャナイザ! エジャナイザ! エジャナイザ!」「エジャナイザ! エジャナイザ! エジャナイザ!」「エジャナイザ! エジャナイザ! エジャナイザ!」
通りを練り歩くエジャナイザ踊りの集団はネオサイタマの新年の名物だ。キョート・ガイオンにこういう習慣は無い。どちらかといえば新年は静謐なイベントだ。だが、ネオサイタマの賑やかな新年も嫌いではない。エジャナイザ踊りの起源について勉強したことはないが、ネオサイタマ外のどこかの地方の踊りがなぜか根付いたものらしい。
市民は日付が変わる深夜0時のアケマシテオメデト花火を合図にエジャナイザ・チャントを唱えながら街を練り歩く。秩序は無いようで、有る。遠目にそれはデモ行進に近いが、実際のところ、この日ばかりは陰鬱な重金属酸性雨の現実をいったん脇に置いて、踊りながらあちこち行き来して楽しむことが目的なのだ。
俺は新年のオミクジ購入を終えてシュラインから帰って来たばかりだった。俺は道端で小休止し、屋台で買ったアマザケを飲みながら、とりあえずエジャナイザ踊りの列を眺めていた。ちなみにアマザケは屋台の鍋で煮られる白い液体で、アルコールは含まれていない。トークン1枚程度の価格で、気軽にPVCのコップに掬ってもらうことができる。ケミカルな甘みがニューロンにキく。
「グワーッ!」そのとき雑踏の向こうで悲鳴が聞こえた。見ると、シシマイが付近の市民に齧りついていた。一見それはマッポー的な恐るべき光景だ。だがよくよく見れば、すぐにそれがアトラクションの一環とわかる。齧られた市民はすぐに解放され、笑顔で、たった今自分を噛んだシシマイをバックに自撮りを始める。実際のところそれは赤と金で彩られたハリボテの縁起物で、中に人が入って口を開閉できる仕組みになっている。あの生き物に噛まれると運気が上がるという仕組みなのだ。
だが、その後がヤバかった。俺は顔を上げたシシマイと目が合ってしまったのだ。反射的に愛想笑いを浮かべてしまったのが失敗だった。シシマイは俺のほうに凄い勢いで向かって来て、噛みついた。
「ヤメロ! オイ! やめろって! 俺はいいから!」「エジャナイザ! エジャナイザ!」エジャナイザ踊りのオハヤシと歓声が俺の悲鳴を掻き消した。「ヤメテ!」「エジャナイザ! エジャナイザ! エジャナイザ! エジャナイザ!」「アイエエエエエエ!」
悲鳴を上げたのはシシマイ操縦者だった。ニューロンがチカチカと明滅して、あいつが……今の俺の身体の本来の持ち主の意志が繋がったと思うと、いきなりシシマイが燃え上がったのだ。
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