見出し画像

【プロメテウス・アレイ】#6

◇総合目次 ◇初めて購読した方へ 
◇1 ◇2 ◇3 ◇4 ◇5 ◇6

5 ←


1993_12_06
フィルギア

「昔の事、あまりおぼえていないんだよな」

「おぼえていない?」

「ああ」

 セズベスは首を振った。フィルギアはジントニックをセズベスの目の前に置いた。

「飲みなよ」

 セズベスは頷き、グラスを手にとった。セズベスの目はブラックライトを受けて紫。

「なあ。俺の歌で大丈夫か?」

 セズベスは尋ねた。

「異論のある奴はいないな」フィルギアは請け合った。「ジョーよりも良い……か……どうかは、君次第だけど」

「……俺は感激してる」

「何が」

「ジェイド・ディヴィニティヴに入れたから。望んだ通りに」

「望んだ通りに?」

「憧れだった。あんたらは俺の代弁者だと感じた……あんたらを初めて見たのはクロコダイルで」

「クロコダイルか。懐かしいな。さすがに良いライブハウスだったね」

「だから、ジョーには悪いけど……R.I.P……今回巡ってきた機会は、俺は嬉しかった。あんたらから連絡が返ってきた時。マジか、って思ったよ」

「よかったよな。俺らとしても助かったよ。すぐに新しいヴォーカルが見つかって」

「……代弁者ッてのはさ」セズベスは付け加える。「ジェイドは、クソみたいな俺らの……なんていうかな……俺らのどうしようもない暮らしを……音にしていたから……それだけじゃなく、俺はわかったんだ。あんたら自体が、俺と同じ生き物だっていう事が。ジェイドは俺らの世代の」

「……」

「俺はニンジャだ。あんたらと同じに」

 フィルギアの周囲の音が遠くなった。フィルギアはゆっくりグラスを傾けた。とぼけても無意味だとすぐにわかった。

「……どこで知った?」

「知りはしない。感じたんだよ。そういうの、わかるものじゃないのか」

「……生まれは?」

「さあ」セズベスは肩をすくめた。「おぼえていない、ッてのは、そういう事だよ。記憶そのものが、おぼろなんだ。俺が何者なのか……俺はニンジャで、セズベス……それだけは、忘れないようにしてる」

「厄介そうだな」

「ははは。……ああ、覚えていること……もう一つ……金色の太陽だ。……真っ暗な空に、金色の太陽」

 セズベスは頭の上を差した指をくるくると動かす。

「ゆっくりと回ってた。眩しくて、苦しかった。あれは、いつの空だったろうな。その記憶も、ぼんやりなんだ。でも、忘れちゃいけないと思う」


1997_11_29
ジョシュア

 皮膚に貼り付くような轟音で満たされたヴェニュー、後ろの壁に背中をつけて、ジョシュアはイーサン達の演奏を聴いていた。客の入りはそこそこだが、皆いい感じで入り込んでいるように見えた。ステージにはマヤ文明かぶれのサイケデリックな映像が投射され、バンドのメンバーは黒い影法師となって、ゆらゆらと身体を揺すっていた。

ここから先は

8,216字 / 1画像

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?