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キンスレイヤー:登場人物紹介


はじめに:〈血〉と〈死滅土〉に汚染された世界で

この記事ではロータス戦記第2部「キンスレイヤー」に登場するキャラクターを紹介しています(回想のみも含めて)。そのため、第1部「ストームダンサー」のあらすじや、そこで既に戦死したキャラクターの顛末についても語られているのでご注意ください。

ジェイ・クリストフによる和風スチームパンク小説「ロータス戦記」シリーズ。その舞台であるシマ帝国と帝都カイゲンは、情け容赦ないショーグン幕府と、異常なまでの機械科学力を持つロータス・ギルドによって支配されています。そこは〈血〉排煙と〈死滅土〉によって汚染され尽くした暗黒の世界であり、登場人物たちは皆それぞれの信念のために傷つきながら戦い、しばしば壮絶な(凄惨な)死を遂げてゆきます。ヤングアダルト向け小説であるため、メインとなる登場人物たちは16〜17歳前後に設定されていますが、作品全体の荒々しさとゴアぶりは、封建時代的な背景も合わさってかなりのものです。

そのような過酷な世界に生きる登場人物たちを紹介しましょう。


主人公:ユキコとブルウ

ユキコは〈識〉の異能でブルウと心を通わせ、共に戦う。

ユキコ:〈九尾狐〉の少女

“ブルウがそばにいてくれれば、何も怖いものなんてないよ”

動物とテレパシー的に会話する異能、〈識〉を持つ16歳の少女。シマ帝国の残忍なるショーグンから「伝説の神獣〈雷虎〉を捕えるべし」と命令を受け、父親らとともに狩猟の旅に出た。だがユキコは狩るべき〈雷虎〉と強い絆を育み、彼を「ブルウ」と名付け、同行することに。仲間たちとはぐれて遭難し、イイシの荒野を彷徨う中、ユキコはカゲと呼ばれるゲリラ革命組織と出会う。そして自らの家族がかつてショーグンから受けた非道の数々を知らされ、ショーグンに対する復讐を決意するのだ。

“見せてやる。たった一人の小娘に何ができるか”

最後の目撃場所:ショーグン・ヨリトモを暗殺した後、帝都カイゲンから脱出。その後、四十九日の葬送儀式に合わせて再び帝都に降り立ち、情熱的な演説を繰り広げ、ロータス・ギルドと幕府の横暴に対して立ち上がるよう人々に呼びかけた。

ユキコは〈九尾狐〉クランの出であり、雪のように白い肌と、鴉の羽のように黒く艶やかな髪を持つ。〈帝国狩猟団〉の長であるマサルを父に持つため、幼い頃から狩人として鍛えられており、剣の腕も確かだ。


ブルウ:シマ列島に生きる最後のアラシトラ

“我が背より失せよ。虫けらめ”

気高き〈雷虎〉の一頭。グリフォンによく似たこの生物は、シマ語で「アラシトラ」とも呼ばれる。ユキコの親友にして忠実なる守り手。翼をショーグンによって切断されてしまったため、生え変わりの時期が来るまでは、機械翼の助けを借りねば空を飛べない。この機械翼はロータス・ギルドの〈技巧師〉キンによって造られたものである。ブルウは空を汚染した人間たちとその科学文明を侮蔑しているが、現在の彼は皮肉にも、機械仕掛けの翼がなければ生き残れないのだ。

ブルウは初め極めて傲慢かつ攻撃的であったが、〈識〉を通じてユキコと自我を重ね合ううちに、彼の獣性は和らぎ、兄妹のように強い絆を育むに至った。だがその反面、ユキコはしばしば獣じみた怒りに囚われるようになる。

“我は己の役割を果たす。心配はいらぬ”

最後の目撃場所:ユキコとともにある。

〈血〉排煙に汚染され尽くした赤い空を舞う〈雷虎〉。ブルウの全身図はまだ日本語版ではイラストがないので英語版から。〈雷虎〉は一般的なグリフォンとは異なり、下半身が獅子ではなく白虎のそれである。


ユキコをとりまく人々

左から〈技巧師〉キン、ユキコ、アイアン・サムライのヒロ、父マサル、女狩人のカスミ


キン:ギルドを裏切った〈技巧師〉

“これは実験です、ユキコ。いうなれば、限定された環境下における栽培実験……もしかすると、土壌を破壊せずに〈血ノ蓮〉を栽培する方法が発見できるかもしれません”

ロータス・ギルドの〈技巧師〉の一人。ユキコと同じスカイシップ(飛空挺)に乗り合わせ、ともにイイシの荒野へと墜落した。ギルドこそが全てであると信じてきたが、ユキコと〈雷虎〉をショーグンのもとから逃がすために、危険を承知で機械翼を造った。

“私はあなたのことが心配なんですよ、ユキコ”

最後の目撃場所:ユキコを帝都から逃がした後、帝都の守備隊に包囲された。

キンは幼い頃から自動演算装置メックアバカスとケーブル接続され、真鍮製の機械鎧を纏い、ギルドの価値観のみを信じて生きてきた。人付き合いには慣れておらず、キン自身もしばしば機械のようにぎこちなく振る舞う。



ヒロ:若きアイアン・サムライ

“俺は他の何よりもまず、ショーグンの忠実なる家臣なのだ。俺は〈ブシドーの掟〉に従って生き、〈ブシドーの掟〉に従って死ぬと誓った。この誓いを不名誉で汚すことは絶対にできない”

別名〈海緑眼の少年〉。機械甲冑を纏うアイアン・サムライの一人。ショーグンの近衛部隊であるカズミツ・エリートの一員でもある。宮廷に滞在するユキコと恋仲になったが、最終的にはユキコが主君ヨリトモへの反逆を企てていることを知り、彼女を裏切った。 

“大小二本の剣を帯び……名誉のために、死ぬ……!”

最後の目撃場所:帝都〈闘技場〉の死闘でブルウに片腕を食いちぎられ、ユキコの短刀で胸を刺されて致命傷を負い、石畳の上に放置された。


マサル

“俺たちはショーグンの家臣だ。命を賭けてカズミツ家に仕えることを誓っただろうが”

別名〈シマの黒狐〉。ショーグンに仕える〈帝国狩猟長〉であり、ユキコの実の父。飲んだくれの博打打ちで、さらに重度の〈蓮〉煙管中毒者だったが、最後にはそれらの呪縛から逃れた。

“ならば、うまくやれ。何か他のもののために。何か、より価値のある、偉大なもののために……”

最後の目撃場所:帝都カイゲンの〈大市場〉で繰り広げられた決戦において、ヨリトモの鉄弾投擲機に撃たれ、死亡した。


カスミ

“喧嘩はまた今度にしときな、間抜けな大男さん。まったく図体ばっかりでかくなってさ”

〈帝国狩猟団〉に所属する女狩人。マサルの恋人。ユキコの剣術の稽古相手。

“あんまり父親にきつく当たるもんじゃないよ、ユキコ”

最後の目撃場所:マサルの牢獄破りを助ける途中、激しい戦闘で致命傷を負う。最後はマサルの腕の中で息を引き取った。


アキヒト

“かすり傷だ。おれはまだ戦える”

〈帝国狩猟団〉に所属する偉丈夫。マサルの右腕であり、ユキコの子供時代からの遊び相手。マサルを牢から助け出すための戦いで、片脚に深い傷を負ってしまった。

“マサル、てめえ、このロクデナシのクソ野郎め、またおれを置き去りにしようってのか……!?”

最後の目撃場所:ショーグンの暗殺で帝都が混乱する中、片脚を引きずりながら、ミチとともにスカイシップ発着所へと逃げた。


宮廷の面々

左からヤマガタ船長(正確には宮廷付ではないが)、シマ帝国第一皇女アイシャ、その侍女ミチ、シマ帝国の支配者ヨリトモ・ノ・ミヤ


ヨリトモ・ノ・ミヤ

“余はいまや、神々の心を知る! 斯くのごとく、神々は奪うのだ! 何気ない手の一振りで、あらゆる物を奪うのだ。翼を。反抗的な顔を。国々を……! ……おお、余は神にも等しい……!”

シマ帝国を統べるショーグン。〈猛虎〉のダイミョ。カズミツ・ショーグン家の最後の世嗣。カズミツ家はシマ帝国を二百年に渡って支配し続けてきた。ヨリトモはまさに暴君と呼ぶにふさわしい存在である。彼は幼くして絶大な権力を与えられたために常軌を逸し、自らの力に溺れていった。

“余の名はヨリトモ、〈戦神ハチマンの寵児〉にして、この世界を統べる皇帝なるぞ”

最後の目撃場所:帝都カイゲンの〈大市場〉で繰り広げられた決戦において、ユキコとマサルの〈識〉によって殺された。


レディ・アイシャ

“この島国では、我ら女は軽んじられておる。女は軍を率いず、土地を所有せず、戦争で武器を振るうこともないからじゃ”

ヨリトモに溺愛される美しき妹。カズミツ家の最後の娘。アイシャは密かにカゲと通じ、幕府とギルドによるシマ支配を打ち砕かんとしていた。この事実はヨリトモが死ぬ直前に明らかになった。

“そなたは善き心を持っているからじゃ、ユキコ=チャン。優しさと勇敢さを兼ね備えておる。この宮廷にいる殆どの者は、そのどちらも持ち合わせてはおらぬでな”

最後の目撃場所:裏切りをヨリトモに見抜かれ、情け容赦ない復讐を受けた。彼女が生き延びたかどうかは定かではない。


ミチ

“御機嫌いかかですかア、勇敢なるブシメンの皆さん。レディからお仕事を仰せつかりましたア。楽しい〈大祭典〉の間も、ショーグンの栄誉を守る仕事を黙々と続けている……そんな勇敢な皆さんのために、飲み物と軽食を配って回っているんですよ。これで元気になってくださいね!”

レディ・アイシャに仕える侍女の一人。宮廷へと密かに送り込まれたカゲの工作員の一人。剣の達人であり、無力で可愛らしい侍女と手段を選ばぬ復讐戦士の二重人格めいている。

少女は何事もなかったかのように、二人の元へと戻ってきた。ミチの額と頬には、誰かの血飛沫が飛び散っていた。彼女の握るツルギの刀身は、薄明かりの中で黒い輝きを放っていた。

最後の目撃場所:ショーグンの暗殺で帝都が混乱する中、アキヒトに肩を貸しながら、スカイシップ発着所に向かって逃げた。


ヤマガタ船長

“めっそうもない。心配ご無用です。〈シマの黒狐〉を怒らせるくらいなら、餓えた海竜の口へ俺のアレをブチこむ方がまだマシですよ、レディ”

ユキコたちが乗っていたスカイシップ「サンダーチャイルド号」の船長。アラシトラを捕えることには成功するが、イイシ山脈上空でスカイシップは炎上爆発。ヤマガタはマサルたちを救命艇に乗せ、間一髪で脱出した。

“サノバローニン! まったく、あの業突く張りのギルド野郎め……やってられねえぜ……”

最後の目撃場所:アラシトラ捕獲作戦失敗を宮廷にて報告した後、ショーグンの鉄弾投擲機で撃たれ、処刑された。


墜落するサンダーチャイルド号。スカイシップを航行させる燃料〈血〉は、〈血ノ蓮〉と呼ばれる毒性の土壌汚染植物から作られる。土壌賦活剤イノチを用いねば、〈血ノ蓮〉を育てた土地は黒い〈死滅土〉へと変わるのだ。イノチ製造法に関する忌まわしい秘密は、ロータス・ギルドだけが握っていた。


その他の重要な登場人物


ヒデオ

“我が息子らは、皆死にました、グレートロード。輝かしき戦争の中で、皆、倒れたのです。青々と茂る若木たちは、帝国の御旗の下で、切り倒されたのです。どうか御慈悲を。唯一残された甥を甘やかし過ぎてしまった、愚かな老いぼれを御赦し下さい”

宮廷における権謀術数の全てを知り尽くした冷酷な老臣。〈帝国諜報網〉の長。ヒロの叔父。

“その少女は生け捕りにせよ、他は全員殺せ”

最後の目撃場所:牢獄破りの戦いで、無数の鼠に生きながら貪り食われた。


ダイチ

“〈蓮〉、焼き払うべし”

革命組織カゲの長。かつてはアイアン・サムライの一員であったが、ヨリトモによって娘のカオリを傷つけられ、離反を決意した。また、かつてヨリトモに仕えていた頃、ダイチはユキコの母親を暗殺した。これは、ショーグンの意志に従おうとしないマサルに対しての警告行為であった。

“生身の人間に対してアイアン・サムライ部隊が攻撃を仕掛ける光景を見たことがあるか、ユキコ=チャン? それも、腹を空かせて痩せ細り、槍の代わりに熊手を持って戦おうとするような、貧相な農民たちが相手だ”

後の目撃場所:イイシ山脈に隠されたカゲの砦にいる。


カオリ

“どうも初めまして、ユキコ=チャン。……拍子抜けしたような顔だな。歓迎されるのが不思議か?”

カゲの副官。ダイチの娘。彼女の顔にはかつてヨリトモにつけられた醜い刀傷の痕が残っている。ユキコより二つか三つほど年上。その言動や思想はダイチよりも苛烈である。

“犠牲は必要だ。いまやシマの民は〈血〉中毒者と成り果てている。体制が死を拒むならば、誰かがそれを殺さねばならない”

最後の目撃場所:イイシ山脈に隠されたカゲの砦にいる。


イサオ

“俺はクソッタレのロータスマンなんかと絶対に話なんかしませんよ。どんな奴でもです。あいつら全員、害毒ですから”

カゲに所属する少年。ユキコの湯浴みを覗き、その肩にショーグンの家臣の証である〈帝国太陽紋〉が刻まれていることを暴く。ギルド者に激しい憎悪を抱いており、キンに対しても敵意をむき出しにしている。

“いいか、ダイミョの兵士たちは、土壌が本格的に死に始める前に、そこの農民を徹底的にコキ使って追い出す。……あいつら、農民から地税をしぼり取り、イノチを買うカネも残らねえようにした後、「環境保護」とかなんとか理由をつけて農民を土地から追っ払うのさ”

最後の目撃場所:イイシ山脈に隠されたカゲの砦にいる。


ケンサイ

“グレートロード、あの少女は〈穢れ〉にございます。ヨーカイの血で〈穢れ〉ております。〈万日の書〉の命ずる通り、彼女の〈穢れ〉は浄化されなければなりません。〈浄化の道〉を歩まねばならぬのです”

ロータス・ギルドの〈弐の華〉。帝都カイゲンの〈ギルドの声〉。現在のロータス・ギルドにおける最有力者のひとりであり、怪物のごとき男。キンの義理の叔父。異能を持つ者たちを〈穢れ〉とするギルドの教義を信奉し、幼い子供であろうとも容赦なく捕え、火刑に処させてきた。ユキコが〈穢れ〉であることを見抜き、ヨリトモに浄化を進言した。

最後の目撃場所:ロータス・ギルドの帝都カイゲン支部中央集積所。


この巻から登場する新キャラクター

左からアキヒト、ハナ、ヨシ、ジュウロウ。

アキヒト以外が「キンスレイヤー」から初登場となるキャラだ。ハナは宮廷で使用人として働き貧民街で暮らす〈紋無し〉の少女。ぼさぼさの黒いボブカットで、固めには黒い革眼帯をあてている。何故宮廷使用人なのに貧民街暮らしかというと、カースト最下層である〈紋無し〉にしかできない汚れ仕事をしているからで、その給金は雀の涙だからである。

ヨシは彼女の兄で、同じく〈紋無し〉。黒いブレイズ編みの髪に、縁が壊れた麦わら帽をいつも被っている。一番右のジュウロウは〈猛虎〉の出だが、ヨシのボーイフレンドであり、薄汚い過剰増築長屋でハナたちと一緒に暮らし、煙管や博打に明け暮れている。ハナとヨシはユキコと同じく〈識〉の異能を持っているが、露見するとギルドの〈浄化師〉らに捕まって火刑に処されてしまうため、その力を隠しながら帝都で生きている。

およそ革命や戦争とは無縁と思われる出自のハナたちが、なぜ、どのように〈蓮〉戦争に関わるのかは、「キンスレイヤー」上巻と2017年7月発売予定の「キンスレイヤー」下巻で明らかになってゆく。

☝️第1セクションの試し読みはこちらから☝️



〈識〉の力が強まり、憎悪に呑まれゆくユキコ。

ショーグン亡き後も苛烈な内戦が続くシマ帝国。

暴かれた土壌賦活剤イノチの秘密。

ユキコと帝都の運命やいかに。

https://www.amazon.co.jp/dp/4047346721/



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