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「スズメバチの黄色」発売直前原作者ロングインタビュー(前半)

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原作者の1人「フィリップ・N・モーゼズ」より:

前のインタビューでは、どこまで話したっけ? そう、僕らは「ラオモト・チバ」を主役とした小説について、まるまる1冊書き下ろしのオファーを日本のKADOKAWA社から受けた。これはとても光栄なことだ。僕らにとっても新たなチャレンジだったから、ブラッドだけでなく、ダイハードテイルズのスギやホンダの助けも得て、全力でこれに挑んだよ。出来上がった作品は……とてもいい。最高だ。最高に気に入ってる。君にも楽しんでもらえれば幸いだ。


どんな小説? 戦闘は? 

……もちろんある。僕はアクションが大好きだからね。危険なサイバネや武器もたくさん出てくる。時は2039年。混沌の時代だ。磁気嵐は晴れ、日本国家は崩壊し、多数の暗黒メガコーポがネオサイタマに新たな境界線を引こうとしている。ストリートの反抗的な若者たちは、まるでタトゥーでも入れるように気軽に、体に戦闘用サイバネを埋め込んでいる。一部の暗黒メガコーポは、既に「エメツ」を使った新たな兵器を試作し、徐々に実戦配備を始めている(これを読んでいる人なら、エメツのことはもう知ってるよね?)。まさに混沌の時代の幕開けと呼ぶに相応しい。恐ろしい危険や無法がそこかしこで蔓延ると同時に、途方も無いチャンスがあまりにも無造作に転がっている。そんな無茶苦茶な時代に生きるティーンネイジャーたちの葛藤や、暴走や、友情が、この作品で描きたかったテーマの一つだ。そして繰り返すが、血みどろの戦いがたくさんある(僕はそういうのが好きなんだ。君は?)。

前提知識は必要なし!

「スズメバチの黄色」を読むにあたって、最低限知っておいたほうがいいニンジャスレイヤーのエピソードはあるだろうか? 無い。全く、まっさらの状態で読んでも楽しめるように書いてある。ニンジャスレイヤーはおろか、サイバーパンク作品をいままで全く読んだことがない人でも大丈夫だ。……ただ、これは完全に証明することができない。なぜなら、この記事を読んでいる人も含めて、僕らはみんな「読んだことがある」側の人間だからだ(記憶を消せる装置ができるといいんだけどね)。だから実際のところ、僕らは「何の前提知識もなくこの作品を読んだ人が、どんな感想を持つか?」ということに対して、とても強い興味と関心を持っている。

ここからニンジャスレイヤーの世界にダイブしてくれれば最高だけれど、それ以前にまず、この世界についてどんな印象を持つのか? この物語の描くものに対して、どんな感想を持つのか? 改めてそれらを知ることができる機会を得たのが、本当に楽しみなんだ。もし君に「ニンジャスレイヤー」を全く知らない友達がいるなら(僕にはいない)、なんの前置きも無しにこの「スズメバチの黄色」を手渡してみてくれ。そして、どんな反応だったか、こっそり僕らに教えてほしい! =) そしてもちろん、「ニンジャスレイヤー」のことはなんとなく知っているけど、これまでに発表された膨大なエピソードの規模感に尻込みしている人がもし身の回りにいたら……例えば「どこから読んだらいいのかわからない!」という人にも、今回の「スズメバチの黄色」はうってつけだと思うから、ぜひ教えてあげてほしい!

それと「これは男性向けなの? 女性向けなの?」という質問がいくつか日本のニンジャヘッズから寄せられていることのことだけど、僕らとしては特に何も意識していない。そもそもサイバーパンクなんだから、男性向けも女性向けもない。「ニンジャスレイヤー」がサイバーパンクとニンジャが好きな人に向けて書かれているように、「スズメバチの黄色」はサイバーパンクとヤクザ・アクションが好きな人に向けて書かれている。いつも通りね。それだけだよ。ニンジャスレイヤーがニンジャを殺しに来ない分、絶体絶命の苦境はさらに危険だ。内容についてはむしろ、いつものエピソードよりもハードな部分があるかもしれないよ!


トリロジーとAoMを繋ぐピースでもある

もちろんこれは「ニンジャスレイヤーを読んだことのある人は、これまでの作品知識を全く活かせなくて、肩透かしを食らう」という意味ではない。「スズメバチの黄色」はパラレル次元でもなんでもないし、ちゃんとした正史エピソード(なんて呼ぶのが相応しいかわからないけど)のひとつだ。前提知識なしでも全く読めて、それでいて、これまでニンジャスレイヤーを読んできてくれた読者の方々は、トリロジーからAoMへと向かう10年間のミッシングリンクの1ピースを埋める楽しみがあるし、この10年間には無限のワクワクするような楽しみが埋蔵されていることに気づくだろう。そういう作品を目指した。だから約束しよう。君がもし、モータルが奮闘するような「ニンジャスレイヤー」の典型的なエピソードが好きならば、「スズメバチの黄色」には君が好きな要素がギッシリ詰まっている。ただ、ニンジャスレイヤーは出ない、それだけだ。


2038-2039年のネオサイタマと企業戦争

でももう少しだけ、トリロジーとAoMを読んでくれている人に向けて、詳しい設定を話しておこう。ネヴァーダイズの後、アマクダリと日本政府は崩壊し、ネオサイタマの各所、特にカスミガセキ・ジグラットは巨大な企業間戦争の場となった。ジグラットは一個の都市くらいのサイズがあるからね。国内外の暗黒メガコーポ同士が国家崩壊のドサクサに紛れて、数々のシャナイ級機密情報を奪おうとして、アタックやリコンなどの作戦を行ったんだ。「強行調査」などの名目で。

特にオナタカミなど、エメツ・テックに関する数々の秘密を有していたオフィスやラボ、ファクトリーなどは、様々なメガコーポによって蹂躙され、熾烈な奪い合いが行われた。もちろん、外資系メガコーポが持つテックも、国内系のメガコーポからすれば異質のテックミームやテックツリーを有しているから、その最新鋭兵器を鹵獲したりハッキングすることで、各社は多大な利益を得ることができた(ものすごい数の犠牲を支払ってだけどね)。磁気嵐によって分断されていたテックが、この混沌によって一気に世界各地に拡散し、独自の発展を遂げていったわけだ。かつて電子戦争の中でメガトリイ社の巨大な骸が食い荒らされていったようにね。

暗黒メガコーポ各社は、この状態を可能な限り長く維持したいと思った。しかし、あまりにも長期化すると、ネオサイタマという巨大かつ稀有なる経済圏まで疲弊させ、崩壊させてしまうことも明らかだ。ただでさえ国家崩壊で秩序が失われていた時期だからね。その危険性は各社とも気づいていたし、誰もそれを望んではいなかったが、「自勢力がもう少し有利になったら終了を呼びかけよう」と各社が思っていたせいで、なかなか終わる気配がなかった。

企業戦争は麻薬みたいなもので、やめどきが掴めなくなる。それでも「大規模な戦闘が可能な領域を限定しよう」という提案はすぐに受け入れられ、ジグラットなどが企業戦闘領域に選ばれた。そして、徐々に外資系暗黒メガコーポも「無秩序な争奪戦」から「既に手にした領土と利益の確保」に動き始めた。そうしないと、どんどん後から新規参入者が来て、先行者利益を享受できなくなってしまうからね。

こうして、初期の戦闘を終えて拠点を築いた各種暗黒メガコーポ群が、新たな秩序と体制を築こうと模索し始めた。たとえば念願のネオサイタマ進出を果たしたカタナ・オブ・リバプール社は、現地雇用者を集めて民間の治安維持会社である《KATANA》を結成した。このように、ある側面から見れば、暗黒メガコーポの支配と秩序は市民たちの盾となることもあった(特に、治安サブスクリプション・サービスを購入できるような富める市民にとってはね)。しかし当然ながら「誰も見ていないところで」暗黒メガコーポや無法者たちの狼藉行為や戦闘行為は繰り返される。


ヤクザの戦国時代

ラオモト・チバたちはこうした混沌の中で残党を集め、一旦はトコロザワ周辺にヤクザ勢力圏を築いた。炊き出しなども行い、カタギを助けて、侵略者たる外資系暗黒メガコーポの横暴に対する牽制を行った。だが苦しいことに、アマクダリの崩壊によってチバは経済力のほとんどを失っていた。カネの切れ目が縁の切れ目だ。残党などを集めて急速に膨れ上がった彼のソウカイヤは、暗黒メガコーポと秘密裏に手を組んだ他の大規模広域ヤクザクランなどから集中攻撃を受け、甚大な被害を出した。まさにヤクザの戦国時代だ。傭兵たちの大部分は既に他のメガコーポなどに鞍替えしていたから、ニンジャ戦力も不足していた。暗黒メガコーポに対抗すべく、マルノウチで他ヤクザクランとの大規模な同盟結成に赴かんとしていたチバは、卑劣な罠に嵌められ襲撃を受けた。護衛のネヴァーモアすらも分断されて生死不明となり、チバはたった一人の運転手とともに、ネオサイタマの南端「渾崎(ケオサキ)地区」へと落ち延びる。ここは商業港湾の閉鎖から衰退の一途をたどる地区で、経済的旨味は皆無。それゆえ、ソウカイヤやアマクダリの触手も伸びていなかった暗黒地区だ。チバはここから港へ逃げ、再起を図ろうとする。だが宿敵ヤクザ組織《武田》……すなわちタケダ・オブ・デス・ヤクザクランの執拗な追っ手により、チバの乗るベンツは《龍256》ストリートでついに爆発炎上。命からがら逃げ出したチバは、そこで一人の若者に拾われる。それが火蛇(かじゃ)だ。ここから全ての物語が始まる。ヤクザの物語だ。


アートワークと都市のイメージ

イラストレイションについては、ttl=サンが本当に素晴らしいコンセプトスケッチとアートワークを手がけてくれた。特に表紙のイラストは、全く違うポーズや構図で何パターンも魅力的なカラースケッチを描いてくれた(紹介できないのが残念なほどだ)。特に好きなのは裏表紙に使われることとなったイメージイラストだね。門の上にチバ、火蛇、大熊猫の三人が立ち、目眩くようなネオンサインの海を眺めている。そのスケール感とも相まって、本当に幻想的かつサイバーだ。最初にこのコンセプトスケッチが来た時、僕もブラッドも「これだよ! すごい!」と大喜びし、一発でOKを出した。このイラストを見て貰えばわかる通り、龍256は、オールド・カメ・ストリートのような、ネオサイタマにおける所謂「チャイナタウン」の一つだ。もちろんここはネオサイタマだから、他のエリアと同様、いまの時代の僕らが知る「チャイナタウン」とは全然違うし、人種やカルチャーの坩堝だけどね。つまり「スズメバチの黄色」で描かれる街並みは、ネオサイタマの典型的風景ではないということ。でも紛れもなく、その1ピースのひとつなんだ。他にももっと伝えたいことはあるけれど、それは発売後にするよ!

「ネヴァーダイズ」によって世界はケオスに分断され、引き裂かれた。その先に広がる世界のひとつ「龍256」へと、ぜひダイヴしてみて欲しい!





以下は過去の発売記念イベントです


◆ニンジャは誰だ? クイズイベントに挑もう!◆

ドーモ、ニンジャスレイヤー翻訳チームです。発売までのこの焦れったい10日間をもっと楽しんでもらうために、我々は限界までニューロンを加速させ、このイベントを考えました! これはこの記事を読んでいる人であれば誰でも気軽に参加できる、画期的なインターラクション・イベントです。

【問題】:既にキャラデザインスケッチと簡易プロフィールが公開された8キャラ「チバ」「火蛇」「大熊猫」「氷川」「蠱毒」「脳外科医」「ミルチャ」「羅刹374」の中で「ニンジャ」は誰? 

確かにこの物語に「ニンジャスレイヤー」は登場しません。それは何度も繰り返されています。また、「ネヴァーモア」や「ガーランド」のような、トリロジーやAoMに登場する「おなじみの」ニンジャが出ないことも語られています。しかし「ニンジャ」が出ないとは言われていません。ニンジャはいるのか? その答えは読んでみなければわかりません。

それは1人かもしれないし、複数人かもしれないし、ゼロかもしれません。あなたの予想を、この記事のコメントに書き残してみよう! 正解した素晴らしいニンジャ第六感の持ち主の中から、抽選で1名の方に、原作者サイン入り物理的記念品がプレゼントされます。応募締め切りは、2019年6月23日の23:59まで! 

🐬📶noteの色々な使い方を試すお祭り的な企画でもあるので、あまりウンウン考えず、気軽にこの記事に書き込んでみてね!

手がかりとなる設定画やプロフィールを確認する時は、ここから

And more...

これ以外にも、「スズメバチの黄色」を題材としたウキヨエコンのようなイベントをTwitter上で開催しようかと思っています(現在ダイハードテイルズで詳細を検討中です)。これはイベント詳細が決定次第、発売後にオープン情報としてアナウンス予定です! お楽しみに!

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