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S3第5話【ドリームキャッチャー・ディジタル・リコン】#8

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「CEO」「なにかね?」作戦会議を終え、みなが持ち場へ去ると、ナインは抑えた声で尋ねた。「今回の作戦参加は、カナダ地域へのヨロシサン進出の足掛かり……その一環という事だと把握しておりますが」「その通りです」「……」サトルは顔を上げ、ナインを見た。そして言った。「なにか含みがありますね。話してみなさい」

「Wi-Fi狩り部隊は必ず後続部隊と合流を果たし、前回の戦闘とは比較にならぬ規模の攻撃が襲ってくるでしょう」「実際そうですね」「その……」ナインは唇を湿し、ためらいがちに言った。「この谷に未来はないと考えます。ギリギリまで持ちこたえる必要について、一考の余地があるかと」

「成る程」サトルの表情はアルカイックに不動であった。ナインは勢い込んだ。「CEO。どうか作戦に必要以上に没入なさいませんように……差し出がましいですが、私からはそう申し上げたいのです。貴方一人のカイシャではありません」「ははは。何を言い出すかと思えば」サトルは笑った。「当然の懸念ではあります。ですが……」

「CEO」「ですが、私の内なる戦略的判断はいまだ撤退の結論に至っていません。今の時点で尻尾を巻いて逃げようが、もう少しリコナー達と共に行動しようが、リスクは似たようなものです。私が谷を早々に棄てたとしよう。仮にこの地の者に生き残りが出ればどうなりますか? なかなか面倒な風評となろう」

「し、しかしそれは」「君の心配はもっともです。ですが……フフッ……敵にも同じ事を言いましたが、私がくぐってきた修羅場の数々において、今回の事態は最大の危機には程遠い。よい機会だ。ヨロシサンCEOの真のリスク見極めというものを見せてあげようじゃありませんか!」「CEO……!」

「トオヤマ=サン、君の心配は実際貴重で、保護者的ですらあります。だが最終決定権は私だ。今回はまだ聞き入れる段階に無し。君が為すべきは、今後の戦局を見極め、ネザーキョウ入りしたタスクフォースに再度の通信を試みるタイミングを測る事です。谷が暴かれたその瞬間、もはや隠し立ては不要!」


◆◆◆


 リーン……リーン……リーン。馬の鞍にくくられたウインドチャイムの雑音が減り、澄んだ音色が大きくなっていった。ファーネイスは掌の火の旋回速度をその周波数にシンクロさせた。笑顔が火明りを受けて影を濃くしてゆく。ダガガッ……。カラテ馬にまたがったニンジャ、ウォーマスターが隣に並ぶ。

「貴公のマジナイを疑いはしないが、人海戦術で谷を洗うのと、どちらが早いかな?」ウォーマスターはややぶしつけに言った。ウォーマスターの鞍にかかった旗には「明智常醐」の漢字が誇らかにショドーされている。彼と兵はジョウゴ親王の持ち物であり、タイクーン直属のテツバとは組織を異にする。 

「タイクーンの寵愛を受けたテツバの英雄殿も、この地においてはお客様だ。鉄槌を下すのは我らだという事……」「それはもう」ファーネイスは凄みのある笑みを近づけた。「貴殿の腕を借りて、同胞を殺られた恨みを存分にぶつけさせていただく。それだけよ」「ならばマジナイを急ぎなされ」

 後続の部隊は馬上のゲニン騎兵集団ばかりではない。ゲニン歩兵を満載した装甲トラックが列をなし、続々と砂利道を進んでくる。そしてコヒバリがさらにその後方……!「ふはは……」ファーネイスの掌の上で、炎がバチバチと音を立てた。「然り、この位置! イヤーッ!」KA-BOOOOM! 眼前の壁が、爆発した!

 ナムサン! 見よ! 崖の行き止まりと見えた岩壁はファーネイスのカトン爆発を受け、凄まじいノイズと共に蒸発、隠された山道を顕にしたのである!「人海戦術なさいますかな?」ファーネイスがウォーマスターを見た。ウォーマスターは笑い返した。「ははは。まずはワザマエと申し上げたい!」「然り!」

「Wi-Fi肉の匂い、芳し!」レベリングが頭上で大鎚を振り回しながら飛び出した。ウォーマスターは頷き、グンバイを突き出した。「者共、レベリング=サンに続け! この先に惰弱なインターネットが潜んでおること間違いなし。尽く仕留めるのだ!」「「「ワオオーッ!」」」ゲニン騎兵が後を追う!

 岩壁カモフラージュは見る間に復元してゆくが、もはや遅い。テツバとジョウゴ軍の混成軍は歓喜の雄叫びをあげ、岩ビジョンをすり抜け、雪崩をうって山道を駆けてゆく! そしてその上空! カイトを背負った偵察ニンジャはそのさまを俯瞰し、胸に抱いた水晶玉を用いて、親王にオヒガン通信を繋ぐ!

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 0100101……「フゥーム。始まったか。惰弱な幻影など、破れ寺のショウジ戸も同然」ジョウゴ親王はコショウに扇がれながら、黒い顎髭を弄ぶ。彼が眺めているのは巨大な御影石だ。石には水晶玉を通した俯瞰ビジョンが映し出されている。

「殲滅だ。他は求めぬ」ジョウゴ親王は言った。駆除すべき害虫の巣を見出した興奮と、その為にタイクーンの力を借りねばならなかった事への苛立ちによって、ジョウゴ親王の青褪めた顔には、喜びとも悶えともつかぬ複雑な感情がさしており、その圧を間近にしたコショウは身も凍る思いであった。

 猜疑心が強く残忍なジョウゴの横顔は、アケチ・ニンジャとは全く似ていない。むしろ……まことしやかに語られる出処不明の噂によれば……ジョウゴ親王の面影は、若き日のオダ・ニンジャに非常によく似ているのだという。即ちセンゴク名をオダ・ノブナガ。アケチのかつての主君にだ。

「貴様……」ジョウゴ親王は片目だけを真横に動かし、コショウを睨んだ。「アイエッ!」「扇ぎが乱れておるぞ。仕置きされたいのか」「め、滅相もござりませぬ!」コショウは恐怖に顔を赤らめ、必死に扇いだ。風を受けながら、ジョウゴは血走った目で俯瞰映像を凝視する……!

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