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バルダーズゲート

毎年、夏が近づいてくると思いだすのは、大学の時のバルダー合宿だ。自分の人生に影響を与えたゲームというのはいくつもあるが、そのひとつが、PCゲームの名作「バルダーズゲート/ Baldur's Gate」(1998)である。そして、それを攻略するためにコンピューター部の中で一番広いアパートを借りていた仲間の家に6人の命知らずが自作PCを持ち寄って集まり、6台を並行LAN直結して開催されたのが、この過酷なビデオゲーム合宿であった。

「バルダーズゲート」は、今でいうWitcherとか、大量のサイドクエストと背景書物で彩られたオープンワールドゲームのはしりで、自分よりひと世代下のゲーマーがWitcherで味わった衝撃と同程度のものを、自分の場合はここで受けたのだ(探せばもっと古いのはあるし、こういうのはどっちが凄いとか偉いとかではなく、自分がリアルタイムで体験したそれこそがその人にとっての答えであり、尊重されるべきものであり、故に個々に存在するのだ)。当時SEGAから日本語版が出ていなかったら、翻訳の仕事をやりたいとは思わなかったかもしれないから、人生を変えたゲームの中でも特に大きなタイトルのひとつと言えるだろう。

このゲームが自分にとってまず衝撃的だったのは、登場するほぼ全てのNPCが殺害可能であり、それでも話が進むところである。また美しく精密なクォータービューで描かれた独特の見下ろし型マップは、RPGの俯瞰視点と可笑しみを再現する最高の組み合わせだったし、音楽もシナリオもゲーム内容そのものも理不尽な難易度も何もかも、全てが圧倒的であった。Steamでセール中なので、興味のある人は是非やってみてほしい。

ちなみに難易度はめちゃくちゃ高い。最大6キャラまでパーティを組めるのだが、1人で複数キャラを操作すると、高難易度の敵には対応できない。サーバーを立ててネットで繋ぐこともできたが、当時は未だテレホーダイ社会であったし、ダイヤルアップ接続速度も遅すぎて話にならない。つまり、このゲームを最も効率的に攻略する方法は、ゲームに特化した自作PCを持ちし勇者が同じ場所に6名集まって、タコ部屋みたいなリアル合宿を行うことであった。そしてこのゲーム体験の素晴らしいところは、その最も効率的な攻略方法こそが、最高に楽しく贅沢な味わい方であったということだ。

「バルダーズゲート」を攻略するために、我々は3つくらいの部屋に分かれてLANケーブルで数台を繋いで床に座り(みんなPCやゲームに注ぎ込みすぎてあんまり金がなかった)、夏の暑さでPCがフリーズしないようガンガン冷房をかけて(かからない部屋もあった)、安物のワインを飲んで肉を食って、バカみたいに笑いながら過酷な合宿をした。誰かのミスで死にそうになったり、ヤバい敵を発見したり、理不尽なトラップで死んだりしてパーティが全滅すると、別の部屋から悲鳴や笑い声や「ふざけんじゃねーぞ!」の声が聞こえてきたりする(全滅するとデータをロードしたり謎の強制切断で全員再ログインしたりしないといけないし、接続の時点で絶対誰かフリーズしたりし、めちゃくちゃ時間が失われるので、あほな行動をとって死ぬ罪は重い)。今思うと、それ自体もすごい経験だったな。

ちなみに、いまやウィッチャーやサイバーパンク2077で世界的に有名なポーランドのCD Projekt社も、最初はバルダーズゲートのローカライズ権を獲得するところから始まっているということを最近知って、色々なものが腑に落ちた。彼らはおそらく自分よりもひと世代もふた世代も上のゲーマーなのだろうが、同じものに魅了され、同じものの価値を信じて戦った人々なのだ(そしてその見事なシナリオ管理や世界観構築のノウハウとミームは、絶対にバイオウェア社から受け継がれているはずだ)。……という一方的なシンパシーを抱いている。そうすることで、自分の好きなゲームの価値が何倍にも味わい深くなる。それが文脈の力だ。バンドのルーツ探しのような、こういうゲームの影響と文脈とラブとリスペクトの交差系統樹みたいのが、どっかにないものだろうか。あったらすごく見てみたい。

(杉ライカ)


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