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ピルグリム・ダークウォーター:殺生石の章

承前

 砂塵を立てて荒野をゆくのは、騎馬の者らとバイクが半々、加えて、ルーフを引き剥がしたサンドバギーには、彼らのクラン・エンブレムと思しき、狼たちに授乳する地母神の旗が立てられていた。彼らはみな鼻と両目のところに縦の墨を入れ、互いに言葉をかわさず、真顔で目を見開いていた。

 サンドバギーが牽引する荷台には拘束された娘たちが積まれていた。当然ながら、彼女らの目は絶望に曇っていた。キノカマヴィルの女たちだ。村を焼かれ、家族を殺され、こうして運ばれている。

 キョート荒野は無法の地であり、自衛手段を持たぬコミュニティは、力ある者によって滅ぼされる。こうした光景はチャメシ・インシデントだ。キノカマヴィルはそれでもよく保っていたほうだった。ボンジャン・テンプルのバトルボンズが宿を借りている事は周辺地域に知れ渡っていたし、村の男衆はそれなりに訓練され、銃火器の備えもあった。それでも、巡り合わせが悪ければ、このような結末を迎える。

 具体的には、彼らは襲撃の直前に謎の透明存在の侵入を受けており、それへの対処にかかりきりになり、頼りになる男が殺されるなどの被害を受けていた。そして、もしその場に居れば力になったであろうバトルボンズも、供養行為の為に不在であった。運命とは、かくのごとし。では、この娘たちの辿る今後の運命は、いかほどに過酷なものであろうか?

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 クランの者らは小高い丘に到達し、そこから下を見下ろした。丘陵地帯の地形によって微妙にカモフラージュされたその斜面には、アリの巣じみた洞穴が複数、口をあけていた。ピュイイイイ……軍団のリーダーが横笛を吹いた。すると数分後、そこから軍団と同じような背格好の男たちがぞろぞろと這い出してきた。

「豊穣なり!」

 リーダーは叫んだ。下の男たちは伝言ゲームのように耳打ちで情報を伝えていった。やがて一人が洞穴へ駆け戻っていき、背中の曲がった老婆を伴って現れた。老婆の姿はねじくれていたが、驚くほどに身体が大きかった。8フィートはあった。それがこのクランのリーダーであった。

「あああ、子らよ!」

 老婆は驚くほどに張りのある声を発し、両手を広げた。

「よくぞ戻った! 愛しておるぞえ!」

「タダイマ!」「タダイマ!」「タダイマ!」

 戦士たちが叫び、ガシャガシャと武器を鳴らす。虜囚はただ震えて見守る他なし。

「はよ、曳いてまいれ! 子らよ!」

「ハーッ!」

 戦士たち一人ひとりが荷台の女を抱え上げ、丘の側面に設置されたリフト式エレベーターを用いて、大母の待つ巣穴の前に降り立った。彼らは女達を列に並ばせた。老婆はその前を値踏みするように行き来し、睨みつけた。 

「わかってるねアンタたち……シツレイの無いようにしないといかんよ」

 娘たちは当然、わけもわからず、震えるほかない。老婆は容赦がなかった。

「シツレイの無いようにしろッて言ってンだよ!」「ンアーッ!」「この、アバズレどもが!」「ンアーッ!」

 ナムアミダブツ! わけもわからず老婆の杖の打擲にさらされる娘たち! 軍団の者らは眉ひとつ動かさずにそのさまを見守るのだ! 

 そして、そんな過酷で異様な光景を岩陰から見守るのもまた、異様な存在だった。中身の無い衣服だ。バトルカフタンの中には何もない。まるで宙に浮いているかのように。それが身じろぎした。

「クワバラ、クワバラ。イカレ神がかり連中ときたかよ」

 不可視の者は、呆れたように呟いた。宙に浮いた衣服が注意深くその場を去り、やや離れた地点で待っている仲間二人のもとへ戻っていった。二人は切り立った崖を背に、厳しい日差しを避けて座っていた。

「ご苦労でした」

 片腕のボンズ……アコライトが目を上げ、透明の者……ミエザルをねぎらった。ミエザルはぼやいた。

「ッたくよォ、裸にさせてくれりゃあ、こんなコソコソせんでもよかったんだぜ。だっせえ服着せやがって」

「耳を貸すな、ボンズ。こいつは今でも逃走の機会をうかがっているぞ」

 煮えたぎる鎧に覆われた異形の男が厳しく言った。リンボである。ミエザルは彼を睨んだが、透明なのでその視線は誰にも伝わらなかった。

「それで、どんな様子でしたか」

 アコライトが尋ねた。ミエザルは腕を組んだ。

「イカレた連中だァ! 頭が煮えッちまってるに違いねえや。見た目、そこらの盗賊連中だがよ、率いてやがるのはシワシワのババアだ。俺だってあんなババアをファックしたいとは……そんなに思わねえな。それでよ、シワシワのババア相手に、奴ら従順なもんだぜ。子供達とか呼ばれてたが、本当かもしれんぜ。きっと、男をとっかえひっかえ、ヤりまくったんだ。とんだ大家族だな。昔はもしかしたらオイランみたいだったのかな? ヤベエ、勃ってきたぜ……」

「要点を話せ」

 リンボが遮り、ミエザルは舌打ちした。

「イチイチうるせえんだ、お前は。でな、村の女どもはロープでつながれて、引っ張られていったぜ。洞窟の中にな。牢にでも閉じ込めて、あの男どもが、かわりばんこでファックするんじゃねえか? たまらねえな……洞窟ときた。野趣があるじゃねえか……そこに俺がよ、何しろ透明だから、いつのまにか混ざって、ヤりまくるって寸法……さ、最高……イシ……イシシ……キッヒヒヒヒヒ!」

「いつでも殺してやるぞ、この下種を」

 リンボがアコライトに言った。アコライトは息を吐いた。

「ボンズをからかいたいのですよ、この者は」「お前はとんでもないお人よしだ」「キシシシシ!」

「侵入路はそこだけですか? ミエザル=サン」

「なあ、本当にやるのかよ? 気が進まねえよ。そもそも助けてやる必要がねえじゃねえか……なんで助けなきゃいけねえんだよ……」

「見過ごすわけにはゆきません」

「助けたからッてどうなるンだよ? だってよお、助けた女とファックしたらダメなんだろ?」

「いけません」

「じゃあ、やる気が全然しねえよ。何でそんな事をよ……ぜ、善行ってやつか? ブッダが天国に連れてってくれンのか? 知ってるぜ、俺ら、生まれながらに罪があるんだろ? だったら好き放題やって、ヤりまくるのが正しい在り方じゃねえかよ」

「ならば、お前は留守番だ。だが、解放はせんぞ」リンボが言った。「首に鎖を繋いで、そこの岩にでも打ち付けていく」

「なんだと? 今更いいカッコがしてえのか? ボンズの前だからスピリチュアルになってやがンのか? 改心したッてのか? お涙頂戴か? せっかく首輪から自由になって、今度はボンズの番犬か? いいザマじゃねえか! 俺と同じクズ犯罪者のくせしやがってよ。リンボ=サンよォ!」

「静かに。既にここは彼らの領域なのですから」

 アコライトが制した。ミエザルは舌打ちし、黙り込んだ。リンボはあらためてアコライトを見た。

「こいつは知らんが、俺はお前と行くぞ。ボンズ」

「感謝します」

「お前の為ではない。俺の興味だ」

「……どちらにせよ」

 アコライトは頷き、立ち上がった。そしてリンボも。

「畜生め。やりゃいいんだろ」

 ミエザルが言った。

「気は進まねえがよ……」

「結局やるのか。無駄口ばかり叩く奴だ」

 リンボが冷たく言った。

「うるせえ」ミエザルは呟いた。「予感だよ」

「予感だと?」

「いや、いい! 忘れろ」ミエザルは言った。「どうせ、俺の中のニンジャ第六感の惑わしだ。呪いそのものだぜ、ニンジャなんてよォ……それより本題に入ろうじゃねえか。入り口は正面だけじゃねえ。反対側に回りゃあ、糞やゴミを廃棄する穴がある。俺達にゃ似合いのやり方じゃねえか、そうだろ」

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「歩け」

 盗賊達はサスマタで娘たちを小突き、追い立てるように洞窟の下り坂を歩かせた。自然の岩肌の左右にはまばらな間隔で松明が立てられ、おぼつかない明かりが道を照らしていた。道中の左右には時折、個室めいてくりぬかれた空間があり、そこでは盗賊たちが雑魚寝をしていた。鉄格子がはめられた場所もあった。闇の中で先客の虜囚とおぼしき人影が身じろぎした。女が二人。彼女らは連れてこられた娘たちに視線を投げかけた。

 やがて傾斜は終わり、開けた空洞に出たが、足元の地面は黒い油のようなものでひたひたと覆われていた。ちょうどそれはグラウンド・ゼロ地帯に広がる黒い水を凝(こご)らせたようなものだった。鍾乳洞の奥には明かりが集められていた。鉱山採掘用ボンボリが積み上げられているのだ。娘たちは怯えとともにそれを見た。

 それは奇怪なものだった。ボンボリライトに照らされ、黒瑪瑙じみた巨大な石が、沼の奥、小島めいて隆起したところに据えられている。石はどこか不快感を喚起する形状をしていた。ちょうどそれは、稚拙な彫刻師がブッダ像を彫ろうと試みたものの、何らかの要因によって中断に至り、放置されたかのような、粗い人型だった。それが彼らの神であった。

「おおお!」

 老婆は娘たちを押しのけて走り出た。異様な速度で杖をつき、巨体を揺らし、黒い油を跳ね散らかして、沼の浅い部分を渡り、小島に這い上がった。

「おお、おお、ダイコク様……お納めくだされ、ダイコク様。ダイコク様!」

 神体のたもとで老婆はうつ伏せになり、狂おしく、奇妙なチャントを唱え始めた。

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