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S3第10話【タイラント・オブ・マッポーカリプス:後編】分割版 #3

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 カタナ・オブ・リバプール本社。

 光降り注ぐ中庭には緑が溢れ、ミツバチが奥ゆかしい羽音を立てて、花々の蜜の採取に勤しんでいる。装飾の施された屋外テーブルで、今、穏やかに紅茶を楽しむ二人あり。

 一人は年の頃、四十前後の女性だ。彼女は痩せて、中性的な外見の持ち主だ。服は黒一色。主張はないが一目で素晴らしい仕立てがわかる。柔らかい金色の髪を斜めに撫で付け、少し尖った耳をあらわにしている。鎖骨には微細なダイヤの首飾りが輝く。相手を見つめる瞳は白灰色で、薄い唇がうかべた笑みには、皮肉の歪みがあった。

「オーパス、こちらへおいでなさい」彼女は飼い猫に呼びかけた。呼びかけられた美しいロシアンブルーは、噴水の横で身を固くし、決して近づこうとしない。「おびえているのよ。貴方に」少し、肩をすくめてみせる。……リン、リリン。楽器的な音が響き、ティー・テーブルの横にホロモニタが開いた。

 ホロモニタが映すのは衛星地図であり、歪んだ星型の光の帯が刻まれている。「宇宙からも、実際この帯は確認できるようよ。興味深いものですね……」「それは面白い」相手の男が相槌をうち、オーツケーキを手にした。彼女は紅茶を口にした。「面白い? ある意味では。壮大で醜い落書きといったところ」「手厳しいですな」

「この五芒星の外へネザーキョウの勢力は出られぬと見える。ゆえに幸い、我がイングランドは安全圏にあります。生まれつき、幸運にだけは恵まれているの」彼女は言った。「だから、幸運に見合った動きを取らなければね」リリン。モニタが鳴った。オムラ・エンパイア、年収移動。タイロー級。

「この解析には多少の時間差が生じます」彼女は親切に説明した。「オムラ……ふふ……本当にタイローを送り込むとは。ここしばらく観測された予兆の通り、彼らはそれなりに本腰を入れて、このタイミングでホンノウジを取りに行く算段のようね」「UCAにしてみれば、たまったものではありますまい。横から攫われたような格好になる」

「オムラはその後の戦争も辞さずといったところでしょうね。尤も、オムラと正面から事を構えようという気骨あるカイシャはUCAには居ないわね」「これからどうなりますやら」「それは今考えても仕方の無い事。それより私は正直、失望しているの。五芒星の力場はテックではなく属人的なジツだと知って」

「奪えませんからな」「残念ね。本当に」彼女は少し笑った。「だから潜伏者には別のミッションを与えました。せめて、やり甲斐のある仕事を与えてあげなければ」彼女は庭園に並ぶニンジャの彫像を眺めた。大陸間弾道ニンジャキャリア「黒馬車」の実験過程で殉職した英雄的ニンジャ社員達の像である。

「仕事とは……つまり……」「ふふふ」彼女はまた笑った。そして社内IRCに向かって命じた。「物理タイピストをここへ。弔電IRCを打つ用意をさせなさい。オムラは偉大なタイローを失うのですから」

 その時、新たなアラート。「あら、早速始めたのね」「何をです」「やり甲斐のある仕事を」彼女はモニタを示した。然り、それは早速、潜伏者がオムラのニンジャを一体仕留めた報告であった。「アナヤ」驚く客人に彼女は頷いてみせた。そしてIRCに指示した。「イサライトアーマーV2。実にマグニフィセントな戦果です。第1技術部のエンジニア全員に£500の臨時インセンティブを取らせなさい」

「信賞必罰といったところですか」「単なる飴です」彼女は言った。「我が社にはオムラのような年収信仰などない。もっと大きなものに衝き動かされているのです。面白いでしょう?」「論理聖教会ですか。いやはや。あれもなかなかおもしろい頓智とは思いますが、そうですか、オムロに勝ると……」

「頓智? 聞き捨てなりませんね」彼女は客人を咎めた。だが怒ってはいなかった。彼女は言った。「信じる彼らにとっては、時として、命より大事なもののようですよ? それなりに存在価値があるのです。聖書と同じくらいには」「クキキ……頂点の貴殿がその姿勢では、社員の皆さんも浮かばれませんなあ」

「この私に向かって、なかなか大胆な発言をなさるわね。ギャラルホルン=サン」彼女は……カタナ・オブ・リバプールCEO、エリザベート・バサラは、客人であるニンジャに穏やかに微笑んだ。ニンジャは一瞬、怪訝そうにして、それから笑った。「……クキキ!」「違う名前で呼んだほうがよくて? さ、次は抹茶にしましょう」


◆◆◆


 DOOOOM……DOOOOOM……DOOOOM……!「テンマ」が重い歩みを踏み出すたび、石畳が悲鳴を上げ、建物はギシギシと軋んだ。『イヤーッ!』巨大な腕が屋根瓦を薙ぎ払うと、居並ぶ弓矢ゲニンが悲鳴を上げて吹き飛ばされてゆく。ジョウゴは「テンマ」の腹中に在って、その荒々しき鼓動を最も強く感じている。

「デアエ!」「デアエーッ!」テンマの脚に取り付き、関節を刺そうとするゲニンを、その巨大な手で掴み、剥がし、握り潰して投げ捨てる。『……イヤーッ!』KRAAAASH! 建物に蹴りを食らわせ、『……イヤーッ!』KRAAAASH! 五重塔に頭突きを浴びせ、破壊する。両横には青銅猛禽、コヒバリ。

 巨大なる破壊の化身が市街を貫き、一直線に目指すは、ホンノウジの中心、ホンノウジ・テンプル城。テンマの歩みが止まることはない。コヒバリの背にはアカゾナエのニンジャが立ち、上空のカイトゲニンに矢を射掛ける。ニンジャの名はファイアワークとドゥームサーペント。真の王に忠誠を誓った者達だ。

「「「デアエーッ!」」」ゲニン達が巨大弩を動かし、テンマに狙いを定める。テンマはしかし、悠然と身を沈め、そして力を解き放った。DDOOOOM!『イヤーッ!』「「「アバーッ!」」」その巨体からは想像できぬ大胆な踏み込みと、大上段に振りかぶった巨大カタナによる打ち下ろしが敵を粉砕した。ナムアミダブツ!

「イヤーッ!」ファイアワークは正確な狙いで上空のカイトゲニンを撃ち抜く。「アバーッ!」「アババーッ!」KA-BOOM! KA-BOOM! 矢にはジツが込められており、凄まじい爆発を引き起こし、シダレヤナギめいた炎が市街に降り注いで、更なるジゴクを生ずる。炎を踏み分け、アカゾナエのゲニンが続く。

 重々しい歩みを進めながら、テンマは巨大なカタナを振り上げ、増幅された音声を市街に響かせた。『進め、我が精鋭よ! そして、偽王の兵、惰眠貪りし民草よ……ただちにドゲザにてひれ伏し、我、真の王、アケチ・ジョウゴを迎え入れるべし!』「「ウォーッ!」」アカゾナエのゲニンが鬨の声をあげる!

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