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【ザ・ビースト・オブ・ユートピア】#1

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 広場に走り来た2階建ての朝のバスに、むさくるしい身なりの市民が殺到した。罵り合う者らを溢れさせ、灰色のバスは即座に発車、エメツ混じりの黒い粉塵を残す。

「チクショ!」「死ね!」

 弾き出され、仕事にあぶれた連中は野蛮なキツネ・サインを掲げるが、すぐに表情を強張らせ、路地へ歩き去った。広場に教導兵の一団が行進してきたのだ。ガスマスクと銃剣を煌めかせる灰色の兵士達。

 彼らが整列し灰色の空を見上げると、黒い墨汁じみた軌跡を滲ませ、エメツ反重力クラフト式の輸送機が飛来した。

 グゥイィー。不快な電子警告音が鳴り響き、輸送機の底が開いた。大量の人間が広場に降り注いだ。待ち構える教導兵はサスマタと銃と叫びで彼らを威嚇し、追い立てる。

 ボリスは我に返り、窓に背を向けた。注視罪に問われれば大変だ。モップをかけて一日を始めよう。病室から呻き声が聞こえる。昨日入院したモバ=サンだろう。ひどい怪我だ。心が痛み、頭がチリチリする……。

「オハヨ」

 タリヤが廊下を歩いてきた。ボリスは会釈し、モップがけを続けた。

「モバ=サンの容態、いかがですか」「峠は越えたわ」「良かった」

 タリヤはボリスが頭を押さえる様子を気にした。

「どうしたの? 痛む?」「いえ。落ち着かない時があるんで」

 タリヤは心配そうにした。

「薬を出しましょうか」「いつもの事ですよ」

 ボリスは弱く笑い、話題を変えた。

「その……良かったスよ。僕、ここで働く事ができて」

「何よ急に」タリヤは微笑んだ。「ああ、お給料日ね? ゴトー=サン」

「ヘヘ……一ヶ月あっという間だ」

「頑張り過ぎないでね」

 ドン、ドドン。診療所の扉を叩く音。急患かしら、とタリヤは玄関に向かう。ボリスは彼女の背中を目で追う。扉が開くと、ガスマスクの男が立っていた。教導兵。タリヤがビクリとした。ボリスは息を呑んだ。こめかみを黒い汗の粒が流れ落ちた。

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