見出し画像

「ハーン:ザ・ラストハンター」収録作品プレビュー(3)「ようこそ、ウィルヘルム!」

親愛なる読者の皆さんへ:「ハーン:ザ・ラストハンター」には、表題作の「ハーン」シリーズ以外にも、サバイバルホラー、SF、スポーツもの、ゲイシャ、MMORPG、豆腐など、様々なジャンルの作品が収録されています。今回はその中のひとつ「ようこそ、ウィルヘルム!」の冒頭部分をプレビューとしてご紹介しましょう。

「Welcome, Wilhelm! /ようこそ、ウィルヘルム!」
 作:マイケル・スヴェンソン

1 

 竜の辻の魔女狩師(ウィッチハンター)、ウィルヘルムの脳裏に焼き付いていたのは、故郷の西、赤い砂嵐が吹きすさぶデッドランドの荒野に突然現れた、あの虹色の竜巻のこと。いつものように、境界線を超えて死の森からやってくる忌まわしいネクロ・ファクションの略奪部隊を追っていたウィルヘルムは、運悪く、愛馬ロードキルごとその竜巻に呑まれてしまったのだ。

「うう……」

 頬を叩く雨粒に気付き、ウィルヘルムは飛び起きた。彼は反射的に水筒の蓋を捻り、そこに雨水を貯めようとして、手を止めた。その手には濡れた泥がまとわりついていた。ここは砂漠ではない。濡れた土。岩がちな斜面。まばらに生える美しい針葉樹。視界を覆う幻想的な霧。……見覚えのない山岳地帯だ。かなり標高が高いとみえる。全く別の世界に来たかのようだ。

「どうなってやがる……」

 体があちこちが傷んだが、厳格な魔女狩師の気概とタフさをもって、ウィルヘルムは立ち上がった。すぐ近くにはせせらぎがあり、澄んだ水が流れていた。血の川でも、毒の川でも、溶岩の川でもない。デッドランドでは極めて貴重な、正真正銘の真水だ。透き通ったまっさらな水面には、ウィルヘルムの傷だらけの厳しい顔が映っていた。

 ウィルヘルムは笑いながら駆け寄り、水筒でそれをすくって、ごくごくと喉を鳴らしながら飲んだ。ここで水はおそらく、いかほどの価値も持たぬのだろう。それはウィルヘルムにとって喜ばしい事だった。水筒の中身の残りを気にしなくて良い世界は、大歓迎だ。

 間もなくして、彼は自分の軽はずみな言葉を後悔した。気が滅入るほどの土砂降りの雨に襲われたからだ。

 ウィルヘルムは悪態をつきながらあたりを散策し、ロードキルの名を呼んだ。不幸中の幸いにして、愛馬は近くの林の中で気を失って倒れていた。ブルルルル、と威勢の良い鼻音を鳴らして立ち上がり、愛馬は主人のもとに駆け寄った。外傷もなく、ロードキルはすぐに彼を乗せて歩き出した。

 雨はなお強まり、腹も減り始めた。小動物を探して狩りを試みたが、どうにもうまくいかない。理由は土地勘のなさだけだろうか。とてもそうとは思えない。ウィルヘルムのボウガンの腕前(スキル)は、少しも鈍ってなどいなかった。単純に、ここには動物がほとんど生息していなかったのだ。

 速やかに下山し、街を探さねば、野垂れ死にするだろう。

「不運という名の猟犬が、俺たちの足首にかじりついてやがるな」ウィルヘルムはロードキルの背に揺られながら、十三層地獄の悪魔たちに対して不遜な悪態をついた。「くそったれのアークデーモンどもめ! もっとマシな世界を作りやがれ!」

 数時間後。ウィルヘルムはたった独りで、当て所もなく山を彷徨っていた。

 ロードキルはもういなかった。豪雨の中、がれ場を進んでいた時に、中型のワイヴァーンから不意打ちを受け、愛馬ロードキルは致死毒におかされた。ワイヴァーンはボウガンで頭を撃ち抜かれ、猛毒の血を流して死んだが、その毒は強く、返り血を浴びたウィルヘルムですらも酷い熱に襲われたほどだ。

 ワイヴァーンの尾の針で毒液を体内に注ぎ込まれたロードキルの運命は、あえて説明するまでもあるまい。ロードキルは岩場に倒れ、痙攣しながら、苦しげに息をしていた。空には黒雲がわだかまり、雷が鳴っていた。助かる見込みは無かった。

「あばよ、ロードキル。強欲な暗黒の神々にも、デザート・グールの信徒にも見つかるな。お前の魂は、奴らの骨の腕より早く、ヴァルハラに昇れ」

 ウィルヘルムは優しく語りかけながらロードキルを撫で、その目を閉じてやった。そして縞瑪瑙の装飾が施されたナイフを抜き、それを素早く閃かせた。

 愛馬を毒の苦しみから一瞬で解放するため。そしてロードキルの肉で飢えをしのぐために。ウィルヘルムの涙を押し流すように、雷と豪雨がなお激しさを増してゆく中、彼はナイフを振るって愛馬の死体を解体していった。

 ……だが、何かがおかしかった。

 全てが滞りなく終わった時、ウィルヘルムは異変に気付いた。本来ならば、このサイズの馬を殺せば生肉が最低でも3個、腸と臓物が1個、さらにレザーの素材となるラフハイドが2個は手に入るはずだった。運が良ければ、魔女どもがウィッチクラフトの材料に使う見事な頭骨も1個、レアドロップするはずだった(それはかなりの金額が期待でき、新たな馬と馬具一式を買うのに十分なほどだ)。

 だがロードキルの死体からドロップしたのは、「イグゼシオ」と刻印された奇妙なコイン1枚だけであった。しかもロードキルの亡骸と血の跡は、次第に色を失って真っ黒に変わり、バチバチと雷撃を放ちながら消えてしまったのだ。まるで天上の神々が、お前はこの世界に存在してはならぬとでも言っているかのように。

「……どうなっちまったんだ」



日本産まったりMMORPG「ロード・オブ・イグゼシオ」の世界へ、ようこそ、ウィルヘルム!

PvP当然の苛酷な米国産ハードコアMMORPGから、謎めいた磁気嵐の力によって、メチャクチャ平和な「ロード・オブ・イグゼシオ」の世界へと飛ばされてしまったNPCのウィルヘルム! そこで彼を出迎えるのは、マリカと名乗るウサギ耳の案内役NPCだった! 果たしてウィルヘルムは、元の世界に帰ることができるのか!?


この続きは物理書籍本編で! 「ウィルヘルム」だけでなく、各収録作品には漫画家の久正人さんによる美麗な扉絵イラストレーションが付属し、ヴィヴィッドなイマジネーションを掻き立てます(さらに一部の収録作には挿絵も付属、豪華!)。ブラッドレー・ボンド編纂の日本テーマ・アンロソジー小説「ハーン:ザ・ラストハンター」は、2016年10月26日発売!


AMAZONでの予約が始まりました!

https://www.amazon.co.jp/dp/4480832106/

筑摩書房さんから表紙の色校が届きました。黄色が特色?を使っているらしく、めちゃくちゃ発色が綺麗でエネルギッシュです。ぜひ店頭などで現物を見てみてください。今回も「持っててなんか楽しくなる物理書籍」をテーマにして、凝ったデザインにしていただきました。デザインはナルティスさんです。

折り込み部分もフルに使っています。めくると、ハーンの愛馬シャドウウイングの頭が! ワオ! かわいらしい! 本体のほうはパルプ感のあるクリーム色の紙で、「ニンジャスレイヤー」シリーズよりも薄めで密度のある重い紙質になる予定です。

背表紙側から見ると、こんな感じ。ニンジャスレイヤーの分厚さに慣れていると、書店で探す時に戸惑うかもしれませんが、メチャクチャ黄色いのですぐわかると思います。中身は、高濃度のパルプ小説や解説がギッシリと詰まっております。


発売関連イベントなど

おそらく人類史上初の試みとなると思われる、書籍まるまる一冊の「物理書籍同時読書メント」を数回にわけて開催予定です。物理書籍を買って、Twitter実況に参加しよう! 詳細については、またnoteやTwitterの @dhtls 上で!

また2016年10月末に、イラストレーションを担当してくださった久正人さんをゲストにお迎えしての「ダイハードテイルズ・レディオ」も生配信予定。作品の内容やイラスト一枚一枚についていろいろと貴重コメンタリーされることが予想されるので、予約して備えよう!

https://www.amazon.co.jp/dp/4480832106/

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

🍣🍣🍣キャバァーン!
10
「ニンジャスレイヤー」などを連載するオンライン・パルプノベルマガジンです。