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S3第5話【ドリームキャッチャー・ディジタル・リコン】#6

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 背後の岩壁がスライドし、カラテビーバーが手招きした。粉塵の中でニンジャスレイヤーは頷き、バック転で隠しトンネルに入り込むと、カラテビーバーは再び、奥ゆかしく岩フスマを閉じた。……まずは第1シーケンス完了。しかし……。「ウォワー」カラテビーバーが急かす。ニンジャスレイヤーは後を追い闇を進む。

 曲がりくねった谷の内部に、こうした隠し通路が複数築かれているのだった。もともとある守りはカムフラージュだけではないのだ。闇の中を走りながら、ニンジャスレイヤーは毒の雨に倒れた者らに思いを馳せた。彼らは崖上であったが、その絶命は感じ取った。あれは必要な犠牲ではなかった……!

「ウォーワンワワ」カラテビーバーが飛び跳ねた。この者たちにどの程度自我があるのか、はっきりしない。ドリームキャッチャーはLAN通信を控えている。これだけテツバが近くに展開していれば、あの獣のデータ通信量は容易に探知され、この前哨戦が無駄になる。

 トンネルはやがて行き止まりに到達し、カラテビーバーはそちらの岩フスマをどけた。ニンジャスレイヤーは再び空の下に出た。これだけ距離を取れば十分だ。ニューロンを研ぎ澄ます。(応答しろ、タキ=サン)『おう。バッチリだ』無感情なタキのIRC音声が返った。一通りの文句は既に聞き流した後だ。

(テツバと一戦交えたぞ。分断は成功)彼は交戦した三人を報告した。(サブジュゲイター=サンはどうだ)『チッ、確認中だ。オイ、ガキ野郎! 現場の報告をキリキリ上げろ。オレは年齢は酌量しねえぞ』『アニキ! このハッカーは本当にテンサイ級なの?』タキのアカウントにザックがぶらさがっている。

 現場オペレーションはタキが集約し、迅速に処理して、各ユニットに橋渡しする。ザックはどうしても協力したいと譲らず、比較的安全なポイントでオペレーションの手伝いをする運びとなった。タキは当初、ヨロシサンのオフィスにバックアップさせろと主張したが、CEOもナインも難色を示した。

 そもそも表向きはCEOは遭難しておらず、緊急業務によるスケジュール調整を行っただけだ。エマージェントな通信をヨロシサンのヘッドオフィスと頻繁に繰り返せば、それだけ他社やゴシップ記者の傍受の危険も高まってしまう。タスクフォースの召喚通信ひとつ行うのも賭けだったのだ。

 タキが「CEOが何故かネザーキョウに居る事実」を知ったのと同時に、彼はヨロシサン株券の形で口止め料を素早く支払われていた。ばらせばこの報酬は電子ゴミ同然になるし、CEOが死んでも電子ゴミだ。ゆえに今回、タキの姿勢はいつにもまして前のめりだった。『交戦を開始しました』ナインの通信だ!

『了解。いいか、社長は絶対に無茶すんなよ。ニンジャだかなんだか知らねえが、何の自慢にもならねェんだからな。何かあったらオレが困るんだ!』『Wi-Fiルーターにメガデモの送信を行ってください』『今送ったぜ!』大容量データ送受信が発生! タイトルは「ギャラクシー胎内マントラ美男子」!

「ギャラクシー胎内マントラ美男子」は凄まじい量の紫煙パーティクルと銀河星雲の運行をリアルタイム演算しつつ、さらに美男子が胎内をイメージした枯山水でゆっくりと舞踊を踊るという代物で、内容に特に意味はないが、タキが所持するメガデモの中でもっとも巨大なデータ量を持つ。

 これらが今、渓谷のWi-Fiルータ装置をめがけて並列送信されたのであった。背負式の高性能Wi-Fiルータ装置は、当初ニンジャスレイヤーが使用して破壊されたものを除いて6基。どれもリコナーが大切にメンテナンスしてきた電子レリックだ。これらの通信にテツバの探知機は必ず反応する!

『ネザーキョウのテツバ、全部で5人。他にはいないよ』ザックは渓谷に散ったリコナーが上げてきた断片的なスコープ監視情報を総合し、報告した。『……だとよ。オレは6つのWi-Fiのうち3−4個をテキトーに選んでデータを送信だ』『適切に!』ナインが釘を刺す。『尖兵を別個に誘導し、分断するのが目的です』

『わかってんだよ。生意気だぞ、サラリマン』タキがぼやいた。『クソッ、オレはテンサイだが、軍事UNIXみたいな働きをはっきり言って求められてやがる』タキはタイピングに集中した。『CEO野郎! テメエで作戦作っといて、しくじったら承知しねえからな……今や、お前だけの株券じゃねえんだ』

「私は51%を取得しています」サブジュゲイターは答え、背負っていたWi-Fi受信機を洞窟内に下ろすと、携帯UNIXをつないで、メガデモ受信を開始した。彼はこめかみに指を当て、集中した。ニンジャソウルの蠢きを知覚しようと試みたのだ。

 CEOとなる以前、彼は旧ヨロシサン製薬で始末屋じみた役目を負わされ、社内の汚れ仕事に手を染めてきたニンジャであった。彼はヨロシサンのバイオ生命体を遠隔探知し、さらにはニューロンに干渉して、洗脳・操作・精神破壊を行う。自重するほどの力だが、残念ながらネザーキョウでは無用の長物だ。

 タイクーンはカナダの生態系を歪め、カラテビーストはバイオアニマルを敵視し、率先して襲い掛かったので、この10年でほぼバイオアニマルは北米カナダにおいて駆逐状態であった。しかしながら、それでもニューロン感応の能力は多少なりとも応用が可能なのだ。「……ひとつ。……ふたつ」近い。

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