【ザ・リデンプション】 後編
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アイアンシャークの刺客を率いていたのは、キトーという丈高い男だった。ボルサリーノを被った頭はスキンヘッドで、眼窩は落ちくぼみ、小さな瞳は血に飢えてギラギラと輝き、活力に満ちていた。
いつもキトーは、コンクリートを泳ぐ鮫のような貪欲さでカブキチョを巡回し、すぐに獲物を見つけ出す……そのような独特の嗅覚があった。お気に入りの合成トロ粉末を黒い革手袋の上にZ字に散らし、右、左の鼻腔で順に吸うと、天性の嗅覚とひらめきは何倍にもなった。
今回もそうだ。キトーは防犯カメラの映像からヤマヒロに狙いを定めると、セント・ニチレンズ・ストリートの公衆電話前で彼を発見した。
ヤマヒロは通話中だった。接続を維持するために、小銭が必要だった。だからヤマヒロの右手は、スラックスのポケットの中にあった。彼は懐のチャカから手を離していた。キトーはそこを狙った。
ヤマヒロが気づいた時には、もう手遅れだった。黒いコートを着た三人のヤクザが、彼のところに迫ってきていた。アドレナリンが湧き出し、全てがスローモーションに見えた。黒い銃口が、三つ。
『今すぐにネオ・カブキチョへ向かえ……全てが手遅れになる前に……』落ちる受話器から漏れるヤクザ天狗の声が、頭の中に響いた。『ピンク色の光が……お前を……導く……』
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