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S4第7話【テンペスト・オブ・メイヘム】分割版 #8

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「ンンンン……」アヴァリスは天に向かって両手をひろげ、目を閉じ、瞼越しにも届くキンカク・テンプルの輝きを味わっていた。マルノウチ・スゴイタカイビル屋上。地衣類や羊歯じみた奇怪な植物で覆われた摩天楼は実際、彼の玉座にふさわしくもある。

 当初そこを覆っていた植物の天蓋は彼がマガタマを受け入れたその瞬間に内より引き裂かれ、破裂したプラネタリウム廃墟じみて残骸を留めるのみ。そして屋上四方に鎮座するシャチホコ・ガーゴイルのひとつに、ティアマトはたおやかに腰を下ろし、長いキセルで煙を吸っていた。

「おや……」彼女は風になびく己が黒髪を御した。「たのしい眺めが損なわれたの」市街に視線を巡らせる彼女は、空中数カ所に浮かぶ赤黒のアブストラクト・オリガミを認め、オリガミが纏う神秘的なウキヨエの色彩を認めた。それらは相互に重なり合い、さらには最大の幻影がジグラットを彩っていた。

 市街にはいまだ、異様な力の流出を思わせるジグザグの光の柱が爪を立てている。そして螺旋状に連なる人々はキンカク・テンプルをめがけ、いまだ宙に留まっている。だがその光景はもはやゆっくりと巻き戻され、修復されつつあるのだった。「面白かったのか?」やがてアヴァリスが目を開いた。

「それはもう」ティアマトは答えた。「モータルは我が目を楽しませる。たとえばセトのピラミッド。無益な建造物に費やされた奴隷の命を思うと、胸が熱くなる。そなたの行いも楽しきもの。キンカクに吸い寄せられ、しかし受け入れられず、拒絶され、滅びてゆく小さな命の連なり」「くだらないな。ただの余波だろう」

 アヴァリスは闇色の目を細め、再び空を見上げる。黄金立方体にいま、ブロックノイズじみたチラつきが垣間見えた。彼は直感的にジグラットの方向を見やった。「あのジグラットのウキヨエが影響を与えているか?」「さてな。何であれ、セトはあのようなノイズは看過せぬ」ティアマトは呟いた。

「好きにするんだな。ニンジャ」アヴァリスはじきにウキヨエへの興味を失った。緑の力に脈打つ黒い衣を翻した。衣の表面には山羊めいた命の残滓が沸騰し、滅び、生まれ続けている。「俺がキンカクを喰らい尽くす過程で、小さい連中の住処は吹き飛んでしまう。それを小さい連中が必死で留める。アワレだが、意味はない」

「そのアワレは、おもむきじゃ」「好きにするんだな」アヴァリスは肩に生えたクロヤギを撫でるように触れた。クロヤギは再び塵と化し、繊維に巻き込まれた。黒衣はその様相を変え続ける。混沌の海だ。「……だが」アヴァリスはティアマトを見た。

「セトが看過しないと言ったな? 何故だ? ヤツの儀式への拘りの源に、俺は興味がある。権謀術数を重ねた果てに所詮、俺の使い走りに収まったのでは、ヤツも不本意な事だろう。狙いは何だ?」「さて。我はセトではないゆえ」「奴がヌンジャの上前を本気で撥ねるつもりならば、少し遊んでやる事になるぞ」「御身の気の向くままに。留め立てはせぬ」

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