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【ザ・ビースト・オブ・ユートピア】#8

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 そのとき、モニタ内、大地を割って黒い蛇が飛び出した。ひとつではない。幾筋も。幾筋も。まるで黒いヒュドラだった。蛇ではない。うねりながら噴き出す奔流だ。それが次々に落下するハイランド居住区に食らいつき、受け止め、下から支えていった。

 改心区は、そしてパージされた居住区の市民は助かった。反射的にタリヤは安堵した。超自然的な何かが、巨大な被害を防いだのだと。

 だが、違った。不明瞭な映像でも、それがわかった。次の瞬間、黒い奔流は居住区の内部に貫通した。大質量が内側から破裂し、瓦礫と死が黒い飛沫とともに改心区へ撒き散らされていった。黒い飛沫はマグマめいて地上へ降り注ぎ、同時に……火山の爆発めいて、さらに上へと、吐き出されていった。


◆◆◆


「イヤーッ!」

 坑道から地上へ走り出たヘクサーは一瞬たりとも走る速度を弱めず、雪の中を駆け、そして跳んだ。彼の背後、黒い液体がドッと溢れ出た。それは全てを覆い、取り込み、喰らう質量であって、坑道入口周辺で作業していた者たちを飲み込み、引き裂いた。人々は悲鳴を上げてボタ山の高台へ這い上がったが、黒い液体は生命に対する明確な害意を有しており、彼らの足へ、身体へ、黒い液体から別れた触手が絡みついて、引きずり込んだ。

「イヤーッ!」

 ヘクサーは前方のトラックへ、作業員の寮へ、金網へ飛び移り、後ろの黒い質量から少しでも遠ざかろうとした。彼の手に掴まれたモーターオトモがUNIX光を明滅させた。

『旦那、事象が完全にあっしの分析範囲を超えちまってやす。旦那、あの鉱山の底で、何をやらかしちまったンですか?』

「どの情報をどう並べれば、原因を俺に帰する結論に至るのかがわからんな」

『可能性の話でさ! じゃあ、これは……つまり……これが "大きい老人" の正体という事なんでしょうかねェ? このバケモノじみた物質……つまり、上で遭遇したデスドレインの……』

「サンクタム。つなげ」

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