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S4第4話【ヴェルヴェット・ソニック】#1

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 ゴーン。ゴーン。ゴーン。ゴーン。朝の鐘の音がネオサイタマじゅうのテンプルで一斉に打ち鳴らされるなか、マルノウチ・スゴイタカイビル、東西南北のシャチホコ・ガーゴイルに囲まれた屋上では、油断ならぬニンジャの狩人達が、いまだ互いに睨み合っていた。

 狩人マークスリーの狩りは失敗に終わった。

「コンヴァージ=サン、ベルゼブブ=サン、そしてマークスリー=サン。フフ」サロウは指折り数え、弱々しく笑った。「もう三人やられちゃったんだ。パーティープレイでニンジャスレイヤーを共に制圧したメイト達だったのに。……ああ、でも一人増えたか」

 サロウは見た。ウーガダルはフードを目深に被ったまま、手首の数珠をジャッジャッと鳴らしていた。メイヘムは腕組み姿勢で風を受け、ネオサイタマの街を見下ろしている。「覚悟のない雑魚から消えていく。順当にな」彼女は呟いた。「前座が終われば真のイクサだ」「フン」アヴァリスが鼻を鳴らす。

「そこから何が見えるんだい」サロウはメイヘムの横に立ち、吹き上がる風に怯んだ。メイヘムは冷たくサロウを睨んだ。サロウは苦笑いし、中央でアグラする狩人を振り返る。「ねえ、ブラックティアーズ=サン、次は誰かな? 開始はいつから? 気が早いか」「星辰が全てを決める」ブラックティアーズの肩の上の水晶球が光る。

「その星辰とやらが胡散臭いものだ」アヴァリスは言った。「お前のセトが、この儀式を利用して何をやろうとしているか。空の玉座の摂政? 笑わせる。なにか、あるのだろう?」「儀式を愚弄してはならぬ、アヴァリス=サン」ブラックティアーズが静かに威圧した。アヴァリスは空を示す。「あれは何だ」

「俺も気になってたんだ」サロウが同意し、手を庇にして、アヴァリスの示す方角を見た。そこはニンジャスレイヤーとマークスリーの決着の場所である。ここからでもはっきりと視認できる奇妙な赤黒のアブストラクト・オリガミが、痕跡じみて静止している。「望遠でカメラ撮影してる奴らもいるよ」

「粛々と儀式を進行するのみ」ブラックティアーズは目を閉じた。「我らの主を試してはならぬ」「主、か」アヴァリスは目を細めた。「首輪のついたお前らのありさまは滑稽だ。目隠しをされたままついて行くばかりよ」「……」アヴァリスに狩人達の視線が集まった。アヴァリスは挑戦的に見渡した。

 その時、頭上の空がささくれた。狩人たちの視界にはオヒガンの片鱗が重なり、黄金の立方体が垣間見えた。「来たァ! クジ引きだ」サロウは鼻血を流しながら喝采した。ブラックティアーズの水晶球がホログラフィじみて、神秘のオミクジ・ボックスを虚空に投射した。

 オミクジ・ボックスは冷たく回転する。底部のスリットから、陶片が滑り落ちてくる。陶片に刻まれし名は、メイ0100101001刻まれし名は、サロウであった。「……え? 俺か?」半笑いでサロウが唖然とした。メイヘムとアヴァリスがサロウに向き直った。彼らの背にカラテが膨れ上がる。

 ウーガダルは注意深く狩人達のさまを観察しつつ無言。ブラックティアーズは眉間にしわ寄せ、こめかみに指をあてた。水晶球が光を強め、グルグルと回転した。「……オミクジの結果は神聖不可侵」彼はサロウを指差す。「次の狩人は貴殿だ。サロウ=サン」「俺……俺かよ」サロウは耳たぶに触れた。

「オミクジが妙な挙動をしたようだぞ」メイヘムが言った。アヴァリスは顎を擦った。「……どちらにせよ……」彼らはサロウに向かって一歩間合いを詰めた。サロウは後ずさった。メイヘムは拳を鳴らした。「いかなる不正が行われたかは知らんが、どのみち貴様では力不足。挑戦権を奪うまでの話だ」

「構わんのか?」アヴァリスはブラックティアーズを見た。ブラックティアーズは「推奨しない」とだけ答えた。アヴァリスは笑った。「審議中というやつか。面白い。ならば退屈な答えが返ってくるまでに遊びを終えるとするか。俺も乗るぞ、メイヘム=サン。挑戦権は俺がいただく」

「よかろう」と、メイヘム。「ま、待ちなッて!」サロウが引きつった笑顔で下がった。アヴァリスはウーガダルを見た。「貴様はどうだ」「……」ウーガダルは首を振った。「主は横紙破りを命じておらぬ」「そうだよ、やめよう」サロウがさらに後ずさる。だがメイヘムとアヴァリスは突き進んだ。

「待ってくれ! 待って!」シャチホコを背に、サロウは逃げ場がない。「ブラックティアーズ=サン! 俺を助けてくれよ!」ブラックティアーズは首を振った。「不正の容疑を勘案すれば、助けるわけにもゆかぬな」「だ、そうだ」メイヘムが踏み込む!「やめなよ! ヤバいって」サロウが反射的に手を翳す。

「イヤーッ!」メイヘムの拳が風を切った。拳はサロウの鼻先0.1インチで静止した。腕が伸び切り、顔面に届いていない。サロウは笑顔を震わせた。「やめよう。俺はノー・カラテのニボシだ」メイヘムの目が血走った。サロウは彼女の背後に立ち、肩を叩いた。「こんなカラテを食らったら、俺は死ぬ」

「イヤーッ!」アヴァリスは人差し指と中指を揃えて立て、眉間に添えた。白いネオンの虎が虚空より飛び出し、サロウに襲いかかった。「GROWL!」「やめな」サロウはこめかみに指を当て、アヴァリスを指差す。アヴァリスがよろめいた。ネオン虎はサロウに食らいつく寸前に霞んで消えた。「アブナイ」

「ほう!」アヴァリスは首を振ってサロウのなにかの影響を振り払った。「もっとやってみろ、そのジツを!」「嫌だよ。俺は平和主義者だ。あンたとも友達になれるって信じてる。ユウジョウの力は素晴らしい」「イヤーッ!」メイヘムがコブラカラテで襲いかかる! サロウは後ろに倒れ込み……落下した。

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