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【2016アーカイブ】 「押すな引け」の極意は、古事記にもあった! ハマっている作品を勧めすぎて逃げられる貴方へのクチコミ処方箋

この記事は2016年2月に発表された「ネオサイタマ電脳IRC空間」のブログ記事をアーカイブ再録したものです。


身の回りのエンターテインメント・コンテンツ、楽しんでますか? 貴方が今ハマっている漫画アニメ映画ゲーム小説等のコンテンツを、一人で楽しむだけでなく、できるなら周囲の人を巻き込みたい……自分以外の人にも楽しんでもらいたい……コミュニケーションしたい……そのような欲求は自然なことです。人間は社会的な存在だからです。

而して、2016年は無限コンテンツ時代真っ只中。近代史の伸長に伴って、過去のコンテンツも含めると、もはや地球人類の総人口よりもコンテンツの総数が多いかも!? TVなどでガンガン宣伝が流れてくるブロックバスターなコンテンツならともかく、発展途上のコンテンツが知名度を獲得する為には、クチコミが非常に重要となってきます。そういった状況下にあっては、黙っていては埋もれてしまい、自分以外の人間がスルーしてしまう……いてもたってもいられない……しばしばそういった危機感に人々が駆られてしまう事もあるでしょう。


友達にどうやって自分のハマっている作品を勧めればいいのか。それは現代社会を生きるにあたって常に付いて回る真剣なテーマかもしれません。今回は、人類の普遍的な課題であるこの問題を、ケーススタディで学習していきたいと思います。




ネズミ君のケース


うっわあー!「最大ミュータント戦士タケシ」はメチャクチャ面白いよ! 全128巻読破したぞ! どうして今までこんなマスターピースの存在を知らずに生きてきてしまったんだろう。とにかく面白く最高だから、友達に勧めなくちゃ。これが僕の使命だったんだな……何しろ作品が面白いんだし、激しく強い熱意をもって勧めるんだから、絶対読んでもらえると思う。ガンッガン布教してまわるぞ!


そ、そうね、ちょっと心配なテンションだけど……。


みんな!「最大ミュータント戦士タケシ」っていう凄い面白い作品があるんだ! でも、まだまだマイナーコンテンツに甘んじているのが残念なんだ。君たちも知らないよね? 大丈夫。ぼくが今から手取り足取り全部教えるから。とにかく今すぐ読んで欲しいんだ。


「エッ! ちょっと待って、今ぼくは仕事が忙しくて……」「わたしは今『マイケル騎士モーガン』を読んでいる途中だから、時間が取れないわ」


仕事が忙しい? ナンセンスだよそんなの! 何のために生きているんだ。人生の意味……人は何故生きる! それはエンターテインメントを摂取するため、文化のためだろう! ……そして、なに? 君は、「マイケル騎士モーガン」? なるほどそうか。それなら「最大ミュータント戦士タケシ」も絶対楽しめるよ! あれを読んでこれを読まないなんてアンフェアさ。ていうか、こんなに僕が勧めるのになんで読んでくれないの? 読んでよ!

 

ここに置いとくからね! 
絶対読んでよね!


「わ、わかったわ」「う……うん、こんど時間を見つけて読んでおくね」(うわ……なんか恐……尋常じゃなかったな……)

熱意が伝わった。どんどんいこう。面白いんだから、皆知るべき! 1000万部売れるべきだ! そうじゃない現状はおかしい! 努力しないといけない!

ま、待ってネズミ君!


どう?「最大ミュータント戦士タケシ」読んでくれた? 君は? エッ第一巻を途中まで読んだ? それはいい! ホラホラどんどん読んで! 今日中に全部読んで! 128巻全部読んだら、そうしたら次はこの外伝も! アニメは見た? この前の深夜の実写ドラマは見たかな? 大丈夫、さっき君のためにレンタルしてきたから!  これ、渡しとくから来週までに観といてね! だって面白いからおすすめしたいにきまってるじゃない! これは君にとってもいいことだよ!


状況のエスカレーション


 

ムムッ! あれは! 


「『最大ミュータント戦士タケシ』って、このまえ名前見た~」「カワイイかも~」「ちょっと気になるかも~」



やあみなさん! フォローフォロワー外から失礼します。関連ワードで一時間に15回のリアルタイム検索をしている無害で善良なファン、ネズミといいます。はじめまして! 今、最大ミュータント戦士タケシの話題を出されましたよね? それは素晴らしい! 何しろ「最タケ」は最高のコンテンツですからね。全128巻あって、アニメや深夜ドラマにもなりました! 外伝もあるんですよ! 僕は思うんですが、最大ミュータント戦士タケシっていうのは死にゆく古典的な浪漫主義エンターテインメント精神を21世紀のいま継承する真のテン年代叙事詩だと思うんですよ。その点どう思われます? ご意見をお聞かせ願えると……いやあ、自分でもちょっと深読みのし過ぎとは思うんですが、やっぱりそれだけの価値がありますから。で、どうですか? 推しキャラできました? まだ? それはいけないな~。今どれくらい読んだんですか? エッ読んでない? マジで? アー……それはなー……アー、いや、そ、それは良かった! むしろ今からまっさらな状態で体験できるんですから! ほら、じゃあ今から一緒に読んでいきましょうよ! 僕が正しい読み方をレクチャーしますから! すごい簡単ですよ! 大丈夫です!



「あ……ありがとうございます~……」「親切にありがとうございます~……」「今度よろしくおねがいしま~す……」(怖……「最大ミュータント戦士タケシ」は会話の中で今後禁句にしないとね……)(ワタシもう泣きそう……)


「親切だ」って褒めてもらえた! やはり僕の行動は間違っていない! どんどん行こう。それにしても、こんなに僕が頑張っているのに一向に「最タケ」が1000万部売れる気配が無いなあ。なんか世の中おかしくない? 考えれば考えるほど、「最タケ」に対して冷たい態度を取る蒙昧な現代社会人に対する怒りが無限大だぜ。誰かれ構わず殴って回りたい気分だ! ていうか、出版社とか作者とかも努力足りなくない? 僕一人がこんなに身を粉にして働き頑張っているのに、絶対おか




失敗から学ぶ

ネズミ君のヒートアップは、最終的に人を遠ざける結果に繋がってしまいました。

さて、こういった光景は決して特殊な状況ではなく、今この時も地球上でリアルタイムに次々に起こっている出来事です。貴方も、なんとなく気になっていた物事に関してこのような熱烈な勧め方をされて億劫になってしまったり、勉強しようとちょうど思っていたら「勉強しなさい」とママに怒られて全てのヤル気をなくした事があると思います。

ネズミ君は何が間違っていたのでしょうか? どういう点に気をつけるべきだったのでしょうか。



人間の興味の幅、量、方向性は、人によってみんな違う

貴方の好きなもの、嫌いなものを、頭のなかでまとめてみましょう。今現在、あなたが好きで、追いかけているコンテンツは何でしょう。思い浮かべてみましょう。

……何らかの作品が浮かんだと思います! 他の人も、そういった作品を心の中に持っています。それを、その人なりのペースで、楽しみながら追いかけている最中です。そこへ新たなコンテンツを更に追加で入れていくのは、なかなか気合いが必要な、コストのかかる行動です。


日常を頑張って生きている最中に、誰かに「今から君の脳のリソースを、私が紹介するこの作品に使ってくれたまえ!」と急に言われるのは、家庭を持って暮らしている人間が突然転勤を命じられるのに等しいストレスであるという研究結果が出ていても決しておかしくないのではないかと思います。新たなコンテンツの摂取を開始するというのは、やはりそれだけ大きな変化を自らの内に呼び込む行為なのですね。

そう考えると、仮に、勧めた映画などを「わあ!面白そうだね!時間があったら観てみるよ!」とリップサービスでかわされたからといって、怒ってはいけないという事がわかります。

では……やはり他者への布教とコミュニケーションを諦め、孤独に生きていくしかないのでしょうか? 人は孤独を運命づけられてしまっているのでしょうか……?




ヒントは、古事記にありました

古事記には「岩戸隠れ」の伝説があります。

建速須佐之男命にひどい事をされた天照大神が天岩戸に隠れて出てこなくなってしまったせいで、地上に災いが溢れました。天照大神を外に出すために、八百万の神々はどうしたでしょう? 岩戸に発破をかけた? 懇願した? 違います。彼らは、天岩戸の前で楽しく踊り騒ぎ、様々な催し物をして笑い合っていたのです。そうやって、天照大神がおのずと興味をもつまで、自分たちで楽しんだのです。


まず自分で楽しむことが肝要

この神話には、現代社会においてもなお有効な人の心の動きが描かれていると思われます。古事記だけではありません。北風と太陽の寓話も、似た部分があります。つまり、グイグイと押すのではなく、はやる気持ちを抑え、相手の選択権と自由な精神を尊重する、ということです。この匙加減に、なんらかの真実が隠されている気がします。結局のところ、そうしてあるがまま楽しんでいる姿が、一番はっきりと「そのコンテンツを摂取するとどんなメリットが待っているのか」の雄弁なクチコミ・プロモーションになっていることが多いのです。


市民A:「最大ミュータント戦士タケシ、くっそ面白いよな~! 今週も震えたぜ!」

市民B:「やっぱさ~、タケシの成長が超アツいよ!」

市民A:「新ミュータントのデザイン超ヤバイよな! シビレるぜ!」

市民B:「だな! 思わずブログエントリで紹介しちまったぜ!」

潜在的な人:(最大ミュータント戦士タケシ……? 確かに最近よくその単語を見かけるんだよな~。なんだか気になってきたぞ。ちょっと検索してみよう) →AWESOME!




エピローグ


反省し、学びを得たネズミ君は、力強く明日に向かって走っていきます! 


よおーし! 一時間に15回「最タケ」で検索する事に使っていたパワーリソースを、まずは自分が作品を楽しむ時間に費やすことにしようッと!


相手に強制せず、ありのままの楽しみを素直にオープンに見せていく……それが遠回りのようで近道ね!


つまり、これが古事記にもあるクチコミの極意だ

・相手の精神的なパーソナルスペースを尊重する
・追い詰めたり迫ったりしない
・そのとき興味を示されなくても目くじらを立てない
・とにかく自分が楽しむ姿、まずは背中で語ろう

AWESOME!

AWESOME!


(Tantou)


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