
【サイレント・ナイト・プロトコル】#7
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「あ? ウチのヘリ墜ちてンじゃん?」アダナス社員イータは顔を歪め、髪を掻いた。彼は戦場にほど近い某所のUNIXコクピットに居り、戦場上空のドローンカメラの映像を受信する全周囲モニターに囲まれているのだった。「聞いてないッて。どうしてアルカナムのボンクラが入ってくるんだよ」
彼が見守るなか、ザルニーツァは言葉通りニンジャスレイヤーと共闘の構えを見せ、並び立った。「ウチとやり合いたいッてのか?」イータは唇を舐めた。「いや、独断がどうとか言ってたな。周辺に、コイツ以外の……」素早くタイピング。メガコーポ勢力の反応は現状なし。「……マジで単体か」
高速タイピングを継続しながら、イータのニューロンは加速する。アダナスにとって、ペンドゥラムのSOCは本来、月の石と機密データを回収する為の駒に過ぎない。ニンジャスレイヤーを暗殺するという無駄なオプションに乗ったせいで、事態が妙な方向に走りかけている。「過冬のニンジャが、なんでアルカナムにさあ……」
奇妙なめぐり合わせを感じる。そこでイータはやや違和感を覚える。めぐり合わせ。アルカナムが元ヤクザのニンジャをエージェントに……?「ううむ」だが、彼らに対峙するアンタゴニスの姿の上にマーカーが重なると、イータはそちらに注意を向けた。「仇」「DUALソウル機構」「注意が必要」……沸騰する体表。
『アダナス=サン』付近のビル屋上に着地したペンドゥラムが通信をよこした。『あの者の情報を』「アルカナムのエージェントです。昔はシトカの過冬にいました。プラズマクナイを使う、まあ、そこそこやるニンジャです。とりあえず殺しちゃいましょうか。面倒なんで」『作戦に変更無しだな』「ハイ」
殺す事を指示しながら、イータは依然、引っかかりを覚えていた。本能的な違和感である。だが、彼は拘らなかった。殺せばシンプルだし、標的が死ななければ、その時あらためて面倒を増やせば良い。アンタゴニスの状態が滝めいたテキストで流れ込む。素体に損傷が生じ、ソウルがバランスを崩している。
「今回限りかな、アイツ。ダメだろうな。まあストレス・テストって事で。データしっかり取るんで、大丈夫ッスよね、スドク=サン」上司に語りかけるが、通話はオフラインだ。アンタゴニスは瞬間的にカラテを高め、沸騰する肉体を抑え込むと、ニンジャスレイヤーに襲いかかった!
◆◆◆
「イヤーッ!」一瞬後、ニンジャスレイヤーの眼前にアンタゴニスが迫った。ニンジャスレイヤーはこの者を仕留めたと考えていた。それだけの手応えがあった。少なくとも、瀕死の筈。だが今、この相手の動きは……「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは打ち返した。アンタゴニスがやや速い!
腕を弾かれ、体軸を崩したニンジャスレイヤーに、アンタゴニスの断頭チョップが襲いかかる。死線! しかしザルニーツァが斜め後方からの攻撃を仕掛ける!「イヤーッ!」DOOOM! 一瞬早くアンタゴニスの足元が黒く爆発し、有刺鉄線じみた生成物を乱れ飛ばしながら、肉体を上へ跳ね上げて回避した!
跳躍の痕跡の有刺鉄線の群れはザルニーツァめがけ暴れ狂い、彼女はプラズマクナイを振り回して身を守らねばならなかった。アンタゴニスは空中で身体をグッと縮めた。力の緊張。ニンジャスレイヤーはビル廃墟を駆け上がり、攻撃を掛けにゆく!「イヤーッ!」アンタゴニスは……爆発した!
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