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ザヴとイビの冒険


1

 EDM! EDM! E! D! M! の軽薄な重低音と、水色に光り輝くプール! おそらくスペインあたりを意識したと思しき黄土色の石壁には観葉ツタ植物の籠が吊るされ、花々は赤、紫、白と色鮮やかだ。

 プールのふちに腰掛けてクスクス笑うのは、ブラジリアン・ビキニのごくごく少ない布面積で重要部位をかろうじて隠した若い女たち。手段を選ばぬタイプのグラビアアイドルや読者モデル達で、このパーティーを機に大きくステップアップしようという野心にあふれていたり、よくわかっていなかったりだ。

 水色のプールの壁際が隆起し、ザブンと音を立てて水底から浮上したのは、小柄で可憐な、目つきのキツい娘だった。彼女が、イビだ。

 「ねえ、これって何のパーティー?」

 イビは近くにいた白い水着の娘の二の腕をつついた。

 「え? パーティー? 何……」

 彼女はどうやらハイになっており、まともな答えは期待できそうにない。イビはプールの中から這い出し、プールサイドを見渡した。頭がモヤモヤした。可及的速やかに成し遂げるべき目的設定があったはずなのだが……。

 「どうしました」

 黒服がにこやかに声をかけた。イビは笑顔を返した。

 「ええと、どこだっけ、ここ」

 「ん? 店の名前ですか?」

 黒服はやや怪訝そうにイビを見た。

 「ううん、場所というか……えっと、大丈夫です」

 イビは頭を下げ、出口に向かった。出口の前には別の黒服が立っていた。

 「トイレはそこを右ね」

 トイレじゃなくてアンタそこをどけ、イビはそう言おうとしたが、本能がなにかまずいと告げていた。多分断られるだろう。もっとよくない反応を引き出す可能性も否定できなかった。

 イビはおとなしく誘導に従って右に進み、トイレに入った。洗面台に立ち、鏡を覗き込んだ。カワイイ。しかし黒いホルターネックのビキニとパレオという組み合わせは、このプールの他の娘達に比較するとやや露出度が低く、浮いているように思える。イビはそこで我にかえり、首を振った。

 「違うぞ。違う。わたいはグラドルでも読モでもなくて……」

 ダーン! 音を立てて個室のドアが開き、中にいた娘がこぼれ落ちるように飛び出して、うつ伏せに倒れた。

 「ウワッ! 寝ゲロ!」

 イビは反射的に叫んで飛び下がり、トイレから走り出ると、先ほどの黒服のもとへ駆け寄った。

 「ねえ、おじさん! あのね、トイレで女の子が伸びてる! あと、寝ゲロ、死ぬかも……」

 「うッゼ」

 黒服は驚くほどに冷たく言い放ち、頭を掻いて歩き去った。イビは出口方向を見た。

 (……出るか?)

 EDM! EDM! E! D! M! がボリュームアップし、もはや爆音になった。出口からVIP達が大勢で入ってきた。イビは慌ててプールに駆け戻り、肩まで水に浸かった。

 「イェー!」「イェー!」「イェー!」

 満面の笑みを浮かべて入場してきたVIP達は強烈なハイテンションでプールに散り、蛍光色のカクテルを飲んだり、お互いに拳を合わせて挨拶などを始めた。DJはビートに乗りながら両手のピースサインを高く掲げてピョンピョン跳ねた。

 「イェー!」「イェー!」「イェー!」

 水着娘達は巨乳を揺らして喝采し、満面の笑顔で応えた。

 「もう最高ー!」「キミ、最高でしょォー? もう最高でしょォー?」

 オレンジ色のドレッドヘアと総金歯(すべて犬歯)の男がプールに降りて、イビの隣の水着娘の肩を抱き寄せ、引っ張っていった。

 「もっと最高になろっかァー?」「なるー!」

 「……ワーオ」

 イビは赤ドレッドが五人ほどの水着娘を見繕い、別室方向へ連れていくのを見た。それを拍手で出迎える男達は皆いかつく、髪を蛍光色に染め、黒いトライバルタトゥーを上半身にびっしりと余すところなく施し、総金歯(すべて犬歯)。イビは顔半分まで水に沈め、ぶくぶくと泡を出しながら見渡した。

 EDM! EDM! E! D! M! が流れる中、水着娘の腰に手を回し、ハイテンションで体を揺らしているのは、よくTVでも見る人気のコメディアンやイケメンの俳優だ。皆、ヘラヘラと緩んだ笑みを浮かべ、明らかにカタギとは思えない筋肉隆々の眉無しの男達とハイタッチをかわしたり、錠剤をやり取りしている。

 「ワーオ」

 イビはもう一度呟いた。それから、プールの隅で彼女同様に所在なさげにしている水着娘を見つけた。横にスライドしていって隣まで行き、声をかけた。

 「どうしたの」

 「え? なんでもないです」

 水着娘は急に声をかけられたことに驚き、びくりとした。イビは友好的な言葉を探した。

 「えっと、おっぱいでかいね」「え?」「なんでもない。イビって呼んで。アンタは?」「イビちゃん? ええと、わたしは美余」「美余ちゃんは他の子みたいに遊ばないの?」

 「その……ちょっとビックリして。事務所の人には、オーディションみたいなものだからって言われて来たんだけど、こういう感じだとは……」

 「そうか〜」

 イビは人の良さそうな美余の困り眉を眺めた。美余はよほど心細かったのか、イビの手を取って囁き、プールサイドのトロピカル・ドリンクを取って、イビにも手渡した。

 「イビちゃんは、どこの人?」

 「ええとね」

 イビは答えた。

 「NAMISUGIにワンルームを借りてるんだけど。ここはどこなのか……」

 「?」

 美余は首を傾げたが、踏み込んで訊いてはこなかった。彼女は言った。

 「わたし、本当はグラビアの仕事じゃないんだけど、今回はこういう切り口でって言われて。渡されたのもこんな水着だし」

 「そうか~」

 イビは頷き、言った。

 「わたい自身がどうして今ここにいるのか、あんまり覚えていないんだけど、これ、乱交パーティー的なやつじゃないかなあ。ヤバイよ」

 「ンぐッ」

 美余は咳き込んだ。

 「乱……」

 「つまり、アンタみたいに騙されたり、自分から参加したりして、悪い仕事をゲットだわさ。実話雑誌みたいなやつ!」

 「ええ……」

 美余は泣きそうな顔になった。

 「でも、事務所の人に……」

 「オーディション。ううん、確かにオーディションだわ。間違ってないっちゃないね」

 「どうしよう、イビちゃん」

 美余はイビの手を取った。

 「わたし、そんなの嫌だよ……」

 「そりゃ嫌だよね。んんん」

 イビは一生懸命に考えた。

 「出口は黒服のおっさんが固めてるし、出ようとすると止められるし」

 イビが指さすと、美余はますます泣きそうな顔になった。

 「もうダメ……」

 「でも、ほら、それもただの、わたいの推測だし、普通のパーティーかも……」

 ギュルルルルキュワキュワ! DJがスクラッチで曲を止めると、一段高いところにコーンロウの男が上がり、ダイヤをちりばめた金メッキのマイクに小指を立てて「イェー!」と叫んだ。日サロでがっつり焼いた焦げ茶の肌は当然のようにトライバルタトゥーでびっしり埋まり、両乳首に金鎖のピアスをして、それがヘソの輪っかに繋がっている。両手の指一本一本にアルファベットが掘られている。唇には棘のピアス。総金歯。顔にも蛇の鱗のタトゥー。

 「五鬱慈(ごうじ)君!」「五鬱慈くーん!」

 歓声が湧いた。

 「皆〜、マジ最高じゃねえ? 今夜もがっつりヤッちゃおうぜ!」「イェー!」

 五鬱慈がマイクを振り回すと、身長2メートル超のいかつい男達がぞろぞろと現れ、拍手を促し、「ホウ! ホウ! ホウ!」と奇声をあげた。さっき女の子たちが連れていかれた別室を見ると、明らかにファックしていた。

 「ウーン。ダメかも」

 イビは美余をすまなそうに見た。美余は更に泣きそうな顔になった。

 「でも、こうして隅っこで黙ってれば、」

 「俺いっただきィ!」

 プールサイドから男が美余の両脇に腕を差し込み、羽交い締めにしながら引きずり上げた。あまりのことに美余は完全に呆然となって、抵抗すら忘れていた。

 「ちょっ、」

 「俺こっちィ〜!」

 イビの身体も別の男に強引に引きずり上げられた。

 「ちょっ! と! ヤメロ!」

 イビがもがき、足をばたつかせると、男Bはますます喜んだ。

 「ゲット! ゲット! こいつ! アッヘヘヘ!」

 「なに? はじめて? 大丈夫大丈夫! 色々トベるし! トビたいッしょ!」

 男Aと男Bは二人を奥の部屋へ引きずっていく。EDM! EDM! E! D! M!

 「トビたいっしょ!」

 BLAM!

 「トビッ」

 イビを捕まえていた男Aがのけぞり、腕の力が失せた。イビが身をもぎ離すと、男Aはそのまま仰向けに倒れ、プールの青い水の中に転落した。男Aの頭は半分しかなかった。銃弾か何かを食らって消失したのだ。プールの青い水に赤い霧が混じってゆく。

 「ええ?」

 イビ、美余、男Bは、きょとんとしてお互いを見た。間抜けな一秒だった。

 BLAM! 男Bの頭が次に爆ぜた。男Bは美余を羽交い締めにしたまま後ずさったが、イビが美余の手を引っ張って助けた。男Bも同じプールに落下し、赤い血を水に混ぜた。

 EDM! EDM! EDM! が大音量で流れる会場で、この突然の出来事に気づいた者は無かった。イビは呆然とする美余を抱きしめ、出口方向を振り返った。先ほどイビを遮った黒服は既に死んで倒れていた。死体を踏みつけて進み出たのは、大口径のリボルバーを片手で構えた男だった。

 男は黒髪を2:8に撫でつけ、めちゃくちゃ高級そうな黒いスーツを着ていた。銃を持たないほうの手でネクタイを直しながら、男は歩を進めた。一番特筆すべき特徴を挙げるのを忘れていた。その男の肌はピンク色なのだ。

 「アンタ……」

 イビはそいつに覚えがあった。思い出そうとした。BLAM! 近くの男の胸が爆ぜ、吹っ飛んで死んだ。ピンクの男はイビのもとまで歩いてきて、頷いた。

 「居た、居た。まったくお前、俺がいなきゃ大変だったぞ。こんなところで」

 「アンタ誰だっけ」

 イビは呻いた。男は答えた。

 「誰って、なんだそりゃ。俺はザ・ヴ……」

 「ザヴ?」

 彼はこめかみを指で押さえた。

 「俺、誰だっけ」

 ザヴは呟き、イビを指差し、思い出そうとして、諦めた。

 「ダメだ。忘れちまった。参った」

 そこに黒服三人が襲いかかった。さすがに今の銃撃で彼の狼藉は誰の目にも明らかになった。水着娘は悲鳴を上げたり座り込んだりし、芸能人は呆気にとられ、DJはEDM! EDM! EDM! を流しっぱなしにしてブースを放棄した。

 BLAM! BLAM! BLAM! ザヴは素早く銃で三度撃ち、三人の黒服を連続ヘッドショットで殺した。カチカチ。

 「弾切れか」

 彼は銃を付近のプールに放り捨てた。

 「ナニモンだこらァ!」

 五鬱慈が吠えた。ザヴは答えに詰まった。

 「その……俺もわからなくて……」

 「てめェ!」「おらァ!」

 筋肉隆々、蛍光色の髪のギャングスタが二人、果敢に襲いかかった。ザヴは拳骨を食らわせてギャングスタAの顔面を破壊し、ギャングスタBの頬を打って勢いを止め、腹を殴って内臓を破裂させた。

 「嫌ァァァァ!」

 美余が絶叫した。イビは美余とザヴを交互に見た。

 「エッ、え、どうしよ、わたい、どうしよ」

 「そりゃお前。逃げるんだよ!」

 「逃げ……」

 イビは一瞬考え、頷いた。

 「わかった」

 ザヴは出口方向を振り返った。

 「あああ、こっちダメか」

 ドカドカと黒服が走り込んできた。DJブースの向こうで、五鬱慈がザヴを指差した。

 「そいつ殺せ! とりあえず!」

 ザヴとイビと美余は奥へ走った。

 「これ、めちゃくちゃヤバいやつじゃん!」

 イビが叫んだ。奥へ。奥へ。奥へ!

 「女と逃げるぞ!」「なんだアイツ!」「キチガイだよキチガイ!」「座井悟くん! 座井悟くん呼んでこいよ!」「五鬱慈くん何これ!」「殺っていいの?」「待てやコラ!」「ウラァ!」

 叫び合うトライバル・タトゥーまみれの犬歯金歯ギャングスタ達がファック室から飛び出し、ザヴを囲むように走ってくる。

 「死ねオラッ!」

 立ちはだかったギャングスタCが繰り出すバタフライナイフをザヴは横に躱し、腹と顔面にパンチを当てて倒すと、ストンピングでとどめを刺した。そこへ走り込んだギャングスタDが鉄パイプを振り下ろした。

 「痛てェッ!」

 肩を殴られ、ザヴは意外そうに呻いた。

 「オイ、痛てぇぞ!」

 彼はイビを見た。イビは眉をしかめた。

 「当たり前じゃん」

 「オラァ!」

 もう一撃、鉄パイプが叩き込まれた。ザヴは膝から崩れた。

 「オラッ!」「コラァ!」

 更に一発! 更に! ザヴは殴られ、血を流しながら転がり、プールに落水した。美余が悲鳴をあげた!

 「嫌ァ!」

 「何? やった?」

 五鬱慈がやや遠くから声をかけた。

 「楽勝ッスね!」

 ギャングスタDが振り返り、サムアップした。ザヴはギャングスタDの足の甲に先ほどのバタフライナイフを突き刺した。

 「アアアアアイ!」

 絶叫する男の足首をザヴの手が掴んだ。そのまま水に引きずり落して這い上がり、鉄パイプを奪うと、ぼんやり立っていた他のギャングスタ達の脳天にフルスイングして頭を砕いた。

 「何度も殴りやがって」

 濡れた髪を神経質に2:8分けにすると、ザヴはイビと美余を引き連れ、プール脇を横切って、DJブースを飛び越え、五鬱慈のもとへ向かった。後ろの連中は銃で撃つのを諦めた。五鬱慈ら仲間たちをフレンドリーファイアする事になるからだ。

 「なんでなんで? なんでなんで?」

 五鬱慈は半笑いで後ずさる。ずぶ濡れのザヴは五鬱慈の首を掴んで持ち上げ、壁一面のガラスに叩きつけた。KRAAAASH!

 「アウアアア!」

 ガラス片と血にまみれて悶絶する五鬱慈をまたいで、3人はベランダに出た。屋外、風が下から吹き抜け、ザヴは黒髪をしきりと斜めに撫でつけ、シャツのカフスを直した。

 「何階だ?」

 ザヴはイビを見た。

 「何階?」

 イビは美余を見た。

 「わからないよ!」

 美余は身を乗り出した。

 「50階ぐらいかな……」

 「じゃ、行くか」

 ザヴはイビを右脇に、美余を左脇に抱え上げた。美余は絶叫した。イビは暴れた。

 「オイ、何すんだヨ!」

 「この高さなら平気だ」

 ザヴは下の道路を見下ろした。

 「殺せ! コロセ!」

 五鬱慈が叫んだ。追加ギャングスタ達が向かってくる。ザヴは思い切り息を吸い込み、手すりを飛び越えて高く跳んだ。自殺行為だ。誰がどう見ても! 二人を両脇にかかえたまま、ザヴは真下に落ちていった……。

 「ああああああああ!」「死ぬ! バカ! 死ぬ!」

 「舌噛まねえようにしろ!」

 落ちながらザヴは言った。

 「平気だ。安心しろ。なぜって俺は」

 KRAAAAASH!

 ザヴはアスファルトに衝突した。落下衝撃で両脚が複雑骨折。内臓が破裂。心底意外そうに血を吐く。イビと美余は彼の身体がクッションとなって無事だった。


2

 ピッ。……ピッ。……ピッ。ピッ。

 闇の中、集中治療室のベッドの横、忍び込んだイビが顔を上げ、心電図の定期的な揺らめきと電子音の照り返しを受けた。ザヴは目を開き、閉じ、2分後、また開いた。目だけを動かし、イビを見た。

 「……」

 「おまえはアホか」

 イビは吐き捨てるように言った。ザヴは呻いた。

 「……こんな筈は」

 「わたいと美余ちゃんが無傷だったから許してやるけど、もし一緒にブッ潰れてたら、来世も祟るぞ」

 「絶対おかしい」ザヴは言った。ピンク色の顔に手を当てる。「俺は念力が使えるし、武器の召喚も出来る。空も飛べるし……」

 「妄想狂だね」

 「おかしいと思わないか」ザヴは横に顔を向けてイビを見た。「どんどん薄れていってる。パワーも、記憶も。鉄パイプで殴られた時も、めちゃくちゃ痛かった」

 「そりゃ痛いよ」

 「痛くないんだって。普通なら!」

 押し問答の様相を呈してきた。

 「イビ、確認するが……お前と俺は知り合いだよな」

 「わかんないよ」

 「俺はお前と、少なくとも、赤の他人じゃない実感みたいなのがある」ザヴは言った。「お前はどうだ」

 「まあ、あるね」イビはしぶしぶ頷いた。「それに、とにかくあそこにいたらマズかったし、助けてくれた事に感謝はするわさ」

 「いいか」ザヴは強調した。「お前も俺と同様、この世界に何故いるのかが曖昧だ。記憶も断片化されている」

 「わたいは昔からTOKYOUで暮らしてるよ。ワンルームもNAMISUGIに借りてるし……」

 「でも、なんであのビルに水着で居たかはわからんのだろ?」

 「うーん」

 「NAMISUGIで、仕事は何をやって生活してたんだ」

 「うーん……」

 「たぶんお前、この世界に来たのはそう昔の事じゃない筈だ。お前は多分、あそこでヤバい事になりかけてた。で、俺はあの時はじめてこの世界に入り込んだ。TOKYOUに。お前を助けにな。だけど、そこに至るお互いの記憶が曖昧だ。理由はわからんが、俺とお前が接触を持った事で、何らかのコンフリクトが生じて、お互いの記憶やら何やらが……」

 ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。

 40秒後、静まり返った病室に、巡回ナースが入ってきた。

 「鎮痛剤の注射時間ですよ」

 ナースは呟き、注射器を取り出した。鎮静剤? 否、それは筋弛緩剤だ! ナースは注射器を逆手に構え、シーツを掴んだ。

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